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龍帝記  作者: 久万聖
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対オスマル帝国戦 謀略の発動

戦端を開いてより五日。


バニパルは言いようのない違和感を感じていた。


敵指揮官はデックアールヴのエストレイシア。

これはビンツア、パルメラ両王国に龍王国(シヴァ)が攻め込んだ時に確認している。


そしてエルフとドワーフ、獣人族、鬼人(オーガ)族の存在は確認されている。


それなのに、この戦いでは極少数の獣人族とエルフしか確認できていない。


それはいったいどういうことか・・・。


「エルフは、おそらくは森の中で控えているのでしょう。」


バクー・アクルの言葉だが、エルフは理解できる。

ドワーフも、工作兵として表に出てこないのは理解できる。


だが、獣人族と鬼人族はどうか?


特に鬼人族の戦闘能力は計り知れない。

それなのになぜ出てこない?


なぜ?


「まさか、この場にいない?」


そんなことがあり得るのか?

寡兵をあえて分散させるなどということが。


バニパルは強い違和感を覚えたまま、この日も攻撃を命じた。






☆ ☆ ☆






一方のエストレイシアは、リュウヤから出された課題の答えに気づきつつあった。


それは人間族の創意工夫の能力と、その汎用性の高さ。


人間族の身体能力は鬼人族はおろか獣人族にも及ばない。

魔力は両アールヴはもちろん、エルフたちにも及ばない。


だが、基本的な身体能力はエルフたちを上回り、魔力は獣人族を上回る。


そして訓練を施せば、ある一定のラインまでは高めることができる。


なによりもその短い寿命に反する、生への執着の強さと団結力の強さ。

これだけは、どの種族よりもはるかに強い。


そして、エストレイシアは自軍の後方にて、新たな人間族の部隊が訓練・編成されていることを、伝令としてやってきた天狗(てんこう)族のナライより報告される。


「新しい軍?」


エストレイシアの疑問にナライは答える。


「ビンツア王国正規軍の中から、共に戦いたいと言われる方々が多数おりまして。

彼らを鬼人族が訓練を施し、そして一定レベルにあると判断された者たちを選りすぐって編成したものでございます。」


なぜビンツア王国正規軍が参戦することを決意したのか?


その説明を求めるエストレイシアに、ナライが答える。


ビンツア王国正規軍が参戦を決意した理由は主にふたつ。


そのひとつは龍王国軍が攻め込む前まで行われていた、オスマル帝国進駐軍の行動にある。


アルテミシアら翼人族を捕らえるために、勝手に検問を行い、ビンツア王国領民への暴行、略奪を行う。


それに抗議すれば、本国の威を借りて圧迫する。

やりたい放題やってきたことのツケが回ってきたということだ。


そしてもうひとつ。


「エストレイシア将軍は、この地の通称をご存知でしょうか?」


「通称?確か、"血塗(ちまみ)れの森"だったと、陛下から伺っている。」


「その由来はご存知でしょうか?」


「いや、そこまでは知らない。

名前から察するに、大きな(いくさ)でもあったか、それとも虐殺があったかのどちらかなのだろう。」


「はい。この地で、200年ほど前に虐殺が起きております。

オスマル帝国による、ビンツア国民の。」


当時、属国となりつつあったビンツア王国で、属国化に反対する大規模なオスマル帝国への抵抗闘争が起きた。


その抵抗闘争に手を焼いたオスマル帝国は、その首謀者たちに属国とはしないと確約し、会談を持つことにした。

無論、これは謀略であり、会談のために現れた首謀者たちを捕らえると、すかさず抵抗軍の本拠地に攻め込み、一網打尽にした。

その時に捕らえた者たちを処刑したのがこの森であり、それが血塗れの森の通称を決定づけた。


「処刑された者たちは、5万とも10万とも言われております。」


10万はさすがに多すぎるだろうが、仮に5万とした場合でも、ビンツア王国国民のほとんどが、親類の誰かを殺されたことになるだろう。


それだけに、この地でなにかが起きれば、ビンツア王国の国民の耳目を集めることになる。


「そういうことだったか。」


ようやくエストレイシアは、リュウヤのつけた縛りの理由を理解する。


この「血塗れの森」を主戦場としたのは、ビンツア王国国民の耳目を集めるため。

そして、人間族を主体とさせたのは、オスマル帝国の大軍を相手に戦っているその姿を見せることで、ビンツア王国国民の奮起を促すため。


当然、そこにはリュウヤの意を受けた天狗族の暗躍もあるだろう。


だが、気になることがひとつある。


「戦後はどうするつもりなのだ?」


ナライはニヤリと笑う。


「すでに適当な人物を見つけ出しております。」


「どのような人物だ?」


「200年ほど前に処刑された首謀者のひとりにして、抹消された王族の血を引く方にございます。」


なるほど。200年前の抵抗闘争に参加した王族がおり、その王族の子孫はオスマル帝国への見せしめとして、王族から外されたと。

その子孫を探し出して王位に就ける。


少なくとも、龍王国に敵意を持つことは無くなるし、対オスマル帝国同盟として、セルヴィ王国との連携も可能になり得る。


「よくも、そこまで考えたものだ。

それは、アルテミシア殿を受け入れた時には、すでに動き出していたことなのだろうな、おそらくは。」


その言葉にナライは答えない、言葉にしては。

ただ、その表情が雄弁に物語っている。


「キュウビ様がお仕えすることを決断した理由が、よくわかるというものです。」


自分たちの力を、フルに活用してくれるような存在など、そうそういるものではない。


「まったく、忘れていたよ。私が陛下に仕え始めた頃に感じた思いを。」


あの頃、このナライと同じことを思ったものだ。

しっかりと扱き使われることになるだろうと。


「ところでナライ。謀略はこれだけなのか?」


「まさか。そんなわけありませんよ。」


ナライはそう言って、一部の謀略の内容を話し始めた。




ナライは風の和名のひとつです。

=ならい  冬に吹く強い風。東日本の海沿いの地でいい、風向きは地方によっていろいろ。ならい風。[ならひ・ならい]


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