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龍帝記  作者: 久万聖
352/463

対オスマル帝国 序盤戦

バニパル将軍麾下の軍10万。


流石にエストレイシアも正面からぶつかる気はない。


ビンツア王国とオスマル帝国の国境に広がる、広大な常緑樹林の中に陣を張り、寡兵の全容を見せないようにしている。


「徹頭徹尾、自分たちの姿を隠すか。」


バニパルはエストレイシアの意図を見抜いている。

寡兵の全容を見せないことでこちらを惑わし、また森林の中に陣を張ることで、大軍の利点を潰しにかかっている。


それだけではない。

龍王国(シヴァ).の軍にはエルフが多数いるという。

そのエルフの知識を活かした(トラップ)も多数あるのだろう。


思案するバニパルに、麾下の将軍たちは一気に攻勢に出ることを主張する。


「敵の予想兵力は最大でも2万。

森の中に籠っているならは、狩の要領で敵を炙り出してやればよいではないか。」


そういった声が多数を占めており、無碍にすることはできない。


それに、一度は相手とぶつかって力量を知らなければならないのだ。


「アッシュール・ウルバト将軍。フラオルテス、ニカテル、フィロパトルの三将とともに攻勢をかけよ。」


名を呼ばれた四将は、バニパルに一礼するとすぐに出陣するべくこの場を離れる。


四将を見送ったバニパルは、ふと視線を地図へと移す。


その地図には森の名前は記載されていない。


だから彼は気づかなかったのかもしれない。


この森をビンツア王国の国民がどう呼んでいるのかを。


「流血の森」


それがビンツア王国国民のこの森の呼称であり、その呼称の由来をバニパルは思い返すこともなかった。






☆ ☆ ☆






今回の戦いにおいて、エストレイシアはふたつの大きな縛りをリュウヤから受けている。

ひとつは人間族を中心にして戦うこと。

そしてもうひとつがこの森を主戦場とすることだ。


その理由もリュウヤから説明されているが、本当にそれがうまくいくのかは半信半疑である。


「それができれば、オスマル帝国は戦うどころではなくなる。」


とのことだが、リュウヤ陛下は何を目論んでいるのだろう?


