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龍帝記  作者: 久万聖
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模索

アルテミシアはリュウヤの真向かいに座り、改めて名乗る。


「翼人族族長の娘、アルテミシア・ミニュアスと申します。

以後、お見知り置きを。」


リュウヤもまた、改めて名乗り返す。


「私が龍王国(シヴァ)の王、リュウヤだ。以後、互いに良き関係を結べればと、そう考えている。」


(わたくし)たち翼人族も、同様に考えております。」


リュウヤは改めてアルテミシアを見る。


先ほどまでのどこか悪戯っぽい、それでいて値踏みするような表情はうかがえない。

油断ならない外交官のような表情。


「会談の前にお伺いしたいことがあります。」


「?」


「なぜ、私たちが陛下を試していると、そう気づかれたのか御教授いただけないでしょうか。」


率直な物言いに面食らうと同時に、愉快な気持ちになる。


「教えると思っているのかな?」


「思いません、余人であれば。

ですが、リュウヤ陛下であれば御教授いただけるものと確信しております。」


この返答にリュウヤは大笑いする。


リュウヤがここまで大笑いするのは珍しい。が、龍王国側の者は面白そうにリュウヤを見て、翼人族は呆気にとられている。


「すまない。面白いことを言うものだと思ってな。」


やり方は違うが、相手の懐に飛び込むという点においてはミーティアも同じことをしている。

彼女は自分の能力の売り込みだったが。


「いいだろう。まず、名前を出したことが間違いだ。

君は、自分の容姿が周辺国に伝わっていることを知らなかったのか?」


左右の瞳の色が違うオッドアイ。

有力者の娘の、そんな特徴的なものが伝わらないわけがないのだ。


「後は君と同じだと思うがな。」


相手の能力を読み取る観察力と洞察力。


アルテミシアはじっとリュウヤを見るが、やがて、


「わかりました。」


そう返事をする。

リュウヤがこれ以上のことを話さないと理解したのだろう。


「それでは、本題へと入らせていただいてもよろしいでしょうか?」


アルテミシアのこの言葉で会談は始まる。






☆ ☆ ☆






会談が終わり、翼人族たちは用意された部屋にいる。


「なんと無礼な者か!」


カシアは憤りを隠さない。


「落ち着きなさい。アルテミシア様が、あの者の態度を受け入れたのです。

貴女も受け入れなさい。」


宥めているのは文官の衣装を着た者。


「だが、キュテリア。天使とも称される我らに、あのような態度!

ああ、許せぬ!」


リュウヤの態度は、極々普通の国王としての態度であり、非を鳴らす者はまずいないだろう。

ただひとつ、翼人族を除いては。


翼人族は孤高の種族。

それが許されてきたのは、その居住地がアララト山脈という峻険な地であることと、翼人族の戦闘力の高さにある。


空を飛び攻撃する能力は、他種族に対して優位にある。

ただ、その優位が通用しない者たちもいる。

それが竜人族(ドラゴノイド)であり、夢魔族、吸血鬼(ヴァンパイア)族であり、龍人族である。


「冷静になりなよ。」


再びイラつき始めるカシアを宥めるのは、デリア。


「ここで騒動を起こして、折角のアルテミシア様の努力を無にするつもり?」


「そうそう。アルテミシア様も言ってたけど、騒動を起こしたところで簡単に皆殺しにされるだけだよ。」


とはエイレーネ。

デリアとは双子であり、いつも一緒に行動をしている。

ふたりは見た目は全く区別がつかない。

そのため、鎧の肩部に付けられた紋様で判別できるようにしている。


双子は、テーブルの上に置かれている焼き菓子を遠慮なく摘んでいる。


「うん、これ美味しいよ。みんなも食べなよ。」


とはデリア。


その言葉につられるように、カシア以外の者たちはテーブルに集まり、焼き菓子を摘む。


「たしかに美味しいわね。」


「そうでしょ?砂糖やバター、卵をたくさん使っているわよ、この味は。」


「こっちは干した果物が入ってる。」


やはり女性の集団というべきか。

お菓子には目がないようである。


「お前たち、いい加減にしろ!」


仲間の様子に怒りをぶつけるカシア。

彼女からしてみれば、あのリュウヤとかいう国王に簡単に籠絡されているように見えて仕方がない。


「なにを騒いでいるのです、カシア。」


隣室へと続く扉が開くと、濡れた髪をタオルで水気を取りながら入ってくるアルテミシア。


「気持ちよかったわよ、お風呂。

貴女も入ってらっしゃい。

そうしたら、少しは気分も落ち着くわよ。」


反論したいのをぐっと堪え、


「そうさせていただきます。」


カシアはそう言って退室する。


その姿を見送り、アルテミシアは呟く。


「カシアは、もう少し現実を知らないといけないわね。」


と。






☆ ☆ ☆







「面白い小娘じゃったの。」


ハーディのアルテミシア評である。


なぜ気づいたかなど、諜報技術に属するものであり、簡単に教えられることではない。

それを堂々と教えろなどと、随分と大胆な言動である。


だからこそ、リュウヤは白々しい答えしか言わない。

「陛下であれば御教授していただける」などと持ち上げて見せているが、それに乗せられて話せばそれこそマイナス評価に転じるだろう。お世辞に弱く、乗せられれば機密すら簡単に喋る愚か者と。


