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龍帝記  作者: 久万聖
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束の間の休息

予想以上の被害に、バニパルの表情はとても苦いものとなっている。


防御陣地を構築しての徹底した防御戦術。


大量の弩を活用しての間断ない攻撃に、次々と倒されていく兵士たちの様子を報告されて、この場にいる者たちの表情も苦いものへと変わっていく。


「小型の、その連射できる弩とはどんなものだったのだ?」


その弩を現場で見ていたフィロパトル将軍が手振りを交えて説明する。


「木の箱のようなものがついており、それについている回転機をこうやって回すと、次々と矢が出る仕組みになっているようでした。」


龍王国の新兵器ということだろうか?

いや、新兵器というならもうひとつ。

あの爆発するものはなんだったのだろうか?


「爆発するもの、あれがなんなのかはいまだにわかりません。」


フィロパトルの言葉に、


「魔法ではありませんか?敵国には、魔法を得意とする種族も多数いると聞き及んでおります。」


たしかにその通りだ。

バニパルは従軍している人間の魔術師部隊の指揮官を見る。


「ラオディケ、お前の見解はどうだ?」


ラオディケと呼ばれた魔法使いは、少しの間考え込む。


「現物を見ないことには、なんといってよいのかわかりません。

龍王国(シヴァ)は、魔術研究が盛んだったパドヴァ王国を手中にしております。

ですから、そういう魔術兵器であってもおかしくはありません。」


「すると結論は・・・」


「はい、わからない、それが結論です。」


結論はすでにわかっていたため、落胆する者はいない。


「それらを鹵獲できれば、分析もできるのだろうな。」


バニパルの言葉に皆が頷く。


「そうは言っても、まずは勝利することが優先。

敵の新兵器のことはその後ですな。」


そう締めくくったのは、バニパルの信頼する副将アブー・バクル。


「その通りだ。目的を取り違えることのないようにせよ。」


バニパルの言葉で、戦況報告から明日の作戦会議へと変わっていく。






☆ ☆ ☆






「緒戦は完勝といったところですな。」


副官ドルアの言葉に、エストレイシアは苦笑しながらも頷く。


「予想以上の結果だ。皆も、まずはしっかりと身体を休めるといい。」


森の中に(しつら)えた陣屋の中の会議室で、軍議を開いている。


まずはその感想が口々に出されている。


「あの小型の弩、見事なものでしたな。」


連射式の弩はその歴史は古く、史記の記述によれば秦の始皇帝がそれを用いたとされる。


ただ、日本で有名なのは三国志の登場人物「諸葛亮」が発明したとされるものだろうか。

ただし、諸葛亮が発明したとされるのは足元のペダルを踏むことによって射出するものだったとされる。


龍王国においては、リュウヤが簡単な図面を書いてドワーフがそれをもとに作成している。


「それに、あの爆発する甕。あれもたいしたものです。」


リュウヤはエストレイシアに縛りをつけているが、それと同時に新兵器の使用については一切の縛りを外している。


言ってしまえば一種の実験場としているのだ。


この戦いに参加しているドワーフの工作兵たちは、使用した者たちに不具合はないか確認をしている。


「まだまだ使っていないものはあるが、基本的には守りの兵器が多いですね。」


まだ出番のないアンセルミが、用意されている兵器の感想を述べる。


「それは仕方あるまい。今回は守勢が基本戦略だからな。」


エストレイシアがそうたしなめる。

そう話しながら、エストレイシアは別のことを考えている。


人間族の適性。


それを探しだすようにと、リュウヤに命じられているのだ。

その適性がなんなのか、それがまだわからない。


「明日は、どういたしますか?」


ドルアの言葉に現実に引き戻される。


「相手次第だ。だが、しばらくは正攻法を続けるだろう。」


兵力差も大きく、相手にはそれ以外の手段を取る理由がない。今のところは。


正攻法以外の手段を取る時は、よほどの打撃を受けた時か、なんらかの事態が発生した時のどちらか。


「こちらもやることは変わらない。ただ、敵の攻撃がより苛烈になることは覚悟しておけ。」


龍王国の軍議はこれで終わる。






☆ ☆ ☆






龍王国軍の兵士たちの精神状態は高揚している。


緒戦とはいえ死者はひとりもおらず、負傷者も軽傷者が20名ほど。


完勝と言っていい状況に、高揚しない者などいない。


だが、指揮官たちは手綱を締めることを忘れない。


「浮かれるのもいいが、浮かれすぎるんじゃないぞ?」


「酒を飲むなとは言わんが、ほどほどにな。」


そう言って回っている山羊種羊人族と狼人族の指揮官は、人間族の士気の高さを感じている。


そう簡単に負けることはない。

いや、あのエストレイシアの訓練を受けてきたのだ、ここにいる人間たちは。

負けるどころか、勝つことも可能だろう。


ただ、そのためにはしっかりと休息をとらせる必要もあるだろう。


「それにしても、まさか人間族を率いることになるとはな。」


獣人族たちは感慨深そうに口にする。


神聖帝国との戦いで数多くの人間たちを殺し、それ以上に仲間を殺された。


それが龍王国(このくに)に来たら、その人間族を指揮することになってしまったのだ。


「まったく、訳がわからんものだな、運命というやつは。」


獣人族たちは互いに顔を見合わせて笑った。






☆ ☆ ☆





翌日早朝。


オスマル帝国軍は攻撃を開始する。


正面から堂々と正攻法でもって。


そして、エストレイシアも下知を飛ばす。


「対処は昨日の通り!各自、油断してはならん!!

絶対にだ!!」


重ねて注意を呼びかけたエストレイシアに、兵士たちも決意を新たにする。


昨日の戦いは緒戦に過ぎず、本番はこれからなのだと。



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