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龍帝記  作者: 久万聖
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神託

トライア山脈北方の三ヶ国との合同会談。


この会談で全てが決まることはない。


むしろ、三ヶ国の使節団は雪解けまで滞在することを希望してきており、そのぶんでは会談する機会はそれこそたくさんある。


そのため、互いに友好関係を結ぶことと、互いが欲することの意見交換がなされるのだが、三ヶ国は互いに牽制し合い、本音を見せないようにしている。


その様子を苦笑しながらリュウヤは見ていたのだが、ただ一つ。

リュウヤが求めたものがある。


「白の教団の情報が欲しい。」


エルフたちが両アールヴ及び、ドワーフの国カルバハルに攻め込んだのは一年と少し前。

その時に暗躍していたのが「白の教団」。

その信者であったエルフたちを尋問してはいるが、情報といえるものはほとんど得られていない。


ヴァンザントの追放や、加担していたエルフのほとんどを潰しているため、それなりに打撃は与えていると思われるのだが、その確証がない。


天狗(てんこう)族にも探索はさせているのだが、結果は思わしくない。


それならば、「白の教団」の根拠地であったと思われる北方三ヶ国の方が情報を持っている可能性がある。


「至急、本国に伝えて調査をさせましょう。」


三ヶ国の協力は取り付けることはできた。


そこで三ヶ国の合同での会談は終わり、入れ代わるように神聖帝国の使節団の到着が報告される。


「では、近いうちに個別での会談の機会を設けるとしましょう。」


リュウヤは立ち上がって、この場を去る。


残された三ヶ国の代表は、それぞれに感想を抱く。


「掴み所のない男だ。」


とはルーシー公国のヴァシーリー。


「本当に女性の登用が多いのね。」


とはプシェヴォルスク王国のエミリア。


「面白そうな男だな。」


とはユークレイン王国アンドリー伯。


三者はしばしの間、この場にて動かずに思案していた。






☆ ☆ ☆






リュウヤが出迎えた神聖帝国の使節団。


魔除けの意味でもあるのだろうか?

全体は黒い車体。それにふんだんに銀の装飾がなされている。

正面と扉には至高神神殿の太陽を図案化した紋章が刻まれており、そこだけは金で装飾されている。

さらには数々の宝石が散りばめられており、聞くところによれば宝石は他の神々を表す星々を表しているのだという。


「随分と豪華なものだな。」


宗教団体が豪華なものを使用しているというのを、リュウヤは好きになれない。

他人からのお布施でくらしながら、そのような豪華なものを使う理由がどこにあるのだろう?