本当に面白いのは、それからの交渉だった。


リュウヤ自身は単なる会談で終わらせるつもりだったのだが、そこにアルテミシアは食い込んできた。


立ち上がろうとするリュウヤに、


「私は、この場を単なる会談の場にするために来たのではありません。」


腰を浮かしかけたリュウヤは、再び腰を下ろしてアルテミシアに正対する。


「ならば、何のための場にするのかな?」


その言葉に、


「我らの忠誠を受け入れていただくための、です。」


意外だとは思わない。

この地に来たのが僅か10名。

リュウヤの見立てでは、この人数しか送ることができなかった、である。

ならば、なぜ送ることができなかったのか?

考えられる理由はいくつかある。

ひとつは、オスマル帝国との紛争が本格化してきたため、少人数での使節しか送れなかった。

紛争が本格化していなかったとしても、オスマル帝国の監視が厳しくなってきたため、その網にかからないようにするため少人数の派遣にとどめた。

そのあたりが妥当なところだろう。


可能性が低いが、もうひとつの理由もあり得る。

それは、アルテミシアの独断。

参加者の名前を一切記さず、随員の人数も知らせてこなかった。

それを考慮すると、案外こちらの可能性が高いのかもしれない。


名前や人数を記さなかったのは、返書がオスマル帝国の手に渡った時のため。

誰が、何人引き連れて行くのかがわからなければ、網を張るにしても、その規模をどうするかで判断に迷いがでる。


「アルテミシア殿。貴女が切れ者であることは理解している。

その上で問うが、貴女方、翼人族の忠誠を受け入れたとして、我らが得るメリットは何か?」


実のところ、龍王国が得るメリットは何もない。

仮にアララト山脈を手中にしたとして、本拠地であるこの地から離れすぎている。

統治するのはそれだけ難しくなるし、オスマル帝国との火種を抱えることになる。


まだまだ産声を上げたばかりの国としては、多くの火種を抱えこみたくはない。


そのリスクを上回るメリットを提示できるのか?


「我らの忠誠では足りぬと?」


「そう言っている。翼人族を受け入れたとして、それはオスマル帝国との火種を抱え込むことと同義。

十名(・・)のみの忠誠では、割りに合わん。」


はっきりと断じる。


「君たちの戦闘力はそれなりのものがあるのだろう。

だが、空を飛べることを差し引いたとしても、君たちを上回る者たちが我が配下には、それこそいくらでもいる。」


冷徹なリュウヤの言葉にざわつく翼人族たち。


ただひとり、リュウヤを真正面から見据えているアルテミシア。


「ならば、それに付け加えたいことがあります。」


その言葉に訝しげな視線を送るリュウヤ。


「我が身を・・・」


「いらん。」


アルテミシアの言葉をあっさりと遮り、リュウヤは席を立つ。


「俺は来秋、結婚する身であるだけでなく、既に側室となる者もいる。

貴女がその両者より魅力的には見えないのでな。」


そう言い残すと、アルテアに翼人族たちを部屋に案内するように申付けると、振り返ることなく退室した。







「よかったのか?彼奴らは見た目は良いし、天使とも称される者を側室とはいえ、(めと)ったとなれば大きな宣伝とやらになるぞ?」


ハーディは心から面白そうに口にする。


「やめてくれ。あの場でも言ったが、俺は火種を抱え込む気はないぞ。」


うんざりしたようにリュウヤは返す。


「あれで諦めるでしょうか?」


とはアスラン。


「諦めがいいといいんだがな。」


そう応じつつ、


「キュウビ、オスマル帝国と翼人族の状況はどうなっている?」


そう確認する。


「はい、報告いたします。」


オスト王国の子供達との晩餐前まで、リュウヤは報告を受けていた。






☆ ☆ ☆






「あそこまでアッサリと拒否されると、傷付きますね。」


そう呟く。


だが軽く首を振る。


「それよりも、なんとしてもリュウヤ陛下を動かさないと、翼人族の未来は・・・」


そのための方法を模索しなければならない。

冬が終わり、雪が溶ける前までに。


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