来賓 獣人族とセルヴィ王国
眠気に苛まれながらも、リュウヤとサクヤは仕事に勤しむ。
とは言っても、今日も招待客の出迎えがメインなのだが。
今日、到着する予定なのは獣人族の国と、セルヴィ王国からの者たちである。
やってくる獣人族の人数は多い。
熊人族、兎人族、羊人族、虎人族、猫人族、獅人族のそれぞれの族長の子弟と、その従者たち。
そして移住希望者たちも一緒に来ている。
「お久しぶりです、リュウヤ陛下。」
出迎えたリュウヤに、最初に挨拶をしたのは獅人族族長の息子カイオン。
「久しいな、カイオン。」
リュウヤが手を差し出すと、カイオンは力強く握る。
必要以上に力が入っているのは、今回も稽古をつけて欲しいのだろう。
「後で一本やるか?」
「喜んで!!」
カイオンは即答する。
リュウヤの護衛として側にいるタカオは、呆れ顔でカイオンを見ている。
前回も、さんざん叩きのめされたというのに、まだ懲りないのか、と。
この場には、先行して龍王国に来ている兎人ラニャや熊人アミカ、猫人シュリらも来ている。
彼らはこの場で旧交を温めようとするが、
「そういうことは、中に入ってからするものだ。」
リュウヤの言葉に従って中に入っていく。
「あいつら、もっとしっかり挨拶してから行けよ。」
カイオンが呆れて言う。
「皆も、久しぶりに会えて嬉しいのだろう。
あまり責めてやらないでやってくれ。」
リュウヤはカイオンを宥める。
「わかりました。では、後ほど。」
カイオンたちを見送るリュウヤたちだが、まだ中に戻るわけにはいかない。
セルヴィ王国の一行がもうすぐやって来る。
セルヴィ王国の一行。
今回はシニシャは来ない。
来るのは、三男であるアルセンどいう男が来るという。
シニシャに聞いたところでは、堅物。
いや、シニシャ基準なら全ての人物が堅物になりそうなものであるが・・・。
やがてセルヴィ王国の紋章を付けた馬車がやって来る。
停車した馬車から降りて来たのは、長髪、痩身痩躯の神経質そうな男だった。
「リュウヤ陛下でございますか?
私はアルセン、国王アレクサンダルの末弟にございます。」
声もやや高く、髭を生やしていなければ、ハスキーボイスの女性と言われても信じてしまいそうである。
「お久しぶりです、アルセン叔父様。」
アナスタシアが明るい笑顔を見せ、挨拶をする。
「おお、アナスタシア。元気であったか?
ここの皆はよくしてくれているか?
何か不自由なことはないか?」
最初の神経質そうな雰囲気はどこへやら。
まるで可愛がっていた姪っ子の前でデレている、叔父の姿そのものである。
「はい、皆さま、とてもよくしてくれています。」
朗らかな返事に、安心したような顔を見せる。
「アナ姉様!」
アルセンに続いて降りて来たふたりの子供。
そのふたりの子供がリュウヤそっちのけで、アナスタシアの元へ行き、挨拶をしている。
「エレナ、パヴレ。アナスタシア様の前に挨拶をしなければならない御方がおられるのですよ。」
ふたりの子供に続いて降りて来た女性が、子供たちの行動を嗜める。
「我が子が非礼な振る舞いをしてしまい、申し訳ありません、リュウヤ陛下。」
子供たちはアルセンの子だったらしい。
父としてアルセンが謝罪する。
「妻のマリーア。そして娘のエレナと息子のパヴレでございます。」
そして家族を紹介される。
「妻、マリーアでございます。」
マリーアは優雅に挨拶をする。
「アルセンの娘、エレナと申します。」
「同じく、アルセンの息子、パヴレともうします。」
母親に倣い、ふたりの子供もリュウヤに挨拶をする。
ただ、エレナとパヴレは、アナスタシアが気になっているようだ。
「私は龍王国の王、リュウヤ。
招待に応じていただき、感謝している。」
アルセンとマリーアにそう挨拶を返すと、エレナとパヴレの目線に合わせるように屈む。
「エレナとパヴレと言ったね?
君たちも楽しんでくれ。」
リュウヤの言葉に、
「は、はい。リュウヤ陛下。」
ふたりはそう返事をする。
「アナスタシア、ふたりを案内してあげなさい。」
リュウヤの言葉にアナスタシアは、
「はい!」
元気よく返事をする。
「エレナ、パヴレ。私について来て。」
名前を呼ばれたふたりは、両親の顔を見る。
受けて良いのか、判断しかねているようだ。
「リュウヤ陛下のお言葉に甘えなさい。」
父アルセンに言われると、
「ありがとうございます、リュウヤ陛下!」
元気よく謝辞を述べると、アナスタシアの元へ駆け寄る。
もちろん、子供たちだけということはなく、アナスタシア付きの侍女たちも一緒に行動している。
3人を見送ると、
「シニシャからは煙たがられていそうだな。」
そう感想を口にする。
不思議そうな顔を見せるサクヤと、興味深そうな顔を見せるマリーア。
「なぜそう思われる?」
やや固い口調でアルセンが問う。
「兄より先に結婚しているからさ。
一緒にいると、あの男に"結婚しろ"という圧力がかかっていそうだ。」
リュウヤはそう答える。
リュウヤの答えにマリーアは笑いを堪えているようだ。
アルセンも苦笑しつつ、リュウヤの言葉が事実であることを認める。
「国王と、次兄が言っていたことを理解しました。
貴方は、とても洞察力に優れているようだ。
私も、この地での振る舞いには、細心の注意が必要なのだと、肝に銘じておきます。」
油断はしない、その宣言である。
「お手柔らかにお願いしますぞ、アルセン卿。」
そう言って手を差し出す。
その手を握り、
「こちらこそ、お手柔らかにお願いします。」
そうアルセンは答えた。