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龍帝記  作者: 久万聖
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互いの思惑

20万PV突破!!

「状況はかなり悪くなっています。」


キュウビは結論から言う。


この場にいるのはリュウヤ以下、サクヤ、アスラン、ライラ、カルミラ、フェミリンス、エストレイシアにハーディ。

フェミリンスとエストレイシアは、最近になってからキュウビの正体を教えられている。


「オスマル帝国は、飛竜(ワイバーン)を手なづける術を確立したようです。

それによって編成された飛竜騎士団なる存在により、空の優位を確保できなくなりつつあります。」


飛竜、尾まで含めた全長20〜25メートル。翼長15〜20メートル以上。

気性が荒く攻撃的であり、極めて獰猛。

また、外皮は硬く、生半可な攻撃は通じない。


龍化できる龍人族の敵ではないが、殆どの種族にとっては大いなる脅威だ。


「翼人族風情では、かなり難しい相手でしょう。」


とはカルミラ。

吸血姫(ヴァンパイア・プリンセス)の異名を持つ彼女にとっては、飛竜は取るに足らぬ相手なのだろうが、他の吸血鬼(ヴァンパイア)族にとってはどうだろうか?


「我ら吸血鬼族に、飛竜如きに遅れをとる者はおりませぬ。」


カルミラは断言する。


「あのような知性のかけらも無いものなど、我らの幻術で同士討ちさせるまで。」


とは、幻術を得意とする夢魔族らしい言葉を口にするライラ。


「空を飛ばれてはなんともし難いな。」


アッサリと両手を上げるモミジ。

地上であれば勇猛果敢な彼女も、空を飛ばれては手が出せないことを認める。


「我らには、龍人族もいるからと考えてこなかったが、これからは対処法を考える必要があるな。」


エストレイシアはそう発言する。


「いや、下手に対空戦闘を考えるより、空と地の連携を考えるべきだろう。」


とはリュウヤの見解。


「単独で運用される限り、空からの攻撃は我々にとっては脅威ではない。」


はっきりと断言する。

仮に龍人族の存在が無くても、リュウヤの見解は変わらない。

相手に飛行部隊がいることを知っていれば、いくらでも対応はできる。

B29のような高高度爆撃があるなら別だが、流石に生身の生物てそこまで高く飛ぶことは、極々一部の例外を除けばできない。

地上に攻撃を仕掛けるにしても、一定以下に高度を下げなければならない。

ならば、その高度を下げてきた時を狙えばいいだけだ。

龍王国(シヴァ)には、それができるエルフという戦力がいる。

それだけでなく、既にドワーフと協議して対空兵器となり得るものの開発も進めている。


「いつの間に、そのような指示を?」


フェミリンスが代表して問う。

この場にいる全ての者の疑問だ。


「例の時、トモエたちの攻撃をうけた時に必要性を感じたからな。あの後、トルイらと協議していた。」


リュウヤが基準としているのは、戦闘能力が最も低い人間族である。

その人間族でも対抗できるようにするため、開発をさせているのだ。

拠点となる場所には固定式の物を。

そして、移動組み立て式の物も開発させている。


これは、自分たちが空と地の連携の戦術を確立させれば、必ず真似をする者が現れる。

その時の対処をするためのものでもある。


「連携戦術とその対抗戦術の開発は、エストレイシアとモミジ、アンセルミ。龍人族からはオボロたちを出そう。

協力してくれ。」


「わかりました。」


この場にいるエストレイシアとモミジが、同時に頭を下げて受諾する。


「それにしても、己が身を差し出してまでとは、翼人族も追い込まれているのでしょうね。」


とはカルミラ。

たしかに、状況がこのまま進めば翼人族はジリ貧になる。


「現在、確認されている飛竜騎士というのはどれほどいるのだ?」


リュウヤの問いにキュウビはすかさず答える。


「5騎です。

今後について、どれほどのペースで増加していくかは、探りを入れている最中でございます。」


養成法が確立されれば、加速度的に増加するかもしれない。


「それだけで、己が身を差し出してとなるものかな?」


しかも、アルテミシアは我らの忠誠とは言っていたが、翼人族(・・・)の忠誠とは言っていない。


「わからんな。」


リュウヤの呟き。


「キュウビ、翼人族の内情はわからないのか?」


モミジが問いかける。


「彼の地への潜入は、ふたつの事情から困難なものとなっています。」


「そのふたつとは?」


「ひとつはその居住地。あまりの高域にあるため、入り込むこと自体が困難です。」


高山病などの問題かと、リュウヤは理解する。


「もうひとつは、翼人族の地に住む者たちそのものです。」


「どういうことだ?」


「あの地に住むのは翼人族を除けば、人造生命体(ホムンクルス)のみなのです。」


リュウヤのいた世界でのホムンクルスといえば、大錬金術師パラケルスス(本人は医学者と言っていたという)が、人間の精子を馬と同じ温度で温めて作ったとされるが、もちろんこの世界での人造生命体(ホムンクルス)は別物である。


