会議兼夕食会にて
サクヤが、トール族の治療を終えて戻って来たのは夕食どきだった。
夕食のテーブルを囲むのは、ギイとサクヤ、リュウネの固定メンバーと、龍人族からはミカサ、シズクの巡回班メンバー10人。ドヴェルグからはドゥーマら若手職人10人である。
ギイとサクヤは、互いの情報交換であり、リュウネはリュウヤかサクヤ、どちらかが近くに居ないと愚図ってしまうからだ。肉親を失う、しかも自分の目の前で殺されるというのは、かくも強い精神的外傷を生み出すということだろう。
リュウヤも似た経験があるだけに、リュウネに強くは言えない。
「様子はどうだ?」
「とても疲れていたのでしょう。ぐっすりと眠っています。」
途中、途中で念話による報告は受けているが、改めてサクヤの口から報告を受ける。
「傷のない場所などないくらいの、酷い怪我をしている者もおりました。」
とは、一緒に治療に当たったシズクの言葉だ。
相当な虐待を受け、逃げ出したということか。
だが腑に落ちない。
「トール族といえば、忍耐力や頑丈さは折り紙つきじゃぞ?それをそこまで痛めつけられるものかね?」
ギイの話は問いかけは続く。
「それにじゃ、奴らはオツムは弱いが、明るく人懐っこい。働き者で気のいい奴らじゃ。」
普通に使役するなら、問題を起こすような種族ではないのだ。それだけに、ここまで傷だらけになり、脅える姿が信じられない。
「サクヤ。彼らについて何か気づいたことはないか?」
「他に、ですか?」
サクヤは、共に治療に当たったシズク班の面々と顔を見合わせる。
「そういえば・・・」
発言者は、シズク班のサギリだったか。
「全員を確認したわけではありませんが、肩に焼印があったかと。」
「焼印?」
リュウヤが確認するように、治療に当たった者たちを見る。
「そういえば、たしかに焼印があったような・・・」
どうやら、確信はないようだ。焼印に関しては、明日の治療の際に確認するように指示をだす。
ドゥーマらドヴェルグの職人には、トール族の住居の建設を最優先させる。現在は、四方に木を立てて布を渡しただけの、粗末過ぎる場所に寝かせている。その改善を優先させる。
自分や龍人族は、しばらくは今まで通りに岩山の中での生活になりそうだ。
「だけど、腑に落ちないんだよなぁ。」
リュウヤが呟く。
「どこか不審な点がおありでしょうか?」
サクヤが呟きに反応し、一斉にみんなの視線がリュウヤへ集中する。
「焼印があるということは、彼らは奴隷で間違いないだろう。すると、それをあれだけ痛めつける理由はなんだ?」
奴隷というのは、言葉は悪いが所有者にとっては「私有財産」なのだ。その価値を下げるようなことをするだろうか?
私有財産という言葉にドヴェルグたちは頷いたが、龍人族の反応はイマイチ薄い。これは、龍人族に私有財産という価値観が乏しいからである。龍人族にとって財産とは、みんなで分け与えられる公共財産なのだ。
トール族は忍耐強く頑丈で力も強い。そうなると、剣闘士のような闘奴にでもしようとしたのか?
その疑問は即座にギイによって否定される。
「奴らは、自分が傷つく以上に、他人を傷つけるのを嫌う。それに、なによりも臆病じゃ。」
そんな者を闘奴としても面白くないだろうし、客が付くとも思えない。兵士としては理想的な資質を持ってはいるが、臆病で優しすぎる性質では意味をなさない。かえって恐慌状態に陥りやすく、一度陥ったらそれを止めるのは難しい。「百害あって一利なし」というやつだ。
「いくら考えても堂々巡りだな。」
リュウヤが匙を投げるように言う。
みんなも、表情はそれぞれではあるが、概ね同意のようだ。
「明日になれば、彼らも少しは落ち着いて話せるようになるだろう。」
彼らから話を聞き出してから、今後を定めよう。もしかしたら、彼らの所有者が現れる可能性もある。そちらから話を聞き出すということも考えられるだろう。
そう、会議兼夕食会を終わらせた。
この夜に起きる悲劇を予見する者は、誰もいない。