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龍帝記  作者: 久万聖
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翼人族の国へ

「なにもしてないのに、なにか息苦しい。」


ミーティアが呟く。


その呟きを聞いたイルマタルが、


「これが陛下が仰られていた、空気が薄いということなのね。」


そう小声で言う。


他の者たちを見回すが、龍人族は息苦しそうな素振りを見せない。

また、夢魔族のファーロウも息苦しいようには見えないのは、空を飛べるからなのだろう。


では、フェミリンスはというと、こちらも息苦しい素振りがないのだが、なぜだろう?


「フェミリンス様は、息苦しくはないのですか?」


ミーティアは単刀直入に疑問をぶつける。


その疑問に、


「リュウヤ陛下から聞いていましたから。」


そう言うと、フェミリンスはミーティアの前に手をかざすと、魔力が少し高まっていき、それと同時に息苦しさが消えていく。


「イルマタル、貴女もでしょう?こちらにいらっしゃい。」


フェミリンスに呼ばれたイルマタルも、ミーティアと同じようにフェミリンスが手をかざすと、息苦しさがなくなっていく。


「いったい、なにをしたのですか?」


「空気を集めて、自分たちの周りに固定しただけ。

標高の高い場所では身体が慣れるまでは、そうした方がよいと陛下に教わったのですよ。」


このことを予測していたリュウヤ陛下なら、その対策を知っていて伝授していてもおかしくはない。


ん?


フェミリンス様は伝授されていたのに、自分たちは?


ミーティアとイルマタルは、互いに顔を見合わせる。


「リュウヤ陛下は、ふたりにも対策を伝えたかったが、ふたりが忙し過ぎて伝えられなかった。

だからフェミリンス、お前の方から伝授してやってくれと、そう言われていました。」


たしかに、今回のために自分たちは忙しかった。

引き継ぎから後任の者のための手引きの作成。

そのため、リュウヤ陛下に最後にお会いしたのは、出発の時。


それで陛下はフェミリンス様に、伝授する役目を託されたのね・・・。


あれ?


そうすると、フェミリンス様が忘れていたことに・・・?


そこまで考えがまわった時、


「ごめんなさい。私がうっかり忘れてしまっていました。」


フェミリンスが謝罪する。


その謝罪の言葉に、ミーティアとイルマタルは再び顔を見合わせる。


フェミリンス様でも、うっかりすることがあるのか、そう思うと気持ちが軽くなる。


そんな風に思った時、ファーロウがミーティアの服の裾を軽く引っ張る。


ファーロウを見ると、その視線はフェミリンスの手を指している。


そのフェミリンスの手を見て気づく。


その手は強く握られており、そんなフェミリンスは見たことがない。


ああ、そうか。


フェミリンス様も緊張しているんだ。

フェミリンス様はリュウヤ陛下にお仕えするまで、盲目であることを理由に大きな仕事は任されてこなかったという。

それが今回は、とても大きく責任も伴う仕事を任されたのだ。

さすがのフェミリンスも緊張を隠せないのだ。


ミーティアはフェミリンスの手に触れる。


フェミリンスは一瞬だがピクッと反応し、ミーティアに顔を向ける。


「大丈夫ですよ、フェミリンス様。

たとえ失敗しても、陛下がなんとかしてくれますよ。」


リュウヤが聞いたら、猛抗議を受けそうなことをミーティアは口にする。

フェミリンスはミーティアに微笑みかける。


「そうですわね。私が失敗したとしても、リュウヤ陛下がなんとかしてくださいますわね。」


そう口にしつつ、このことを聞いたらリュウヤが文句を言うだろうと思い、その光景を思い浮かべる。


クスッと笑ったフェミリンスを見て、


「そう、それですよ。気楽にいきましょう。」


フェミリンスはミーティアに手を引かれ、進んでいく。

彼女を補佐役に選んでくれたリュウヤに感謝しながら。






☆ ☆ ☆






フェミリンス一行は、アルテミシアに案内されて翼人族族長の住む宮殿へと進む。


龍化したシズクが降りた場所は、宮殿からそれほど離れた場所ではないはずだが、冬という季節的な寒さだけでなく、高地ゆえの風の強さも影響しており、想像を超えた過酷さを感じる。


「あそこが入り口です。」


アルテミシアの言葉に、一行は安堵の表情を見せる。

が、次の瞬間、アルテミシアの足下に矢が刺さる。


瞬時に緊張が一行に走る。


「それ以上近づけば、次はお前たちの眉間を貫くぞ!」


宮殿入り口の上ーアーチ状の門の上ーから、厳しい声が投げられる。

そこには数人の人影が見え、全員が弓を構えている。


「ディアネイラ!私です、アルテミシアです!

その弓を降ろしなさい!」


アルテミシアがそのリーダーらしき人物に、そう訴える。


一瞬、相手に動揺が走ったように見えるが、


「アルテミシア様、貴女にはクリュティア様より戻り次第、捕らえるようにとの命令が出されております。」


「なっ!?」


驚くアルテミシアら10名に対し、龍王国の使者10名に驚きは見られない。


そのことにディアネイラは不審な思いを募らせるが、言葉にしたのは別のこと。


「大人しく縛につくならよし、抵抗するならば容赦はしない!」


その言葉に反応するように、一斉に取り囲むように翼人族の戦士たちが姿を現わす。

その数はざっと見て30名以上。


戦うべきかどうか、そう考えるアルテミシアの背を、フェミリンスが軽く触れる。


振り返って自分を見るアルテミシアに、フェミリンスは軽く首を振った。


「わかりました。」


そう小さくフェミリンスに答えると、


「我々は抵抗はしない。だが、こちらの方々は自分たちがお連れした客人。

それ相応の対応を求めたい。」


そうディアネイラに伝える。


「わかりました。もとよりクリュティア様からはそちらの方々に危害を加えるなと、そう承っております。」


こうして、フェミリンスたちは翼人族の宮殿の中に入ることになったのである。

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