表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
龍帝記  作者: 久万聖
331/463

アルテアと雪祭り その1

北方三ヶ国と神聖帝国が到着した三日後。


この日の正午、ついに雪祭りが開幕する。


開幕の挨拶をしたのはアデライードであり、リュウヤはその横に踏ん反り返って座っているだけである。


なにせこういう挨拶をさせると、


「楽しんでくれ。」


で終わってしまい、威厳もなにもないため代わりにアデライードが行なっているのだ。


今回、観光客らしき者たちは少ない。

来ているのは、招待客とその付き人と護衛の者たち。それに国境近くに住んでいる者たちくらい。


雪祭りの期間は10日。


リュウヤはのんびりできるわけはなく、招待客の接待のために動き回ることになる。


基本的には、主賓となる各代表者と同行し、説明や案内をする。


参加チーム20。

20体の雪像を、皆を引き連れて全て案内するのは、日程的・距離的に無理なため、場所によっては主だった部下が案内役となる。


そして、リュウヤらは日中は王宮外で過ごすことが多いため、侍女たちの仕事は大きく減少することになる。


そのため、侍女たちは四つのグループに分けられ、それぞれ雪祭りを楽しむことになる。





☆ ☆ ☆






開幕日と閉幕日は全員出勤と決まり、交代で2日ずつ休みを取ることになった侍女たち。


アルテアの休日は5〜6日目の2日間だった。


いつものように起きて、仕事支度をしようとして、


「今日はお休みだった。」


と気づく。


そこで私服に着替えたものの、どうしようかと思い悩む。


そこへ、


「アルテア〜。起きてるか?」


やって来たのがナスチャだった。


ナスチャは起きているアルテアを見ると、


「さすがアルテア。休みの日でも起きてるもんだな。」


そう言って笑う。


「ナスチャさんこそ、朝早くからどうしたのですか?」


「決まってるだろ?休みをもらったのに、何をしていいかわからないアルテアを遊びに誘いに来たのさ。」


なるほどと思うと同時に、余計なお世話だと言いたくなる。

言いたくはなるのだが、図星すぎて何も言えない。


「さあ、朝メシ食って、遊びに行くぜ。」


ナスチャに強引に手を引かれ、アルテアは雪祭りに出かけることになった。





☆ ☆ ☆






朝食をとった後、ナスチャと一緒に雪祭りを見て歩く。


いつのまにか猫人族のシュリとも合流して、色々と屋台を見ていく。


ナスチャの手には、いくつもの串焼きがあり、またシュリも控えめながらも、羊肉の串焼きを食べている。


「屋台のメシって、祭りの時は余計に美味く感じるんだよなあ。」


と、リュウヤが聞いたら「どこの国の人間だ」と突っ込まれそうな感想を口にするナスチャを、アルテアは呆れ顔で見ている。


なにせ、朝食をこれでもかというくらいに食べて、まだ一時間ちょっとしか経っていない。

それなのに串焼きを10本以上食べて、まだ手に数本残しているのだ。


少し歩くと、大きな龍の雪像が見える。

たしか、ここに設置されているのはドワーフの王バトゥのチームのものだったはず。


「何度見ても、あのドワーフのオッさんのとこのは、迫力あるなあ。」


ナスチャが感嘆の声をあげる。


何度見ても、ということはナスチャは雪祭りに何度も出ているのだろうことを、アルテアは察する。


「ほんとうに、動き出しそうですよね。」


シュリは目を丸くして驚いている。


そこへ、


「おう、蜘蛛使いの娘じゃないか。

今日も来たのか?」


バトゥがナスチャに声をかけてくる。


「ああ、この凄い雪像をふたりに見せてやりたくてさ。」


ナスチャは誰に対しても、言葉遣いが変わらない。

もちろん、公的な場では変えるくらいの分別はあるが。


「そうか。ふたりとも良く見ていきな。これが、今回の優勝作品になるんだからな!」


豪快に笑うバトゥ。

バトゥもリュウヤ同様に、私的な場での言葉遣いには拘らないようである。


「そうだよ、ふたりとも。これが優勝作品になるんだから、しっかり見ときな。」


そうナスチャは口にして、さらに、


「でも、最初に優勝作品を見せたのはまずかったかな?

この後にふたりが見る雪像が、一段も二段も落ちちゃうんだからなあ。」


そこまでナスチャが口にしたとき、アルテアが気づいた。


ナスチャがちらちらとバトゥを見ていることを。

一方のバトゥは、そんなことに気づいてはいない。


「おう、嬉しいことを言ってくれるな。

だが、蜘蛛使いの娘の言う通りだな。」


そういうと懐から金貨を三枚取り出して、


「そこの屋台で美味いものでも買っていきな。

最初に優勝作品を見せちまった詫びとして、俺が奢ってやる!」


ナスチャに渡す。


「悪いね。有り難く貰っとくよ。」


ナスチャは飛び切りの笑顔を見せて、ふたりを引っ張っていく。


屋台前まで来て、


「ナスチャ、アレが狙いだったの?」


アルテアが呆れたように言う。


「お給金だって、しっかり頂いているでしょ?

それなのに・・・。」


「貰ってるさ。でも、相手が気持ち良くくれるってんだから、別にいいだろ。」


ナスチャは悪びれない。


「それに、あたいはあの雪像が優勝すると思ってるんだから、嘘は言ってないぜ?」


そこでアルテアは、


「次の人のところでも、同じように言うんでしょ?」


「当たり前だ・・・、あ、アルテア・・・。」


アルテアはやっぱりというように、一層呆れたように見ている。


「なんでわかったの、かなぁ?」


「似たようなことを言いそうな人を知ってるから。」


「は、はははは・・・。」


屋台前から少し離れた場所に引き摺られ、ナスチャはアルテアから説教を受けることになったのである。


ちなみに、アルテアが誰のことを想定して口にしたのかは、ナスチャはこの場では聞けなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