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龍帝記  作者: 久万聖
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オスト王国の子供達

「亡命と呼ぶべきか、疎開と呼ぶべきか、悩ましいな。」


そうリュウヤが評したオスト王国の一行が到着したのは、昼過ぎだった。


本来の到着予定は前々日。

だが、流石に子供達が多いせいか、負担をかけないようにしていたために到着が遅くなったのだ。


最初に馬車から降りてきたのは、引率役であり実質的に代表を務めるイザーク伯。


「リュウヤ陛下、お待たせいたしまして申し訳ございません。」


そう謝罪するイザーク伯に、


「気にするな。それよりも、皆を無事に連れてきてくれたことに感謝する。」


イザーク伯の肩を軽く叩き、労をねぎらう。


そして、イザーク伯に続いて降りてきたのはあどけない表情を見せる少年。


「ぼ、いえ、私はオスト王国のフランツと申します。

出迎えに、感謝いたします。」


たどたどしいながらも、口上を述べる。


「よく来たね。この地にいる間は、気楽にゆっくりと過ごすといい。」


そう言うと振り返り、


「クリスティーネ、彼らのことは任せる。

手が足りないようなら、レティシアたちに応援を頼むといい。」


「そこには、アナスタシアは含まれていないのか?」


発言主はアルセン。


本来なら出迎えに参加する必要などないのだが、

「我が国も、互いに善隣関係を結ぼうとしている仲なのだ。」

そう言って参加しているのだ。

そして、世話役にアナスタシアが含まれないのかという言葉から察するに、少しでも子供達から情報を集めようという腹づもりなのだろう。


子供達からは、大きな情報は取れないだろうし、アナスタシアにも諜報の技術は無い。

それでも、子供達との会話の中から宮中の人間関係は窺い知ることはできるし、その登場頻度によっては力関係の予測すらできる。


また、子供達に付いている侍女たちの言動から、ある程度は知ることもできるだろう。


「その図々しさは、シニシャと兄弟なのだと教えてくれるよ。」


リュウヤの言葉に、


「ふん。」


と鼻を鳴らして応じるアルセン。


その様子を見てリュウヤは笑う。

シニシャに似ていると言われることを、気にしているのだろう。

いや、シニシャに反発心を持っていると見るべきか。

時に出奔するなど自由に振る舞うシニシャ。

それに対して立場に縛られ、国に留まって支え続けたアルセン。

そして、それをまとめるアレクサンダル。


まるで「毛利三兄弟」だと思う。


纏め役の毛利隆元(もうりたかもと)、武の吉川元春(きっかわもとはる)、知略の小早川隆景(こばやかわたかかげ)と、一般には言われている。


ここでふと思う。


もし、纏め役であるアレクサンダルがいなくなったら、残された二兄弟はどうするのだろう?

毛利三兄弟は、纏め役の毛利隆元が若くして死んだ後、二人の弟がその息子を支えた。


セルヴィ王国の場合はどうなのだろう?


アルセンには二人の子供がいるが、アレクサンダルは?

アナスタシア以外に子供はいないのだろうか?


「アレクサンダル王には、息子はいないのか?」


「いや、5歳になるミロシュがいる。」


「そうか。」


最悪の状況の時は、ふたりが支えることになるのだろう。


オスト王国の一行の出迎えが終わると、アルセンは自室に戻り、リュウヤはイザーク伯を伴って歩き出す。


子供達はお腹が空いているとのことだが、晩餐にはまだ早い時間なため軽食を用意させる。

これだけ子供達が多いとなると、場所も考えなければならない。


「ナギ。ウィラに伝えろ。

大広間にて軽食を用意するようにと。」


なにせ王子王女だけで22名もいる。その侍女や乳母たちも同席させる必要があるだろう。

それにイザーク伯をはじめとする実質的な代表たちも同席させなければならない。


そうなると、それだけの人員を収容できる軽食会場となると、大広間しかない。


そして、急な変更であったにもかかわらず、ウィラをはじめとする女官と、ジルベルトら料理人たちはリュウヤの期待に応えたのであった。






☆ ☆ ☆






王子王女といっても、やはりまだ子供ということか。


軽食の際に出した焼き菓子とプリンを食べて、大騒ぎをしている。


王子側の最年長は、名目上の代表でもあるフランツの9歳。

王女側では第2王女アーデルハイトが14歳。

最年少となると、テオドラ王女の3歳である。


その子供達の様子を見ながら、


「年端もいかぬ子らが、政略の道具にさせられるとはな。」


リュウヤはそう呟く。


王族というのはそういうものだという認識はある。

だが、いくら認識があってもリュウヤの本質的な部分で、それを認めることに躊躇いがある。


嫁がせる必要があったとしても、少なくとも相手は平和な国にしてやりたいと思うのは、やはりエゴなのだろう。


「陛下、此度のことは、心より感謝しております。」


リュウヤと同席しているイザーク伯は、そう言って頭を下げる。


「ラスカリス候はもちろん、ジギスムンド王太子も全員を引き受けていただけるとは、思ってもおりませんでした。」


それはそうだろう。


22名の王子王女となれば、それに付き従う者たちも相応の人数になる。

しかも、テオドラのような幼児がいるとなれば、教育係でもある乳母も同行することになる。

さらに付け加えるならば、今回の随員のなかには王子王女たちの母親も幾人かいる。


実家に帰ることができる者は戻ったが、そうでない者たち、はっきりと言えば身分の低い者たちは行く場所がなく、随員として参加せざるを得なかったのだ。


母親の同行。


これはこれで問題がある。

母親が一緒に来た者たちと、来なかった者たちでは精神的な安定に違いが出ることになるだろうし、不公平感を呼ぶことになりかねない。


その辺りのケアは、乳母たちに任さざるを得なくなるだろうが。


「陛下、今回のこと、本当にありがとうございます。」


リュウヤの元に来たクリスティーネが、感謝の言葉を述べる。


「気にするな。それよりも、手が足りぬ時はちゃんと言うように。」


そう言ってクリスティーネの頭を撫でる。


「お前は、無理をしがちだからな。」


そう付け加えることも忘れない。


「え、そんなことは・・・」


ない、そう言おうとしてリュウヤに遮られる。


「アウクスティから聞いているぞ。止めずにいると、どこまでも無理をすると。」


「そ、それは、私が一番後に入ったのですから、それくらいするのは当たり前だと・・・」


「お前は、薬学・薬草学の学生となるのだぞ?

丁稚奉公ではないのだ。」


「・・・はい、わかりました。」


リュウヤとクリスティーネのやりとりを見て、イザーク伯は軽い驚きを持って見ていた。


オスト王国王都グラーツで見たクリスティーネ王女は、まさに深層の令嬢とでもいうべき雰囲気を纏わせていた。


だが、この地で見るクリスティーネ王女は、かつてよりはるかに活力に満ちている。

いや、クリスティーネ王女だけではない。

他の王子王女たちと共にいるマクシミリアンやエレオノーラも、間違いなく活力に溢れているように見える。


どこか寛いだ雰囲気を醸し出しているリュウヤの元に、執事アスランがやって来る。


「陛下、御来客でございます。」


「客?今日の到着予定は無かったと思ったが?」


「はい。ですが、招待状を送った相手ですし、返書も頂いております。」


そこまで聞いてリュウヤは思い出した。


「たしかにあったな、参加の意思のみの返書が。」


来訪する代表者の名前の記載も無ければ、随員の人数、到着予定も記載していないのが。


「はい、その翼人族の者たちでございます。」


イザーク伯に断りを入れ、リュウヤはその翼人族一行が待つ部屋へと向かった。



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