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龍帝記  作者: 久万聖
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収奪

20万と号するオスマル帝国西方遠征軍10万。


その指揮官はエサルハドン・バニパル。


皇族のひとりにしてアルダシール7世の大叔父にあたり、帝国屈指の大貴族バニパル公爵家の当主である。


皇族の中においては、その生涯のほとんどを軍中で過ごすという異色の人物であり、もう70歳になろういうのに第一線に留まり続けている。


その才幹は衰えを知らず、現在では老練な宿将として知られる。


「気に入らんな。」


そのサルハドンは今回の出征に、そう感想を呟く。


「何がでしょうか?」


呟きを聞いた副官スレナスが、サルハドン・バニパル将軍に尋ねる。


「全てだ。」


吐き捨てるようにバニパルが返す。


そう、バニパル将軍には今回の戦いの全てが気に入らなかった。


いや、戦いの名目であるビンツア、パルメラ両王国の救援はいい。

それは宗主国たるオスマル帝国の義務ともいえる。


だが、そこに至る過程からして気に入らない。


紛争相手とはいえ、小国の者が小国の招きに応じたのを「けしからん」と捕らえようとして逃げられ、引き渡しを拒否されて攻撃して、反撃にあい叩きのめされる。


「客を引き渡すなどありえんことくらい、わかっていただろうに。」


そんなことをするよりも、帰国させてその上で堂々と戦えばよかったのだ。

そうすれば、少なくとも他国の介入は避けられた。


言ってしまえば、余計なことをして二方面作戦という負担増加を招いてしまったのだ。


「どうも、ここ最近の政治・外交は杜撰になっているように見える。

先々帝とは言わぬ。だが、先帝くらいの巧緻さは無くてはならないのだがな。」


自分の力に驕り、慎重さを欠いてしまっている。


「閣下。あまり口にされますと・・・」


スレナスがバニパル将軍を嗜める。


「そうじゃな。儂とて、陛下からの下命は全力で尽くすさ。」


スレナスの心配はわかる。


どうも、最近の宮中では自分を煙たがっているように感じられる。


事あるごとに苦言を呈し、皇帝を諌めようとする自分は、旧弊とみなされているようだ。


「今回の戦いが終わったら、引退して領地に引きこもることにするよ。」


排除される前に引退する。


「だが、そう簡単な相手ではなかろうな。」


情報によれば、龍人族は始源の龍の復活とともに力を取り戻したと聞く。

それだけで無く、王となったリュウヤという男の方針で、色々な種族を配下にしているという。

それらを指揮するのが、デックアールヴの戦巫女エストレイシア。


「敵兵力は1万以上としかわからないのだったな?」


「はい。森を巧みに利用して、その全容を把握できないようにしているようです。」


こうなると、龍王国(シヴァ)の軍を構成している種族とその割合がわからない。


考え込むバニパルだが、その時間は短かった。


「閣下!敵兵がビンツア、パルメラ両王国国境を越えて周辺の街や村を襲撃しているとの報告が入っております!!」


伝令が駆け込み、そう報告してきたためである。


「動いてきたか。」


先遣隊である騎兵5千が現地に到着するのは、だいたい4〜5日後。

到着したからといって、すぐに戦えるわけではない。


最悪、奇襲される可能性もある。


「全軍に伝えよ。これより全速を持って現地に向かう。

遅れる者はそのまま捨て置け。

最終的に駐屯地に予定しているカルラエに到着すればよい。」


そう全軍に命令を下すと、自ら騎乗して馬を走らせる。


敵に対して、「殴られたらすぐに殴りかえす」という姿勢を見せなければならない。


「続け!!」


バニパル将軍に遅れまいと、スレナスは部下たちを叱咤する。


遠征軍は大きく動き出した。






☆ ☆ ☆






エストレイシアは周辺の街や村を、なんの理由もなく襲撃させているわけではない。

そうは言っても、襲撃される側の住人にとっては迷惑この上ないことではあるが。


エストレイシアが狙ったのは食料。

徹底的に食料を奪い、建物に火をかける。


リュウヤが今回、この遠征に加わらなかったのはこのことを知っていたからである。

やはり現代人としての感覚を持つリュウヤとしては、民間人を積極的に巻き込む戦い方というものは受け入れがたい。

それが極めて有効なものであったとしても。

そんな者が、今回の戦いの場にいては間違いなく足を引っ張ってしまう。


だから、エストレイシアに全権を持たせて送り出したのだ。


一方のエストレイシアにはそんな呵責はない。


いかに敵にダメージを与え、撃破するかを考える。

そもそも、襲撃をされるのは彼らの為政者がだらしないからであり、その為政者を選んだ者が悪いのだ。


だから、恨むなら自分たちを守れないオスマル帝国を恨めばよいのだ。


さらにエストレイシアが徹底させたことがある。


それは、奪った物資を運ぶ先を一ヶ所に限定させたことだ。

しかもその姿をあからさまに見せている。


そして残されたのは食料も無く、家を焼け出された人々。


オスマル帝国遠征軍先遣隊が現地に到着した時に見たのは、着の身着のまま、飢えと渇きに苦しむ人々の姿をだった。

>いかに敵にダメージを与え、撃破するかを考える。

そもそも、襲撃をされるのは彼らの為政者がだらしないからであり、その為政者を選んだ者が悪いのだ。



この考え方は、日本でも戦国時代では一般的なものだったりします。

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