翼人族
アスランとノワケことキュウビを伴い、翼人族が待つ部屋へと向かう。
その間にも、アスランから来客の翼人族の情報を得る。
来訪した翼人族は10名。
その内の2名が身なりから見て、正使と副使。残る8名は武装して来ており、護衛だろうとのこと。
「それにしても10名か。」
わずかな人数でよく来たというところだが、別の見方もある。
わずかな人数しか派遣できなかった、もしくは、龍王国を低く見ていると。
リュウヤとしては前者だと考えているのだが、部下の中には後者であると考える者たちもいるだろう。
例えば鬼人族などは。
「気になることが一つございます。」
キュウビの言葉。
「気になること?」
「はい。二人のうちのひとりがミニュアス姓を名乗っております。
アルテミシア・ミニュアスと名乗っておりましたが、その名は族長の娘に合致しております。」
族長の娘を派遣して来たとなると、オスマル帝国との戦況が悪化してきたのだろうか?
いや、それならば、キュウビがそのことを報告しないわけがない。
すると、考えられるのは龍王国の動きを探るためか。
いきなり同盟だとか庇護下にはいるということはないだろう。
オスマル帝国はもちろんだが、翼人族の住むアララト山脈ともいくつかの国を挟んでいる。
その地理的条件を無視して、そんな提案をしてくるとは思えない。
無論、必要とあれば庇護下に置くの別として、同盟を結ぶことは選択肢としてあり得るが。
同盟を結んだとしても、地理的制約から牽制くらいしかできないだろう。差し迫った状況でもない限りは。
そんなことを考えていると、横から声がかけられる。
「おう、リュウヤ。面白い者どもが来ておると聞いたのじゃが、会うのはこれからか?」
ハーディだ。
「面白いかどうかは知らぬが、会うのはこれからだ。」
「ならば、妾も同席させてもらおう。」
そう言うと、
「かまわぬよな?」
一応は疑問形で付け加える。
「ダメだと言ってもくるのだろう?断りようがない。」
諦めたようなリュウヤの言葉。
「よくわかっておるな。」
ハーディは肉食獣のような笑みを浮かべていた。
☆ ☆ ☆
案内された部屋の扉をキュウビがノックする。
このノックの仕方にも色々とあるようで、わかるものには誰が来たのかすぐにわかるらしい。
一種の暗号なのだろう。
「ノワケです。陛下をお連れいたしました。」
中の者も、ノワケであることはわかっているのだが、あえて名乗ることで来客に不審がられないようにしている。
「ただ今お開けいたします。」
扉を開けたのはナギ。さらにアルテアの姿も見える。
ナギは素早くキュウビに目配せをしている。
これも何かの合図なのだろう。
そして、こちらは予め決めていた合図をキュウビがリュウヤに示す。
中に入ると、ふたりの背中に翼を生やした美女が座っており、その背後には完全武装した女性が8名控えている。
完全武装した女性たちの背には翼が見えないところを見ると、出し入れが自由にできるのか、それとも魔法的なもので隠蔽しているのだろう。
天使とも称されるだけあって、皆、とても美しい。
龍人族やアールヴたちで、美女を見慣れていなければ簡単に籠絡されてしまったかもしれない。
入室したリュウヤたちの姿を見て、座っている翼人族のふたりは立ち上がろうとするが、それを制して、
「そのままで良い。」
そう言うと、彼女たちの正面の席に着き、軽く翼人族たちを見渡す。
そしてナギの合図の意味を理解した。
「初めてお目にかかる。私がこの国の王リュウヤだ。」
そう言ったあと、リュウヤは言葉を続ける。
「私は試されることは好まぬ。そのことを踏まえて行動していただこう。」
その言葉を、隣に座ったハーディが笑みを浮かべながら聞いている。
「何を言われているのかわかりません。」
リュウヤの正面に座っている翼人族の言葉。
だが、その言葉にかまわず、
「もう一度だけ言う。私は試されることは好まぬ。
その意味がわからぬなら、そのまま立ち去るがよい。」
「なっ!」
ざわつく翼人族たち。
「招待状を送りつけておいて、なんという言い草か!」
完全武装したひとりが激昂したかのように、そう口にする。
その様子を冷ややかに見ているリュウヤ。
「おやめなさい、カシア。」
完全武装した者たちの一番端にいる者が、そう言葉を発する。
「申し訳ありません、リュウヤ陛下。
私が正使である、アルテミシア・ミニュアスと申します。」
兜を脱ぎ、その素顔を晒した翼人族。
翼人族一行の中で最も若いように見える。
肩で切り揃えられた美しい金髪も見事だが、それ以上に目を引くのはその瞳の色だ。
右の瞳の色々が南方の海のようなコバルトブルーなのに対して、左の瞳はエメラルドグリーン。
「オッドアイか。」
リュウヤはそう呟く。
「アルテミシア様!?」
他の翼人族たちは、アルテミシアの行動に驚いている。
予定された行動ではないのだろう。
「もういいわ。本当はもう少し、リュウヤ陛下の人となりを見たかったのだけれど、あのままでは追い出されるのがオチね。」
随分と捌けた物言いをするものだとリュウヤは思ったが、カシアと呼ばれていた翼人が、
「追い出されるなど・・・」
そう言いかけるが、アルテミシアは最後まで言わせない。
「そこの執事姿の吸血鬼が5人。
リュウヤ陛下と一緒に入って来た侍女、天狗族で3人。
さっきまで私たちの相手をしていた侍女、彼女も天狗族ね。彼女が1人。
そしてそこの人間族の侍女が2人。
私たちの力じゃ、リュウヤ陛下まで届かない。」
「他は兎も角、人間族などに遅れをとるなどあり得ません。」
アルテアのことを指しているのだろう。
「正確には、あの人間族のところにいる何か、ね。
とても強いのが2体いる。」
アルテミシアの言葉に、翼人族たちは驚く。
そんな中、拍手が送られる。
もちろんリュウヤだ。
「よく気がついたな。サスケ、サイゾー、姿を見せてやれ。」
アルテアの肩越しに、2匹は姿を見せる。
「なっ!?デス・スパイダー!!」
翼人族たちは一斉に身構える。
アルテミシアでさえ、一歩下がって身構えている。
サスケとサイゾーの2匹が、アルテアの背中に姿を隠すと、翼人族たちは身構えた態勢を解き、ほっとした表情を見せた。
そして、
「改めてご挨拶申し上げます。
私が翼人族の長クリュティア・ミニュアスの娘、アルテミシア・ミニュアス。
以後、お見知り置きを。」
改めてアルテミシアは名乗ったのである。