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龍帝記  作者: 久万聖
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ハーディとティアマト

アルテミシアらの出発と国境までの移動は、非常に速やかに行われた。


それは、同時にエストレイシアによる対オスマル帝国戦を想定した軍の移動があったためである。


その軍の移動の中に紛れ、ルマニア王国との国境の町オラデアに到着する。


エストレイシア指揮の軍は、もう少し手前のセゲドの町で留まっている。


オラデアの町でアルテミシアらは、すでに派遣されていたタカオら龍人族5名、オスマル帝国に潜入していた天狗(てんこう)族3名と合流し、オスマル帝国飛竜騎士団の動きについて、報告を受けることになった。


「飛竜騎士団及び、オスマル帝国の軍はビンツア、パルメラ両国に進駐しております。

そして、ルマニア、ブガリア両国国境にて、検問を行なっております。」


その報告に、


「信じられんな。他国の軍が検問をするなどとは。」


トウウの言葉に、皆一様に頷く。


「それだけ、オスマル帝国との結びつきが強いのでしょう。」


フェミリンスがそう口にし、ミーティアが補足する。


「セルヴィ王国からの情報ですが、両国の王妃は二代続けてオスマル帝国の皇女なのだそうです。」


その補足を聞き、


「首輪を付けられていると、そういうことか。」


そう口にしたのはヒサメ。

その名の由来である氷雨のように、冷たい口調である。


「飼い主に鎖で縛られ、少しでも抵抗したら軍という棍棒で殴られるわけね。」


そう言って嘲笑したのはカスミ。


「そして、オスマル帝国とやらは、私たちにも同じことができると自惚れている。」


そう締めくくったのがシズク。


彼女たちのやりとりに、タカオら男性陣は顔を見合わせて肩をすくめる。


「あまり、相手を侮らない方がいい。油断して足元をすくわれては、陛下に合わせる顔が無くなるぞ。」


一応、タカオは警句を発するが、あっさりと流される。


飛竜(ワイバーン)如きに手こずるようじゃ、子供のようなものよ。」


カスミの言葉に、龍人族の女戦士たちが頷く。


「まあ、タカオの言葉にも理はある。忠告として受け取っておこう。」


今回の部隊の隊長として任じられているトモエが、そう締めくくる。


「それよりもクンプウ(薫風)、敵の兵力やその配置などの情報はありませんか?」


副長として来ているシズカは、文字通りに静かな口調で問いかける。


「はい、こちらにあります。」


クンプウと名を呼ばれた天狗族は、仲間から一枚の紙を受け取りテーブルに広げ、


「時間が足りず、簡易的な地図しか用意できず、申し訳ありません。」


そう頭を下げる。


たしかに精緻とは言えないが、主要な箇所はしっかりと描かれており、十分に実用に耐えうるものだ。


「これだけ描けていれば十分だ。」


トモエはそう言うと、地図を見ながらクンプウの説明を受ける。


クンプウは、トモエたちに様々な情報を提供しつつ、この場にいる者たちを観察している。


族長キュウビの判断は正しいのかどうか。

それを自分の目で見極めるために。






☆ ☆ ☆






そこは仄暗い水底にある。


仄暗いはずの水底に、場違いな光を放つ宮殿。


光水宮とその眷属が呼ぶ内部で、ティアマトは珍しい客を前にしていた。


「まったく、いつ来ても(しつけ)がなっておらんのぉ、お主の子供らや眷属どもは。」


人型になっているところは初めて見るが、この存在感と浴びせてくる重圧感。そして自分の子供たちや眷属たちを全て殺すことなく叩きのめしておきながら、息切れひとつしていない、その力。


「久しいな、冥神よ。」


ティアマトは懐かしい知己を、訝しげに見ている。


それに対して、冥神ハーディは人型のままティアマトを見上げている。


ティアマトの体は虚ろな光の塊に包まれており、その実体は掴めない。普通の者たちには。


ハーディはゆっくりと視線を下げ、固定する。


ティアマトを包む光が徐々に薄くなり、本来の姿が顕になっていく。


巨大な竜に似た姿。


最初期に生まれた資源の龍らに次いで生まれたとされる、原初の神の一柱。


海水の神とされ、数多の生物を生み出した母神でもある。


「ティアマトよ、(うぬ)の子か眷属に、地上に手を出している者がおろう。すぐに手を引かせるのじゃ。

さもなくば、その者は我の管轄下にある世界に至ることになる。」


そのハーディの言葉に、ティアマトは哄笑でもって答える。


「どこの者が、我が子らを倒せると?

竜人族(ドラゴノイド)どもでも、近くにおったのか?」


「なんじゃ、(うぬ)は我が姉上が力を取り戻したことを知らぬのか?」


その言葉に、ティアマトの哄笑が止まる。


「始源の龍が力を取り戻したと?」


ハーディが艶やかな笑みを浮かべる。


「龍人族も力を取り戻しておる。

いや、以前の時以上の力を持っておるぞ、今の龍人族は。」


「我が子らと、龍人族がぶつかるというのか?」


(うぬ)の子らが手を貸しておる竜女族(ヴィーヴル)

それと敵対しておる翼人族に懇願され、龍人族が手を貸すことを約した。」


「・・・・・・。」


「竜女族どもが手を貸している、オスマル帝国と龍人族の国が交戦間近となっておる。

早急に手を引かさねば、手遅れとなるぞ?」


ティアマトは冥神を見つめる。

冥神と言葉には嘘はないようだ。


「始源の龍の力を取り戻させた者は、それほどの力の持ち主か?」


ハーディはそれに直接答えない。


(わらわ)にも名をつけたほどじゃからな。」


その言葉にティアマトは戦慄する。


二柱の神に名を与えて無事でいられる存在。


そのような者が存在するというのだろうか?


言葉をとめて考え込むティアマトに、


「伝えるべきは伝えた。

早急に対応するがよい。」


そう言うと、ハーディは姿を消した。


考え込むティアマトが、ハーディが姿を消したことに気づいたのは10分ほど経ってからのこと。


腹心の者を呼ぶと、


「ムシュマッヘへ使いを出すのじゃ。早急に手を引くように伝えよ。」


そう命じたのであった。

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