表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
龍帝記  作者: 久万聖
307/463

リュウヤと雪風

イストール王国のフィリップ王子とジュディト嬢。


ふたりは隣室に案内されていたが、今はフィリップのあてがわれた部屋でくつろいでいる。


「同部屋でもよいのだぞ?」


そう言われたものの、丁重に断っている。


「そういうリュウヤ陛下はどうなのです?サクヤ殿とは・・・」


そう言い返したのだが、


「結婚を正式に発表してからは、同部屋だ。」


そう切り返される。


とはいえ、流石に体の関係はないようである。

結婚式前の妊娠は避けたいという意識は、あの型破りな男にもあるようだ。


もっとも、龍人族の妊娠期間が人間と同じとは限らないが。


「あれが、龍王国(シヴァ)のリュウヤ陛下なのですね。」


「そうだ。色々と規格外だっただろう?」


「はい。わずかな時間しかお話していませんが、殿下の仰られていたことは理解できました。」


あの場で名付けた"雪風"という名の馬への対処。

その後の世話役の元女奴隷への対応。

傷だらけなのを確認すると、すぐに医者の元に行かせ、自身は雪風の手綱を受け取って厩舎へと向かっていった。


「殿下と気心が知れているから、あのような行動を取れるのでしょうね。」


通常であれば、招待客であるフィリップたちを、伴侶になることが決まっているとはいえ、サクヤに任せたりはしない。


「そこまで気心が知れている仲ではないぞ。」


そう抗議するが、ジュディト嬢にスルーされる。


「せっかくですから、少し出ませんか?」


リュウヤとサクヤからは、自由にしてもらっても良いと、そう言われている。

もちろん、不案内な場所なので案内人は必要だが。


室内に置いてある鈴を鳴らして、イストール王国専任となっている侍女を呼ぶ。

真銀(ミスリル)製だという鈴の音は、とても澄んだ、それでいて良く通る。


現れたのは、頭に角を生やした鬼人(オーガ)族の侍女アサツキ。


鬼人族を侍女として配置したのには、女性といえども戦闘種族であり、護衛の意味もあってのことである。


「あの男は、どれだけの種族を束ねているのやら。」


フィリップはそう呆れながらも、彼女の案内でジュディトとの散歩を楽しんだ。






☆ ☆ ☆






リュウヤは厩舎にいる。


自分が名を付けたじゃじゃ馬が、他人の手に負えるとは思えなかったからだ。

実際、厩舎に入れた後、ここの責任者に任せようとして離れると、雪風が暴れてしまい、宥めようとしたスタッフが怪我をしてしまっている。


今後のために鞍を用意すべく採寸しようとするも、拒否するかのように暴れだす。


馬銜(はみ)を外せ。」


その言葉に周囲のものたちは仰天する。


「こんな暴れ馬、馬銜を外したら何をするか!」


あまりイメージが湧かないだろうが、馬は噛み付く生き物だ。

それもかなり力強く。


「かまわん。雪風(こいつ)なりに、俺を試そうとしているのだ。

自分の背に乗せるだけの価値があるのか、な。」


厩舎のスタッフは、恐る恐る雪風の馬銜を外し、厩舎の扉を開ける。


雪風はゆっくりとリュウヤの前に歩み寄ると、挑発するように(いななき)、自分の背に乗れと言わんばかりに睨みつける。


リュウヤは鞍もつけぬ雪風の背に、軽やかに飛び乗る。


それがリュウヤと雪風の戦いの始まりだった。


振り落とそうする雪風と、それをいなしながらバランスを取り、操ろうとするリュウヤ。


これは本来ならリュウヤの方が分が悪い。


なぜ鞍が生まれたかといえば、馬の背中はゴツゴツとしていて座りが悪いためだし、(あぶみ)が生まれたのも、馬上にてバランスを保つためである。

馬銜や手綱が生まれたのも、馬を操りやすくするための発明だ。


リュウヤは何度も振り落とされそうになるが、その都度持ち直している。


幾度となく、そんな光景が繰り広げられる。


「なるほどな。」


これまでその背に人を乗せることを拒んできただけのことはある。


だが、それももう終わりだ。


雪風に疲労が蓄積されていっていることが、リュウヤには手に取るようにわかる。


そして、それが誰の目にも明らかになってきた頃、雪風が最後の抵抗を試みる。


だがその抵抗も難なく抑えられ、倒れる雪風。


「終わりか?」


リュウヤが見下ろしながら、雪風に話しかける。


その言葉に起き上がろうとするが、果たせずに途中で倒れこむ。


「強情な奴め。いつでも相手をしてやるから、今は休んでおけ。」


そう言いながら雪風の首を優しく撫で、悠然と立ち去る。


その後ろ姿を、呆然としたように雪風は見ていた。






☆ ☆ ☆






「終わりましたか、リュウヤ様。」


「見てたのか?」


声をかけてきたサクヤに、リュウヤが言葉を返す。


「はい。私だけではないようですけれど。」


サクヤの視線の先には幹部たちと、少し離れたところにフィリップとジュディトがいる。


軽くその方向に手を振ると、サクヤと連れ立って王宮へと入っていく。


「この後は、何があったかな?」


「リュウヤ様主催の晩餐会ですよ。フィリップ殿下たちイストール王国の方々と。」


そうだった。


「結婚を決めたと言ってても、なかなかふたりきりとはいかないものだな。」


リュウヤのこぼした愚痴に、サクヤは自然と笑顔になる。


「はい。ですから、せめて会場まではふたりで参りましょう。」


そうリュウヤの腕に、自分の腕を絡めてともに歩きだした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