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龍帝記  作者: 久万聖
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オスマル帝国と翼人族

オスマル帝国北部の町エレバノ。


この町と近郊の村々の住民は、現在の状況を戸惑いを持って見ていた。


事の始まりは、3年前に赴任してきた執政官シャフルバラースの、翼人族の持つ水利権への介入から始まる。


アララト山脈に水源を発する河川は、翼人族が管理して必要とされる地域への水路を作っていた。


周囲を小高い丘に囲まれたエレバノとその周辺には、地下水路(カレーズ)を作って水を届けていた。

そのおかげで荒地ばかりだったエレバノ周辺は、オスマル帝国でも有数の穀倉地帯へと生まれ変わった。

作られるようになったのは、小麦等の穀物だけではない。

水を豊富に手に入れられるようになり、果樹園も作られるようになり、有力な換金作物となっていたのだ。

穀物と果樹園。

そのふたつを求めて商人が訪れるようになり、エレバノとその周辺は益々栄えていったのである。


そのエレバノ周辺地域の執政官として赴任してきたものは、任期を勤め上げた頃には懐を豊かにして帰っていく。

その豊かな実りのために、極々当たり前の統治を行えば、俸給を遥かに超える臨時収入が得られたのだ。

簡単に言えば、この地で作られた作物を俸給で購入し、それを別の場所に持って行って売る。

それだけで2割の利益になり、それを一期5年の間に毎年行えば、多少の相場変動があるにしても十分過ぎるほどに、懐を潤すことができた。


だが、シャフルバラースはそれだけでは満足できなかった。

より懐を潤すため、様々な改悪を行った。


まず最初に手をつけたのは、商人たちへの取引税の値上げ。

当然、商人たちは抗議の声をあげたが、それでも利益があるためか、大きなものとはならなかった。

これで味を占めたのか、シャフルバラースは次々と増税をしていく。


人頭税の適用年齢引き下げ、地税の増税。

各家の間取りや窓の数に応じた課税など、まさに取らんがための課税を行なっていった。


そして、このシャフルバラースの目についたのが、地下水路(カレーズ)だった。


地下用水路の使用税を課したのだ。


これにはエレバノとその周辺地域の住人から、盛大に非難の声があがった。

水は生活に欠かせないだけでなく、農業にも欠かせない。

それだけではない。

この地下用水路を設置したのは翼人族であり、オスマル帝国は関与していない。

そのため、翼人族に利用権を支払っており、慣習としてこれまでオスマル帝国の執政官も認めてきたのだ。


シャフルバラースの行為を認めてしまうと、翼人族はこの地下用水路への水の供給を止めてしまうかもしれない。

もしそんなことをされたら、この土地を捨てなければならなくなってしまう。


シャフルバラースは住人たちの言葉に耳を傾けることなく、地下用水路に軍を派遣する。


軍の内部にも、このことが翼人族との関係悪化を招くと危惧する声もあったのだが、シャフルバラースは反対する者を悉く牢に入れてしまう。


その結果、地下用水路を巡って翼人族との紛争が勃発することになる。


当初は地下用水路を管理していたのが、普通の人造生命体(ホムンクルス)だったため、シャフルバラースの送った軍が勝利したのだが、翼人族もすぐさま戦闘用人造生命体を送り込み、地下用水路を取り返す。


この様子を見た住人たちは、このままでは戦争になってしまうと、代表者を帝都に送って陳情させようと派遣したのだが、この動きを察知したシャフルバラースが途上の道で全員を捕えて斬罪にしてしまう。


この結果、さすがの住人たちも怒り、反乱を起こすことになる。


この住人の反乱に驚いたシャフルバラースは、帝都に住人の反乱(・・)を伝え、その背後に翼人族がいると報告する。


こうして、オスマル帝国と翼人族の紛争が勃発したのである。






☆ ☆ ☆






「馬鹿馬鹿しい。」


この紛争の経緯を翼人族と、翼人族の勢力下にある地域まで逃げ込んできたエレバノ周辺地域の住人たちから聞いた、トモエの感想である。


「そのシャフルなんとかってのを、さっさと殺せばよかったじゃねえか。」


率直すぎる物言いに、クリュティアは苦笑し、住人の代表者は唖然としている。


「そうはいいますが・・・」


抗議の声をあげかけるが、トモエの言葉がそれを遮る。


「お前たちはどうしたい?いや、どうする気でいるんだ?」


このままこの地に逃げたままでいるのか、それとも戦って自分たちが切り拓いた土地を取り戻したいのか?


「逃げ込んだままでいいってんなら、手は貸せないし貸さない。

だけど、取り戻すために戦うってんなら、私たちは手を貸す。

どっちを選ぶんだい?」


トモエは二者択一を迫っている。

逃げ込んだままなら、これから戦って得た土地は自分たち龍人族のもの。

だけど、一緒になって戦うなら、その土地はお前たちが自由にすればいい。

お前たちが選ぶのはどちらか?


このトモエの言動を見てシズカは思う。


「トモエは随分とリュウヤ陛下に影響されている。」


と。


トモエの言葉は、この場にリュウヤがいたら絶対に口にする言葉だ。

トモエは、リュウヤ陛下に影響を受けていることを自覚しているのだろうか?


ふと、そんなことを考える。


トモエの言葉に騒ついていた人間たちも、いつしか話がまとまりつつあるようだ。


若い者を中心にして、戦うことに意見が集約されていったらしい。


「戦うんだね?」


トモエがその意思を確認する。


一斉に頷く人間たち。


「じゃあ、まずはお前たちが知っていることを教えな。

お前たちの中で戦う者の人数に、土地の地形。

オスマル帝国軍のおおよその兵力。

わかること、知っていることはなんだっていい。

それらを話し終わったら、腹拵えして作戦会議だ。

いいね!?」


トモエの言葉に巻き込まれたのか、人間たちだけでなく、翼人族の戦闘員たちも一斉に頷く。


そのトモエの活き活きした様子に、龍人族の面々は呆れる。


「どこに行っても、トモエはトモエね。」


周囲を巻き込んで士気を高める。

トモエの持つ不思議な才能。


「私たちもしっかりと聞いておかないと、トモエの無茶苦茶な作戦に付き合わされることになるよ。」


カスミの言葉に、龍人族の面々も人間たちや翼人族の説明に耳を傾け、時に疑問を呈したりしていく。


その様子を見てクリュティアはなぜか確信する。


この戦いに負けはないと。


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