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龍帝記  作者: 久万聖
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翼人族と子供たちと思案と

晩餐には翼人族の十名だけでなく、オスト王国の王子王女全員も参加している。


それを見たアルテミシアは絶句する。


いくら王子王女といえども、年端もいかない子供たちばかり。

そんな者たちの前で、リュウヤへ形振り構わぬ攻勢などかけられない。


これはリュウヤが意図した防壁ではなく、結果的に防壁になったもので、意図した防壁は別にある。

それは、リュウヤの周りに居並ぶ美女たち。


隣には婚約者であるサクヤ。リョースアールヴのフェミリンスにデックアールヴのエストレイシア。

鬼人(オーガ)の鬼姫モミジに、吸血姫(ヴァンパイア・プリンセス)カルミラ。夢魔族ライラとエルフのミーティア。

人間族からもアデライード、レティシア、クリスティーネ等が参加している。

それ等の中で異彩を放っているのは、アナスタシアとハーディだろうか。


アナスタシアはセルヴィ王国との友好関係を、他国に示す為に参加させざるを得ない。

そしてハーディは、


(わらわ)の知らぬ料理を出すのなら、絶対に参加せねばのう。」


と、強引に入り込んでいる。


翼人族に決して劣ることのない美女の壁を越えて、アルテミシアはリュウヤに接触を図らなければならない。


"これだけの美女に囲まれながら誰にも手を出さないって、身持ちの堅さは噂以上ね"


内心でそう呟く。


難攻不落の要塞を目の前にしたような気分だが、そんなことは言っていられない。


その為に、彼女等は自慢の白く美しい翼を隠さず、皆に見えるようにお披露目しているのだ。


子供たちの視線は、彼女たちに集まっている。

では肝心のリュウヤはというと、美女たちとではなく、オスト王国のイザーク伯、セルヴィ王国のアルセンと歓談している。


「これほどの美女たちに囲まれておるとはな。

うちの次兄殿が見たら、さぞや羨ましがるだろうな。」


「いやまったく。それでいて、誰もおてつきになさらぬとは、我等のような凡人には理解し難いものです。」


聞き耳を立てようにも、距離があるためできない。

少しでも近くに行こうとしても、子供たちが瞳を輝かせながら、自慢の翼を見るために集まって来てしまうため、身動きが取れない。


この子供たちのことは詳しくは知らないが、晩餐に参加させるほどならば、決して粗略に扱ってはならない存在なわけで、アルテミシアたちとしても強引に振り払うわけにはいかないのだ。


そんな中で、アルテミシアは自分を興味深く見ている視線に気づく。


光すら吸い込むような漆黒の髪を持つ、白過ぎるほど白い肌を持つ美女。

たしか名をハーディと言ったはず。

先だっての会談にも居た・・・。


あの時には感じられなかった、リュウヤにも匹敵する存在感。

そして、絶対に敵にしてはならないと感じさせる重圧感(プレッシャー)


まるで、オスマル帝国の背後に蠢いている存在のような・・・。


「・・・・テミシア様、アルテミシア様。」


自分を呼ぶ声にハッとして振り返る。

カシアが自分を呼ぶ声だった。


「どうされたのです?」


カシアの心配そうな声に、アルテミシアはハーディに視線を移す。


「彼女を見て、貴女はどう思う?」


「彼女、たしかハーディという名でしたね。」


そう言いながらハーディを見る。


「特には、何も感じられませんが?」


自分の考え過ぎだったのだろうか?


