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龍帝記  作者: 久万聖
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憂い

「正式なものじゃないとは言っても、やっぱり堅苦しくてダメだ。」


会食が終わり、あてがわれた部屋に戻るとトモエはそう言って肩を回す。


「トモエはそうでしょうね。堅苦しいの嫌いだから。」


揶揄うようにシズクが言う。


「リュウヤ陛下に特訓してもらって、良かったわね。」


とはトウウの言葉だが、これには少し語弊がある。


リュウヤ自身が宮廷儀礼を身につけるべく、ウィラとキュウビの特訓を受けており、トモエはそれに付き合わされたのだ。


リュウヤ自身、これまで以上に宮中での付き合いが増える可能性が高く、また他国に招かれる可能性も高いのだ。


その時にリュウヤが恥をかくというのは、同時に龍王国(シヴァ)が軽く見られることと同義になる。

それを防ぐためにも、宮中儀礼を身につけなければならないのだ。


「付け焼き刃でも、なんとかなるものね。」


カスミが揶揄うが、


「私の隠された才能が目覚めただけさ。」


トモエが胸を張る。


「そう?じゃあ、帰国したら陛下のお供で各国を回れるように、特訓してもらわないと。

目覚めた才能がもったいないわよ?」


ヒサメに突っ込まれて、トモエが返答に詰まる。


その様子を脇目に、シズカはミーティアに声をかけて別の部屋に入っていく。


私的な会食とはいえ、マナーに汲々となっていた他の龍人族と違い、シズカは気づいていた。

フェミリンスの名を聞いて、翼人族の長老たちがどよめいたことを。


だから、普段よりリュウヤの側に仕えているミーティアに確認をしたかったのだ。


「フェミリンス殿に何かあるのか?」


と。


だが、ミーティアとしても答えられない。

何かがあることは気づいていたが、それを聞けるような雰囲気がなく、仮に聞いたとしてもリュウヤにはぐらかされたのではないかと思われる。


そのことを正直にシズカに答え、


「陛下に直接うかがう他はないのでは?」


そう付け加える。


「たしかに、そうかもしれない。」


シズカもミーティアの言葉に同意する。


「ミーティア、このことはしばらくは内密にしてほしい。」


「はい、わかりました。」


そのふたりのやりとりを、少し離れたところからファーロウが見ている。


「フェミリンス氏族の秘密、知ったらどうするのかしら?」


ファーロウとて全てを知っているわけではないが、それでも大まかなところは族長ライラや、彼女たちが仕える冥神ハーディから聞かされている。


夢魔族らしい艶やかな、それでいて悪戯っぽい笑みを浮かべてシズカとミーティア、そしてフェミリンスを見ていた。






☆ ☆ ☆






「リョースアールヴがいるとは聞いていましたが、まさかフェミリンスがいたとはね。」


クリュティアは大きく溜息をつきながら、そう口にする。


この場にいる長老たちも、腕組みをしながら考え込んでいる。


補佐長マリレナは、


「どういたしますか、クリュティア様。」


そう尋ねるが、


「どうしたものかしらね?」


答えを急かさないでとでもいうような、クリュティアの返事。


「クリュティア様。」


ディアネイラが堪りかねたように話しかける。


「フェミリンス殿は、そこまでの存在なのですか?」


その疑問に、長老たちが顔を見合わせる。


そして、そのうちの一人が大きく溜息をつくと、


「若いものは知らないか・・・」


そう口にして族長、クリュティアを見る。


「そう、ね。もう、教えてもいい頃合いなのかも知れないわ。」


クリュティアはそう返答すると、


「アルテミシアを呼びなさい。あの娘も知らなくてはいけない。

そして、その上であの娘に聞かなくては。

リュウヤという存在がどのような者なのか?

そして、今のフェミリンスは信用できるのかを。」


「わかりました。すぐに呼んで参ります。」


ディアネイラは一礼すると、アルテミシアを連れて来るためにその場を離れる。


その後ろ姿を見ながら、


「時がきてしまったということなのかしらね。」


クリュティアは呟きというには大きな声で口にし、長老たちは一様に頷いていた。

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