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龍帝記  作者: 久万聖
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クリュティア

「アルテミシアの様子はどうでした?」


翼人族族長クリュティアは、報告に来たディアネイラに尋ねる。


「意外なほどに、大人しく縛につかれました。」


部下のカシアの方が暴れて手こずったほどであると、付け加える。


クリュティアは自分の背後に立つ、補佐長マリレナに視線を投げかける。

リュウヤが見たら、「まるで風紀委員長みたいな雰囲気」と評したに違いないほど、マリレナは硬質な空気を纏わせている。


そしてその声音(こわね)も、硬質なものだった。


「それは意外です。かの龍王国(シヴァ)に行ったことで、何か成長するような出来事があったのでしょうか?」


それはクリュティアにもわからない。

本人から話を聞く必要があるだろうが、それよりもまずは同行していた者から話を聞くことにする。


「リゼタを呼びなさい。」


マリレナはディアネイラにそう命じる。


一旦、場を離れたディアネイラが連れて来たのは、文官風の衣装を着た者。

リュウヤの前で、当初はアルテミシアと名乗った者だった。


「リゼタ。あの国でのアルテミシアの様子を話しなさい。」


「はい。では、お伝えします。」


リゼタは澱みなく話しはじめる。


このリゼタはもともと、クリュティアがアルテミシアに幼い頃から付けていた乳母兼教育係であり、言ってしまえば監視役でもある。


幼い頃からアルテミシアを知っているだけに、その変化を敏感に感じ取れる存在でもある。


リゼタが全てを話し終えると、今度は質疑が行われる。


族長の娘の教育係となるだけあり、リゼタはそれらに過不足なく、そして詰まることなく答える。


「短期間であの子をそこまで成長させるとは、そのリュウヤという人物は相当な男のようね。」


クリュティアはそう感想を述べると、腕組みをして考え込む。


その間に、ディアネイラとマリレナがリゼタに質問を続ける。


「龍王国の一行が戦おうとしなかったのは、そのリュウヤという人物がこうなることを予測して伝えていたからなのだな?」


「はい。」


リゼタもそのことを知ったのは、捕縛されてからのことである。

その時に龍人族たちはこう話していた。


「陛下の言われるとおりになったな。」


と。


「アナスタシア様の独断行為に、我々が何らかの罰を下すことを予測していたのか。」


ディアネイラはそう呟くと、クリュティアと同じように考え込んでしまう。


「まさかとは思いますが、貴女が全てを包み隠さずに話しているのも、そのリュウヤという人物の指示ですか?」


マリレナがリゼタに問いかける。

その質問に、クリュティアとディアネイラがピクッと反応する。


そう、このことこそがこの場において大きな疑問になっているのだ。

リゼタをアルテミシアに付けたのは、間違いなくクリュティアであり、リゼタはクリュティアに忠誠心を持っていることは間違いない。

だが、それと同時にアルテミシアの乳母兼教育係であり、アルテミシアを自分の娘のように可愛がっていたのも事実。

そして、アルテミシアが絶大な信頼を寄せていたことも。


それなのに、なぜここまで話すのか?


全てを話すことで減刑を求めているとも考えられるが、リゼタにはその素ぶりは見られない。


「間接的には、そう言えると思います。」


微妙な言い回しに、3人は顔を見合わせる。


「説明して、リゼタ。」


クリュティアがリゼタに促す。


「先程お伝えしました、龍人族たちが話していたという言葉、"陛下の言われるとおりになった"と、それを聞いて、アルテミシア様が命じられました。

問いかけられたら、全てを話すようにと。」


派遣した使節が捕らえられる可能性を考え、そして部下たちにそれを伝える。

それを聞いたアルテミシアが、全てを話すように指示した。

たしかに間接的にはリュウヤという人物の指示といえるかもしれない。


だが、それはアルテミシアがそれだけリュウヤという人物を信頼している、それか取り込まれたか。


アルテミシアと話をする必要がありそうだが、その前に龍王国の使節と話をする必要があるだろう。


「ディアネイラ、アルテミシアたちはどうしていますか?」


「各自、自室にて謹慎としております。」


「ではそのまま謹慎させてちょうだい。

リゼタの話を聞いたぶんには、アルテミシアには必要はないだろうとは思うけど監視を付けて。」


「わかりました。」


カシアのような直情径行な者もいる。

それを考慮すれば妥当なところだろう。


「当然だけどリゼタ、貴女も謹慎よ。」


リゼタはクリュティアに一礼すると、自室にて謹慎するためにこの場を退室した。






☆ ☆ ☆






「どう考えますか、ふたりとも。」


クリュティアはこの場に残っているふたりに、そう問いかける。


ディアネイラ、マリレナのふたりも、今はクリュティアの前の椅子に座っている。


その3人の前に飲み物を出したのは人型の人造生命体(ホムンクルス)


翼人族には女性しかおらず、この地には翼人族以外には人造生命体しかいない。


この地の過酷な環境に耐えられる生命体が、翼人族くらいしかいないのだ。

そして、種の保存として相手になるのはこの地まで辿り着くことができる、頑健な身体を持つ者に限られる。


それが、翼人族が種として生き残るために選んだ道なのだ。


そして、人造生命体を側に置いている理由。

生殖能力がない人造生命体を側に置くことで、純潔をアピールしているのだというが、実のところ翼人族たちにも正確な理由はわかっていない。

ただ、この過酷な環境の地での労働力として必要があることだけは確かである。


「リュウヤという人物。なかなかの大物なのだということは確かだと思います。」


ディアネイラはそう答える。


たしかにその通りだろう。短期間で、アルテミシアをあれだけ成長させたのだ。


「出入りの商人たちから聞いたことですが、かの王は人材登用が巧みであり、能力があれば種族も性別も関係なく登用するそうです。」


そのことは、使節の面々を見ればよくわかる。

しかも、女性だけの種族のところに送るため、使節も全員女性というのはこちらへの配慮だ。

それだけ細かな心配りができるというのは、なかなかのものだろう。


「会ってみたいわね、そのリュウヤという人物に。」


クリュティアはそう呟く。


だが、今は目の前のことを片付けなければならない。


「まずは、龍王国の使節に会うわ。マリレナ、準備をお願い。

準備ができたら、ディアネイラ。全員を丁重にお連れして。」


「わかりました。」


クリュティアの指示に、ふたりは異口同音に返事をするとすぐに行動に移す。


ふたりを見送り、クリュティアは再び考える。


龍王国はどこまで知っていて、どこまで介入するつもりなのか?


龍王国とオスマル帝国が戦闘状態に突入したことは、すでに報告があがっている。

その際に、翼人族(じぶんたち)の脅威であった飛竜騎士団なるものを打ち倒したことも。


狼を追い出すために虎を招き入れる、そんな事態にならないようにしなければ。


そのためにリュウヤという人物の為人(ひととなり)を知らなければならない。


使節からどれだけの情報を得られるのか、クリュティアは彫像になったように動かず、考え込んでいた。

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