なんでも、この世界では人造生命体を作成するのは翼人族くらいのものらしい。


「それぞれが作成した人造生命体ですから、常になんらかの繋がりを持っているため、入れ替わるという手段が使えず、その個体数も把握されているため、潜入という手段が使えません。

商人を装って行っておりますが、短期滞在にならざるを得ず、核心情報を掴むには困難な状況です。」


キュウビとモミジのやりとりでわかったことは、現在この地に来ている十名から聞き出す以外にない、そういうことだ。


「そうなると、アルテミシアがどれだけ本気でこちらに食い込もうとしているのか、その覚悟次第というわけか。」


翼人族の全てを曝け出す覚悟があるのか?


己が身を差し出すなどという発想をしなければならないほどに追い詰められている、そう感じられる状況ならばそれは時間が限られているということ。


遠からず、アルテミシアの方から全てを話す時が来るだろうことを、リュウヤは確信していた。






☆ ☆ ☆






「いい加減、落ち着きなって。」


落ち着きなくうろうろしているカシアを、デリアがなだめる。


「落ち着いていられるか!

それに、我らの忠誠をゴミ扱いしたのだぞ、あの男は。

こんなところから早く戻って、戦う準備をするべきなんだ。」


「あんなにあっさりと言われるとは思わなかったね。」


とはエイレーネ。


「それだけではない!

アルテミシア様のことを価値がないなどと、暴言にもほどがある!!」


「それも、即答だったもんね。」


「焦り過ぎだよ、アルテミシア様。」


エイレーネはそう言って、アルテミシアを見る。


「たしかにそうですわね。」


たしかに焦り過ぎていた。


「それに、ここの王様は身持ちが堅いって教えたのに。」


それも聞いていた。

それでも、翼人族の美貌ーその中でもひときわ秀でた自分ならーそんなことは簡単に突破できると自惚れていた。


「そんな情報、誰から聞いたの?」


キュテリアがエイレーネに問いかける。


「出入りの商人。あっちこっち回ってる、アドリスっていうグリーシアの商人だよ。」


「ああ、あのアドリスね。」


「稼げるかもしれないから、雪祭りに合わせてここに来るって言ってたよ。」


屈託なくエイレーネは話す。


その会話を聞いて、アルテミシアはふと思う。

なぜその商人は、リュウヤの身持ちの堅さを知っているのだろう?


「なんでも、周りに美女がたくさんいるのに、婚約者の龍の巫女にしか興味がないんだってさ。

"俺が同じ立場なら、手を付けまくってる"って断言してたっけ。」


とはデリア。


なるほど、この国ではよく知られたことなのだろう。

そんな初歩的な情報収集すらできていなかったかと思うと、上に立つ者として恥ずかしくなってくる。


「そう、ね。兎に角、今はリュウヤ陛下の為人(ひととなり)を良く知ること。

時間はあまりないけど、そんなことは言っていられない。

どんな小さなことでもいいから、リュウヤ陛下に関する情報を集めて。

なんとしても、味方につける。」


早まった行為ではあるが、すでに己が身を差し出すとまで言っている。

それは、形振り構っていられない状況であることのアピールにはなっている。

そんな状況の者は何をするかわからない、それくらいの認識は植え付けることができたはずだ。

だから、


「私は徹底的にリュウヤ陛下に張り付く。

どこで何をするかわからない者なら、むしろ目の届くところに置いておくはず。

焦り過ぎて失敗したけど、近くに張り付くにはいい材料にはなったわ。」


完全に開き直ったようだ。


「アルテミシア様!」


カシアが思いとどまらせようとするが、アルテミシアはそれを拒絶する。


「カシア、今は翼人族の存亡の危機なの。

形振り構っていられない。」


そこへ、扉を叩く音がする。


「アルテアと申します。リュウヤ陛下より、晩餐に招待したいとの申し出でございますが、いかが致しますか?」


早速チャンスが訪れてきたようだ。


「もちろん、参加させていただきます。」


アルテミシアの、翼人族の存亡を賭けた戦いが始まる。


読んでくださる皆様へ、感謝しかありません。


ありがとうございます

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