「あの者がどうかしたのですか?」


「とてつもない重圧感があった。

あの化け物のよう・・・、いえ、あの化け物よりもはるかに上回るほどの。」


「まさか。」


そうは言うものの、カシアは知っている。

自分が仕えるアルテミシアが、そういう嘘や冗談を決して口にしないことを。


「あの者を調べますか?」


「ええ、お願い。」


あのハーディという美女、もしかしたらリュウヤを味方につける突破口になるかもしれない。

なぜかそんな予感に駆られていた。


その一方で、デリアとエイレーネは子供たちに囲まれてご満悦だった。

子供好きなのか、それとも精神年齢が子供に近いのか。

ただ、子供たちに好かれる(たち)なのは確かなようである。


その様子を見ていたアナスタシアは、リュウヤの服を控えめに引っ張る。


それに気づいたリュウヤは、


「どうかしたのか、アナ。」


「リュウヤ陛下、私もあちらに行って良いですか?」


アナスタシアの視線の先には、ふたりの翼人族を囲む子供たち。

その楽しげな様子を見て、参加したくなったのだろう。

より正確に言うなら、リュウヤとアルセン、イザーク伯の話が彼女にとってはつまらないということだろう。


「行ってきなさい。そして、あとでどんなことがあったのかを教えてくれると、私も嬉しいな。」


このアナスタシアへの言葉に、アルセンは軽く驚く。


本来なら、リュウヤの側に居なければならないのはサクヤである。だが、そのサクヤは自分の妻やイザーク伯の妻の相手をしている。

ファーストレディの相手をするのは、ファーストレディであるのと同じである。

その際、リュウヤの側にいてサポートをするのが側室の一番手となるアナスタシアなのだ。

とはいえ、アナスタシアもまだ子供。

他の子供たちが楽しそうにしていれば、そちらに関心が向いてしまうのは致し方ない。

ただ、それでもアナスタシアは王族の子であり、役割というものを教え込まれている。


リュウヤはその葛藤を、"どんなことがあったのか教えてほしい"と伝え、役割を与えることでアナスタシアの葛藤を解消したのだ。


「はい!後で、必ずお伝えします!!」


元気よくリュウヤに答えると、アナスタシアは駆け足にならない程度と早足で、子供たちの輪の中に入っていった。


「色々と、アナスタシアに気を使ってもらっているのだな。」


「そんなことは、当たり前のことであろう。」


とはリュウヤの言葉だが、それはこの世界では決して当たり前のことではない。

むしろ、女性は付属品扱いというのがこの世界の常識である。


あちらの世界に「トロフィーワイフ」なる言葉があるが、それが一番近いかもしれない。

もっとも、いかにトロフィーワイフとはいえ、ぞんざいに扱えば多額の慰謝料を取られ、離婚することになるだろうが。


「ところでリュウヤ殿。アナスタシアには手を出していないだろうな?」


アルセンの言葉にリュウヤは苦笑する。


「俺のいた国では、16歳にならなければそういうことは犯罪となるからな。」


リュウヤがこの世界に来たのは、2017年12月末である。

その時点では女性の結婚可能年齢は、法的には16歳以上であり、そのことをリュウヤは言っている。


「ほう、ならばあと6年は手を出さないということだな。」


「ま、まあ、そうなるな。」


「ならば兄上に伝えておかないとな。孫の顔を見ることができるのに、あと6年はかかる、とな。」


その言葉にリュウヤの頰が引き攣る。

あちらの世界でも、孫の顔を見たいとかそういうことを言う親がいることは知っている。


それはこの世界でも同じらしい。

手を出したくなくても、手を出さないといけないということか・・・。


「それには、相性というものもあるからな・・・。」


頰を引攣らせながら言葉を絞り出すリュウヤを、アルセンは笑いを噛み殺すような顔をして見ている。


「いい弱味を見つけたよ。」


そう言ったイザーク伯とともに、アルセンは大笑いしていた。






☆ ☆ ☆






なかなかリュウヤに接近できないアルテミシアは、焦っていた。


リュウヤの側にはアルセンとイザーク伯がおり、なにやら歓談をしている。

そこに割り込む機会を伺っているのだが、歓談が途切れる様子が見えない。

それどころか、新たに参加して来た人物さえいる。


「あれは?」


アルテミシアが側にいるキュテリアに確認する。


「今、この龍王国に来ている人物から察するに、イストール王国の王子、フィリップ殿ではないでしょうか。」


最低限の情報収集を、キュテリアはしておいたようである。


「イストール王国とは協力関係にあるようです。」


不本意ながら、壁の花となっているアルテミシアはキュテリアが集めた情報を確認している。


子供たちに囲まれているデリアとエイレーネの様子を見ながら、アルテミシアは思案にふける。


そのアルテミシアに声をかける者がいる。


「アルテミシア様、こちらでお話を致しませんか?」


声の主は、サクヤだった。


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