天狗(てんこう)族のお陰で、色々と裏工作がやりやすくなった。」


とも語っていたので、なんらかの謀略を巡らしていることは理解できる。


「考えても詮無きことか。」


そう呟くエストレイシアに、敵がこちらに進軍してきたことが伝えられる。


「敵襲です。数はおよそ2万から2万5千。」


今回の戦いで副官としているエルフのドルアの報告だ。


「まずは小手調べといったところだな。」


報告を受けたエストレイシアは、涼しげな笑みを浮かべている。


「まずは予定通りだな。想定通りの行動をとるよう、全軍に伝えよ!」


そう指示を出すと、自身も戦闘状況を把握するべく設営された櫓に登っていった。






☆ ☆ ☆






オスマル帝国軍は、よほど自信があるのか正面から堂々と進軍してくる。


だが、エストレイシアのいる櫓からは、その後方に騎兵隊が控えていることが見て取れる。


正面にこちらを引きつけ、その間隙を縫って騎兵隊を突入させる心づもりなのだろう。


「正攻法だな。」


エストレイシアは呟く。

相手のこの動きも想定内だ。


龍王国軍は森の外に構築した土塁とその前に掘られた幅20メートルの空堀。その空堀の前に構築された馬防柵によって守られている。


土塁の上に龍王国軍兵士は弩を手にして待ち構える。


「引きつけよ!」


指揮官となっている山羊種の羊人族が、先走って弩を撃たないように下知をだす。


オスマル帝国軍の先頭部隊が、距離100メートル内に入ると同時に、


「撃て!」


号令をかける。


一斉に千を超える矢が先頭部隊に向けて遅いかかる。


次々と倒されていく兵士たち。


その矢に矢羽がないことを認めた下級指揮官たちは、


「怯むな!これは弩だ!次の矢まで時間がかかる。その前に敵に取り付け!!」


そう叱咤し、その言葉に奮起した兵士たちは、龍王国軍のいる土塁まで駆けていく。


通常の運用であれば、弩は次の矢の装填まで時間がかかる。

それを、龍王国軍は3人一組の運営で欠点を克服している。


ひとりが撃ち、ひとりが弦を引き、ひとりが矢を装填して射手に渡す。


そうすることで次の矢を放つまでの時間を大幅に短縮している。


想定外の掃射を浴び、オスマル帝国軍は被害を増大させる。


それでも、なんとか空堀前の馬防柵まで取り付く。

ここまで近づけば、たとえ空堀があっても弩は使えない。

20メートルの距離ならば、手槍(ピラム)の有効射程になる。

いかに運用によって掃射速度を上げても、それには限度がある。


だが、オスマル帝国軍の目論見はすぐに破れる。


弩兵が一旦下がったと思うと、今度は小型の弩を持った兵士が現れる。


その弩には見慣れぬ装置がつけられており、回転機(ハンドル)が付いている。

それがどういった装置なのか訝しむ暇もなく、龍王国軍は回転機に手をかける。


小型の弩から放たれる矢は、それまでのものよりも小さく威力も小さい。

だが、間断なく矢を放ち近づく隙を与えない。


しかも、この小型の弩も3人一組で運用しており、まさに間断なく矢が襲いかかってくる。


「このままではまずい。一旦後退せよ!」


先頭部隊の指揮官フラオルテスは、指揮下の軍に後退を命じる。

追撃に備えつつ、自ら最後尾に立って後退の指揮を執るフラオルテスだが、意外なことに追撃はなかった。


「追撃して来てくれれば、一矢報いてやったものを。」


フラオルテスはそう口にするが、追撃して来ないことに敵の指揮官の有能さを感じる。


「ウルバト将軍に伝令を出せ。敵は我が方の波状攻撃に備えている模様。注意されたし、とな。」






☆ ☆ ☆






第2波として攻勢に出たのは、フィロパトル将軍。


派手な戦績はないが、安定した能力を持つ将軍としてオスマル帝国軍中に知られている。


フィロパトル将軍もフラオルテス同様に、馬防柵まで取り付くことに成功する。


この時、龍王国軍は弩用の矢が尽きたのか、普通の弓矢を使用している。


フィロパトルの部隊は、先頭部隊が残した味方の死体を脇目にしつつ空堀に降りて、土塁へと取り付いていく。


それを空堀に降りない者たちが、弓矢を使って土塁上の龍王国軍を牽制して援護する。


土塁に取り付いた者たちが、半分ほどまで登ったところに、火のついた紐が伸びている小さな陶器の丸い(かめ)が転がり落ちてくる。


それを確かめようとした瞬間、それは爆発する。


ただ爆発しただけではない。

中に入っていた釘や陶片が爆発とともに飛び散り、周囲の者たちを傷つける。

それだけではない。近くで爆発を聞いた者は、その爆音で聴覚を失い、空堀の中に転がり落ちていく。


その様子に気を取られたオスマル帝国軍兵士に向けて、同様のものが投げ込まれる。


次の瞬間、阿鼻叫喚の惨状を示すことになる。


フィロパトルはその惨状に暫し呆然となる。


そこに敵右翼に攻撃を仕掛けるため、レオーネ・カヴァッリ指揮の騎兵隊1千が出撃する。


レオーネ・カヴァッリ指揮の騎兵隊は、呆然としていたためにフィロパトルの対応が遅れたこともあり、痛撃を与えることに成功する。


フィロパトルは堪らず後退を命じる。


そして、今回もレオーネ・カヴァッリは追撃をせずに引き上げる。


だが、バニパルは勝ち逃げを許さない。


このことを予測していたかのように、遊兵となっていた騎兵隊を差し向けてきたのだ。


レオーネ・カヴァッリは敵騎兵隊の追撃を確認したが、帰還することを優先させる。


そして、代わりに敵騎兵隊に対するのは狼人族に指揮された人間族の騎兵隊15百。


それに対して敵騎兵隊はおよそ3千。


龍王国騎兵隊はその面前で横一線に並び、弩を一斉に放つ。

そして、その矢を受けて敵騎兵隊が崩れたことを確認すると、その崩れた地点へ向けて一点突破を図る。


オスマル帝国騎兵隊は、抵抗虚しく突破を許す。


突破した龍王国騎兵隊はそのまま右に旋回して、戦線離脱していく。


この時すでに、オスマル帝国騎兵隊に追撃する力はなく退却する。


この日の戦闘は、こうしてオスマル帝国に多大な損害を与えて終了した。



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