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龍帝記  作者: 久万聖
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アルテアと雪祭り その4

アルテアら兄妹は、15歳になったばかりの長女アルテアが最年長。

次が長男ブルーノの12歳。

次男ドナトが10歳。

そして双子の妹ベディとキッカの8歳。


パドヴァ王国が崩壊した時、一時的に帰郷して以来だから一年半ぶりくらいの再会になる。


「びっくりした?」


そう聞く双子の妹に、


「とってもびっくりした。」


そう答える。


えへへと笑うと双子は一層、姉にしがみつく。


「来ることを教えてくれても良かったのに。」


そう口にするアルテアに、


「ごめん、姉さんを驚かせたかったんだ。」


ブルーノが答える。

自分が同じ立場なら、やはり驚かせるために黙っていたに違いない。


「でも、いつ来ることを決めたの?」


「夏の終わりくらいかな?招待状が送られてきたんだよ。」


招待状ということは、もうその頃からリュウヤ陛下は家族を呼ぶことを決めていたのだろう。


陛下も教えてくれれば良かったのに。


「お父さんとお母さんも、来たらよかったのに。」


次男のドナトが口にする。


スティールは両親の言葉として、「会わせる顔がない」と言っていた。

それは、アルテアがパドヴァ王国のかつての非道な研究に関わっていると、そう思われたときに守ることをせず、追い出してしまったためだろうことは、想像に難くない。


あの時はたしかに両親を恨みもしたが、今ではあの時の両親の判断は、家族や農場の使用人を守るために仕方がなかったのだと理解できる。


アルテアは軽く首を振って、ひとまずは両親のことを頭から追い払う。

今は、この弟妹たちと雪祭りを楽しむこと。

それがここまで来てくれた弟妹たち、そしてわざわざ呼び寄せてくれたリュウヤへの感謝を返す方法だ。


アルテアは屋台を指差すと、


「この国でしか食べられないものがたくさんあるから、しっかり食べて行ってね。」


「うん!」


弟妹たちは、元気よく返事をする。


アルテアはみんなを連れて、会場の中に並んでいる屋台へと向かった。






☆ ☆ ☆






スープパスタに、お好み焼き風の食べ物。

多種多様な焼き菓子。


一般的な羊肉の串焼きなどもあれば、小魚を油で揚げたものもある。


小さな海老と細かく刻んだ野菜を、小麦粉を水で溶いたものにつけて油で揚げる、かき揚げもある。


「不思議な食べ物がたくさんある!」


双子の妹は、楽しそうに食べている。


弟たちも、今まで食べたことのない食感に、首を傾げたり驚いたりと忙しい。


「あれ?アルテアじゃない。」


声をかけてきたほうを向くと、エルフのイルマタルがいる。


「イルマタルさん!」


アルテアが見知ったエルフの名を呼ぶ。


「そちらがアルテアの弟と妹たちね。」


イルマタルがニコリと笑いかける。


「楽しんでいってね。」


アルテアの弟妹たちにそう言うと、イルマタルはじゃあっと手を振ってこの場を後にする。


「綺麗な人だったね。」


「あれがエルフかあ。」


初めて出会ったエルフに、アルテアの弟妹たちは口々に感想を述べる。


その様子を見て、きっとスティールさんの時も同じだったんだろうと思う。

来るまでに、どれだけのことを口にしていたのだろう?

後でスティールさんに謝らないと、そう感じたアルテアだった。






☆ ☆ ☆






屋台でお腹を満たした後、雪像を見て回ることにする。


「今年のお題は"龍"なんだよ。」


アルテアが、会場で渡された案内誌(パンフレット)を見て言う。


そんなアルテアを、ドナト、ベディ、キッカは尊敬の眼差しで見ている。


その眼差しに気づくと、


「どうしたの?」


「お姉ちゃん、字が読めるんだ。」


ベディが呟くように口にする。


ああ、とアルテアは理解した。


自分は王宮に勤めているので、気にしたことがないどころか、自分が下の部類だと思っていたからわからなかった。


自分の弟妹たちも、ほとんど字が読めなかったのだ。


ブルーノに案内誌を見せてみると、簡単な単語は読めるようだが、長文は読めないみたいだ。


流石に、アルテアは考え込む。


この4人の弟妹たちにも、文字の読み書きを教えた方がいいのではないだろうか?


「いつまでこの国にいるの?」


「父さんと母さんは、冬の間いてもいいって言ってた。」


ブルーノが代表して答える。


「そう。じゃあ、陛下にお願いして、みんなも読み書きができるよう、勉強の機会を作っていただくわね。」


その言葉に、


「やったあ!!」


と喜ぶ双子の妹と、


「ええぇ!!」


とテンションが下がる弟ふたり。


「大丈夫よ。去年も、冬の間に読み書きができるようになった人はたくさんいるから。」


朗らかな姉の言葉に、弟ふたりは力無い返事を返すのだった。

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