無論、格式として必要なこともあるだろうことは理解しているが、それにも限度というものがあるだろう。


その馬車から最初に降りてきたのは初老の神官衣を纏った男。


「リュウヤ陛下とお見受けいたします。

私はエウァリストゥス。使節団の代表を務めさせていだだいております。」


エウァリストゥスは恭しく挨拶をする。


「私がリュウヤ。この国の王だ。

招待に応じていただき、感謝する。」


リュウヤもまた通り一遍の挨拶をする。

ふたりの間には見えざる壁があるように、周囲にいる者たちには感じられたであろう。

そして、それは互いの立場の違いから生まれるものでもある。


亜人や獣人族たちも自らの臣民として受け入れるリュウヤと、本心はともかく、その亜人や獣人族たちを絶滅させようとしている国の代表では。


エウァリストゥスに続いて降りてきたのは、蜂蜜色(ハニーブロンド)の髪をした女神官。


「副使を努めます、ビオランテと申します。」


その女神官(・・・)はそう名乗り、リュウヤに挨拶をする。

この時、リュウヤの表情の変化に気づいた者は、誰もいなかった。


続いて降りてきた、見習いの少女神官が急に倒れたため、そちらに皆の気が向いたためである。


「ビオラ!!」


エウァリストゥスが少女の名を呼び、駆け寄る。

最も早く駆け寄り、少女が地面に激突するのを防いだのはリュウヤだった。

位置的に少女の動きが視界に入っていたこと、そしてリュウヤの運動能力の高さによるものだ。


「ありがとうございます、陛下。」


エウァリストゥスが礼の言葉を述べる。


「急に力が抜けたように倒れたが、なにか(やまい)でもあるのか?」


エウァリストゥスはその言葉に、ひとつの心当たりがある。

それを口にしようとして、できなかった。

護衛の神殿騎士団のひとりがリュウヤの目の前に剣を抜き、


「そのお方に、汚い手で触るな!」


そう威嚇してきたのだ。


「正使殿。これはどういうことですかな?」


リュウヤは慇懃にエウァリストゥスに問いかける。


エウァリストゥスはその問いかけに、答えることができなかった。

答えるよりも先にその騎士が怒鳴り、その剣をリュウヤに向けて振りおろそうとしたのだ。


「手を離せと言っているだろうが!!」


エウァリストゥスは目を伏せたが、その剣が振り下ろされることはなかった。

その代わり、血の雨が降り注ぎ、やがて人が倒れる音がする。


「下郎が!陛下に礼をこそ言えど、無礼な振る舞いをしおって!!」


鬼人族のモミジが一刀のもとに斬り捨てたのだ。


「もう一度問うが、これはどういうことですかな、正使殿。」


すでにモミジたちは戦闘態勢に入っており、神聖帝国の使節団を半包囲している。


人数でいうならは龍王国側は10名ほどであるのに対し、神聖帝国側は150名いる。

だが戦闘に向けられるのは50名ほど。

仲間を斬り捨てた、真紅の鎧を纏った鬼人族の女戦士は、


「我が名はモミジ。正使殿の返答いかんでは、この場を血の海に変えることも厭わぬ!」


そう言って使節団を見渡す。


名をモミジと聞いて、神殿騎士団の者たちは騒めく。

たったひとりで城を落とすというほどの武力の持ち主。

実のところ、リュウヤが供回りとして連れていたのが10名ほどとあって、侮っていたのだ。

たった10名相手なら、このままリュウヤを捕らえて降伏を迫ることができるのではないか、と。


だが、鬼人族のモミジがいるとなれば話は変わる。

たった10名などではなく、その10名で自分たちを余力を持って殲滅することができる戦力なのだ。


リュウヤはエウァリストゥスに対して再び問いかける。


「答え難いならば、別の問いをしよう。

我が方に非はありますかな?」


エウァリストゥスは力なく答える。


「一切の非はありません。」


リュウヤは、自分たちの同行者である少女が倒れるのを、地面に激突する前に抱えてかすり傷ひとつ負わせていない。

にもかかわらず、それを咎めて剣を抜いたのは、神殿騎士団の者だ。

そして、その一部始終を見ていた者も多数いる。


エウァリストゥスが思わず視線を向けた先を、使節団一行も見る。


そこはこの広場が一望できるバルコニーになっており、多数の者たちがそこにいる。


それを見て、まだリュウヤの非を鳴らそうとしていた者達は、完全に沈黙する。


「・・・ん、うう・・・。」


リュウヤに抱えられている少女が目を覚ましたようだ。


「大丈夫か?

地面に落ちる前に抱えたから、怪我はないと思うが。」


その言葉に少女は、


「あなた・・・、は?」


少女の問いに、


「この国の王リュウヤだ。」


「リュウヤ・・・、陛下・・・?」


そこで少女は完全に覚醒する。


「リュ、リュウヤ陛下!?

も、申し訳ございません、このような無様な姿をお見せして!」


慌てた様子の少女に、


「その様子ならば、大丈夫なようだな。」


そう言って立ち上がるリュウヤを前にして、少女は膝をつく。


「リュウヤ陛下。陛下を(たばか)るような真似をしたことを、お許しください。

私が、使節団の副使を務めるビオランテ・デ・カスティーリャと申します。」


その言葉に使節団一行はどよめく。


「ビオラ、それは・・・。」


「もうよいのです、エウァリストゥス様。

それに、陛下は最初からお気づきのようですから。」


「?!」


「それに、神託を得ました。」


そこで言葉を区切り、


「"リュウヤ陛下にお仕えし、来たる災厄に備えよ"と。」


「な?!」


多くの神殿騎士団の者たちにとっては、承服しがたいことだろう。


リュウヤに仕えるということは、これまでの亜人・獣人族を絶滅させるべく戦って来たことが、全否定されるのだから。


「ほう。この私に仕えるということは、神聖帝国の国是ともいうべき亜人・獣人族の抹殺は誤りであったということか?」


リュウヤの問いかけを、神殿騎士団の者たちはビオランテに否定して欲しかっただろう。

だが、ビオランテの言葉は、


「はい。我が神、至高神ヴィレはそのようなことを御命じになられてはおりません。」


彼らの願いを踏み躙るものであった。




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