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龍帝記  作者: 久万聖
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神聖帝国の使節団

招待客、最後に来たのは神聖帝国からの使節団である。


そして、今回の使節団の中で最も注意を払わねばならない者たちでもある。


龍王国(シヴァ)と同盟を結んでいる獣人族の国と戦争をしている当事国であり、人間至上主義を掲げる国。


正直言って、招待に応じる可能性は低いと見ていたのだが、早い段階で応じる旨を伝えてきている。

到着が最後になったのは、最短距離を取ろうとすると獣人族の国を通らなければならず、それは戦争相手国であるため断念。

そのため、南東国境を出て都市国家群を通り、イストール王国を経由せざるを得なかったためである。


使節団代表には至高神ヴィレの神殿より派遣された神官長エウァリストゥス。

至高神(ヴィレ)神殿において数少ない穏健派として知られており、だからこそ今回の使節団代表に抜擢されたともいえる。


そして彼を護衛するのが神殿に所属する神殿騎士団(テンプラーズ)と呼ばれる者たち。


神聖帝国の騎士団にも引けを取らない実力者集団である。

その神殿騎士団を指揮するのが副団長であるバルタサル・コモンフォルト。

30歳にして副団長を務めるだけの実力と人望を合わせ持った傑物。


当初、エウァリストゥスは神殿騎士団を同行させず、傭兵団を雇おうとしていたのだが、バルタサルが指揮すると聞いて受け入れたのである。


バルタサルが指揮するのならば、問題が起こる可能性が低くなるだろうとして。


はっきり言えばエウァリストゥスは、現在の至高神(ヴィレ)神殿を信用していない。

特に神殿騎士団は。


彼らは強硬に人間至上主義を掲げ、亜人と称されるエルフやドワーフ、アールヴらの根絶を主張し、獣人族は出来損ないの種族として絶滅させるべきと主張している。


そんな主張をしている輩を同行させて、龍王国の逆鱗に触れるようなことがあれば即時戦争に突入しかねない。


いや戦争で済めばまだマシ。

アルカルイク同盟の中央にあった大地母神(イシス)神殿がどうなったか、それを考えれば完全復活した龍人族を敵に回すことがいかに危険なことか理解できるはず、なのだ。


それができないのが、神殿騎士団たち。


その中でほぼ唯一の理解できる存在が、バルタサル・コモンフォルト副団長である。


そしてもうひとり。


白金色の豊かな長髪と青い瞳の、まだ幼い表情を見せる少女。


名目上はエウァリストゥスの助手となる女性神官ビオランテ・デ・カスティーリャ。


神聖皇帝第二皇女だったが、その身に宿る神聖力の大きさにより、神殿へと入ることになった。


まだ14歳ながら、不明瞭ではあるものの至高神(ヴィレ)の声を聞くことができ、近い将来には聖女と呼ばれるようになるだろうと目されている。


「エウァリストゥス様、何か不安なことでもお有りでしょうか?」


ビオランテの言葉に、


「少しばかり、ではあるがね。」


初老に差し掛かっているエウァリストゥスからしてみると、ビオランテは孫くらいの年齢差である。


だからといって、ビオランテを軽く見ることはない。

この少女は聖女候補と呼ばれるだけあり、優れた洞察力と思考力を持っている。

そのことを教育係であったエウァリストゥスは知っている。


ビオランテを連れ出すことは、龍王国へ行く条件として付けたものだ。

名目上はビオランテの知見を広めるため。

絶対に許可されないと思っていたからこそ付けた条件であり、当然ながら強い反対があった。この時点でエウァリストゥスの目論見は成功したと思われた。


ビオランテ本人が行くことを希望したことと、父である神聖皇帝ハイメ・デ・カスティーリャ二世が許可を出したことで、エウァリストゥスの目論見はご破算となってしまったのだが。


「無益な戦争にならなければいい、そう思っているのだよ。」


人間至上主義を掲げる、それを掲げはじめた頃には必要なことだったのだろう。

他種族に比して脆弱な人間族の団結を図るためには。

だが、それも現在では行き過ぎたものになっていると、エウァリストゥスは感じている。


他種族排斥が先鋭化し過ぎて、絶滅させることを目的としてしまっている。

そのため、それが原因で他国との軋轢は深まり、紛争が絶えない状況になっているのだ。


ようやく西方国境が安定しはじめたとは言うものの、何かきっかけがあればすぐにでも紛争になりうる程度の安定でしかない。


「無益な戦争、ですか?」


「そう。他種族を絶滅させるとして、この世界の果てまで進むつもりなのか、それは可能なのか、そういうことを考えず、闇雲に戦うようなことは無益以外のなにものでもありません。」


新しき神々の中で、主神とされる至高神ヴィレの元には色々な神々が集まっている。


その中には明らかに人間とは違う種の神々もいるのだ。

その事実を考慮するなら、人間至上主義を貫いて他種族を絶滅させるのは至高神の意志に反しているというべきだろう。


そんなことを話せるのも、この馬車にはビオランテ以外にも気心の知れた者しかいないからだ。


さらに、中での会話が漏れないように魔法も展開している。


「エウァリストゥス様。岩山の王宮が見えてまいりました。」


馬車の扉を叩く音とともに、バルタサルの声が聞こえる。


外に会話が漏れないようにしていた魔法を解除し、


「わかりました。我々も準備いたします。」


そう答える。


到着するまでの間にしなければならないこともある。


「さあ、準備をしましょうか。」


そうビオランテに伝え、馬車の中は慌ただしくなっていった。

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