アナスタシアと従兄弟たち
午餐の後、アナスタシアはエレナとパヴレと一緒に、王宮内を散策している。
アナスタシアにしても、王宮の全てを知っているわけでもなく、彼女のお気に入りの場所を巡っているのが、実情である。
彼女付きの侍女とは別に、案内役兼護衛として捕まったのが兎人族のラニャと、蟲使いのナスチャである。
ナスチャは、
「ガキどもの相手なんてゴメンだね。」
とは言うものの、生来の姉御肌とでもいうべきか、非常に面倒見が良く、子供達から懐かれている。
そしてこの日も、アナスタシアに頼まれて引き受けることになった。
その際に出したひとつの条件。
「そのふたりが、あたいの蜘蛛を嫌わなかったら引き受けてやるよ。」
エレナとパヴレはそれをあっさりとクリアしてしまったため、引き受けざるを得なかったのだ。
ナスチャの蜘蛛を見たふたりの反応。
「おっきな蜘蛛〜!」
「ねえ、触ってもいい?」
怖がるそぶりを見せるどころか、好奇心から積極的に触わっている。
それどころか、見せた一匹の蜘蛛の取り合いまで始めたため、ナスチャはもう一匹出さざるを得ない状況になってしまった。
その結果、エレナとパヴレは頭の上に蜘蛛を乗せて御満悦である。
「なんだよ、アレ。絶対、怖がると思ってたのになあ。」
愚痴をこぼしつつも、どこか嬉しそうである。
「ホントだね。」
蟲使いが受け入れられていることが嬉しいのだろうと推察するが、ラニャはそれ以上は言わない。
下手に口にすると、照れ隠しで八つ当たりをしてくるからだ。
ラニャの方はというと、ナスチャに巻き込まれたのが、同行する理由である。
午餐会場を、ナスチャよりもかなり遅れて出てきたところを、すかさず蜘蛛の糸で簀巻きにされ、引きずられていったのだ。
その時のナスチャの言葉。
「あたいよりもガキの扱いに慣れてるだろ?
だからあたいを助けろ!!」
何か間違っている。なぜ助けを乞う側が高圧的なのだろう?
「断ったらどうなるか、わかっているよな?」
顔を近づけて、凄みを効かせる。
ラニャが返事を渋ると、蜘蛛を近づけて、
「断らないよな?」
一層の圧力をかける。
「わ、わかったから、それ以上近づけないで!」
"強引さに磨きがかかってきた"と、ぶつぶつ言いながら、ラニャは付き添うことにする。
王宮内なら戦うようなことはないだろうと、ナスチャとラニャはたかを括っていたのだが、すぐにふたりは子供の行動力と体力を甘く見過ぎていたことを痛感する。
なにせこの龍王国は多くの種族がいる。
子供たちの興味を引くには十分すぎるのだ。
「アナお姉様、耳の長い人がいるよ!!」
「あれ?あっちの人も耳がながいけど、おっきい。」
「ずんぐりしたおじさんがいる!!」
目に付いた種族、全てに走り寄っては質問ぜめにしている。
一番の被害者はエルフたちだろう。
頭に乗せている蜘蛛を見て逃げ惑うが、好奇心旺盛な子供たちはそんなエルフたちを追い回す。
「やめて、来ないで!!」
「ねえねえ、なんで逃げるのぉ?」
こんな調子で追いかけ回されるエルフたち。
そして、そのクレームはリュウヤのところに集中する。
クレームの大半はエルフから。
「頭にデス・スパイダーを乗せて追いかけてくるんですよ!
なんの嫌がらせなんですか!!」
秘書官のひとり、イルマタルが代表としてリュウヤに詰め寄る。
「デス・スパイダーがいるなら、クレームはナスチャのところじゃないのか?」
アルテアは今日、リュウヤ番として側にいたから、サスケやサイゾーは一緒にリュウヤの元にいた。
だから、リュウヤの所にクレームを入れるのは間違っているのは間違っていないか、暗にそう言っている。
「陛下、私たちがナスチャに何か言えると思いますか?」
真剣な表情でイルマタルがリュウヤを見る。
「言えばいいじゃないか、ナスチャはそこまで狭量じゃないぞ。」
「はい、たしかにそうです。
ですが、ナスチャの周りには常にデス・スパイダーが何匹もいるんですよ?
近づくだけで、どれだけ精神を削られるか・・・」
それで、手近で文句の言いやすいリュウヤの所にクレームが回ってきたらしい。
「わかった。早急に手を打とう。」
この30分後、アナスタシアとその従兄弟たちと、ナスチャとラニャはリュウヤの執務室にてたっぷりと油を絞られたのである。