フェミリンスとクリュティア
フェミリンスたちはそれぞれに個室を与えられ、監視付きではあるが一定の行動の自由を与えられている。
そして、フェミリンスの部屋に集まって話をしていた。
「あまりにも陛下の予想通りすぎて、笑えてしまうな。」
トモエの言葉に、皆が苦笑する。
アルテミシアたちが捕らえられることから、自分たちが客人対応となることまで、まるで見てきたかのように予想してみせたのは、見事としか言いようがない。
「心理学の応用、そう仰られていましたね。」
彼女たちには"心理学"なるものが、どのようなものかはわからない。
だが、今回のことで相手の行動を予測するものなのだろうと、ある程度の理解はできた。
「陛下の予想では、この後はクリュティア殿と会談をすることになる、でしたね。」
シズクの言葉にフェミリンスが続ける。
「ええ、その通りです。そして、そこからが勝負だと。」
翼人族側としては、龍王国側がどこまで知っているのか?
どれだけのことを知っているのかを、探りにくる。
そこから先は、その場にいる者にしか判断ができない。
どこまで話し、何を話さないか。
最後にリュウヤはこう言っている。
「建前上はアルテミシアのサポートとして出すが、実際には彼女たちは何もできないだろう。
君が全てを纏めるのだと、そう覚悟しておいてくれ。」
と。
到着してすぐに捕らえられたところを見ると、最低でも軟禁くらいはしているだろう。
そう考えると、やはりリュウヤの言った通りに自分、いや、この場にいる自分たちが纏めなければならない。
責任は重い。
「気負わずに、でしたね。ミーティア。」
「はい、そうです。失敗したって・・・」
「陛下がなんとかしてくれるさ。」
ミーティアの言葉を引き継ぐようにトモエが言い、
「この場に陛下がいないのが残念だ。さぞや渋い顔をされたであろうからな。」
シズカがそう引き取る。
普段、口数が少ないシズカの冗談に、皆が驚き、そして大笑いする。
大笑いして緊張がほぐれた頃、クリュティアからの使いがやって来る。
「族長より、皆さま方とお話しがしたいと。」
「わかりました。それで、私たちは何名で行けばよろしいでしょうか?」
ミーティアが使いの者に問う。
「よろしければ全員でお越しください。族長より、そうお伝えするように言われております。」
全員といわれ、顔を見合わせるが否もなし。
「わかりました。準備が終わり次第、お伺いいたします。」
ミーティアがそう返すと、使いの者は退室する。
フェミリンスたちは旅装を解き、着替える。
今回は正式なものではないだろうから、正装までしなくてもよいだろうが、それでも失礼のない程度の服装は必要である。
着替え終わると、フェミリンスを主力とした戦いの場へと向かう。
族長クリュティアとの会食という戦場へ。
☆ ☆ ☆
会食の場。
龍王国側の10名に合わせるように、翼人族側もこの場に参加するのは10名。
それなりの役職を持つ者と、長老と呼ばれるような重鎮であることが、ミーティアには見て取れる。
そして、ミーティアが翼人族の参加者を観察したように、翼人族族長クリュティアも龍王国の使節を観察している。
龍人族にエルフ、リョースアールヴ。
夢魔族までいることを確認すると、クリュティアは呟く。
「予想以上に、多くの種族を従えているのね。」
と。
さらにそれぞれの者たちの力を、その振る舞いから推し量る。
この中で最も劣るのはエルフ。
ただ、そうは言っても、一定以上の力があることは感じられる。
そして夢魔族。
幻術は魅了の力を持ち、幻惑させる。
その能力に注意さえすれば、勝てない相手ではないだろう。
だが、6人いる龍人族は別格だろう。
自分たち翼人族が総力をあげても、返り討ちにあうのが理解できてしまう。
クリュティアの視線はフェミリンスへと移る。
この使節の代表だというリョースアールヴ。
魔力だけなら龍人族にも匹敵するだろう。
このリョースアールヴに微かな違和感を覚える。
わずかな観察の後に、その違和感の正体に気づく。
その目だ。
開いてはいるのだが、どこか焦点が合っていないように見えるその目。
「盲か。」
そう看破すると同時に、大きな疑問を覚える。
龍人族に匹敵する魔力を持つ、盲目のリョースアールヴ。
そんな存在はひとりしか知らない。
「私が龍王国使節の代表を務める、フェミリンスと申します。」
リョースアールヴの名乗りに、翼人族の長老たちの間に小さなどよめきが起きる。
そしてクリュティアも名乗り、握手を交わす。
「リュウヤという男、本気でこの者を仕えさせているのか?」
内心で大きな疑問を抱きながら。