懇談会とその裏の会話
サッカー日本代表、残念でしたね。
懇談会と銘打たれたパーティは、リュウヤの挨拶から始まった。
「楽しんでくれ。」
たった一言だけのスピーチであるが。
場違い感いっぱいで、アルテアは壁際に佇んでいる。
リュウヤのスピーチ(?)の後、いつもの癖で側に行こうとしたのだが、参加者も多く、側にたどり着く前にリュウヤの姿を見失っていた。
ふうっとため息を吐いていると、
「壁の華になってどうしたの?」
ミーティアが声をかけてくる。
「ミーティア様も参加されていたのですか?」
「そうよ。陛下だけでなく、お母様からも言われて、仕方なくね。」
「エルフでも、そんなことを言われてしまうのですね。」
「そうよ。まだ100歳だってのに、"孫はまだか"って言ってくるのよ。」
軽く舌を出しながら答える。
そうなんだあと、思いつつも自分の親はどうなのだろうと思う。
追い出されちゃったからなあと、少し黄昏た表情になる。
「どうしたの?そんな顔をして。」
ミーティアに言われて、自分が表情に出していたことに気づく。
「いえ、ちょっとだけ思い出しちゃって・・・。」
「アルテアって、パドヴァの出身だったわよね?」
「は、はい、そうです。」
「色々あったのよね、きっと。」
レティシアたちから、パドヴァでの出来事を聞いている。
アルテアもそれによって、人生を狂わされたひとりなのだろうことは想像できる。
「でも、どう?この国に来てからは?」
「大変なことばかりですけど、毎日が楽しくて、充実してます!」
アルテアが笑顔を見せる。
「じゃあ、しっかり楽しんで、今日も充実させましょう!」
ミーティアがアルテアの手を引いて、中央に引っ張り出す。
母ラティエからは"相手を見つけて来なさい"と言われていたが、リュウヤからは、アルテアのことを頼まれていた。
「アルテアのことだから、壁の華になっているだろう。
だから、引っ張り出してやってくれ。」
と。
「でも」、とミーティアは悪戯っぽい笑顔を見せる。
「陛下はこれからが大変なのよね。
アデライードに責められないといけないから。」
☆ ☆ ☆
「どういうことなのでしょうか、これは!?」
一通の招待状の返信をリュウヤに見せながら、アデライードは詰問する。
「エガリテ翁の返書だな。」
「ええ、私の祖父の返書です。
いつ、招待状を出したのですか?
私が提出した名簿には、記載しなかったはずですが。」
「俺が出した。先日は世話になったからな。」
実にあっさりとリュウヤは答える。
その態度に唖然としかけるが、気を取り直して抗議の声をあげる。
「世話になったからといって、それは招待状を送るほどのことだったのでしょうか?」
「俺はそう判断している。」
リュウヤはそう答えると、改めてアデライードに向き直る。
「招待してはならない理由でもあったのか?」
そう問われると、アデライードとしては答えにくい。
ただ、"まだ早い"としか言えないのだから。
そして、その心理を見抜かれたかのように、
「もっと大きな成果を挙げてから、そう考えていたりするのか?」
「・・・。」
図星を突かれてしまう。
「お前が思うほどの成果を待っていたら、呼べるようになる頃にはエガリテ翁が亡くなってしまうぞ?」
完璧を目指すあまりに機会を失い、招くことができなくなる・・・。
もう少しもう少しと頑張っているうちに、親が老いていき、親孝行ができなかったと悔やんでしまう。
ドラマや時代劇などでよくある話だ。
「抗議は終わったか?
ならば伝えておくことがある。
来春のウリエの即位式には、お前も連れて行くから、そのつもりでいるように。」
「?!」
この突然の言葉に抗議したくなるが、リュウヤの立場になって考えればやむを得ないことだと、口を閉ざす。
弟王子の即位式に、姉であるアデライードを連れて行かないという選択肢は取れない。
いや、ウリエの立場としても、アデライードを招かないという選択肢はないのだ。
事実は違うとはいえ、形としてウリエはアデライードを龍王国に追いやったことになる。
それを王都の住民は快く思ってはいない。
だから、仲違いして追いやったのではないと示す必要があるのだ。
「・・・、わかりました。」
渋々といった感じで、アデライードは引き下がる。
その様子を見ながらリュウヤは、
「仕事の話をしたいのだが、いいかな?」
表情と口調を変えてアデライードに話しかける。
そのリュウヤの変化に、アデライードも姿勢を正して向き合う。
「仕事の話とはいったい?」
その言葉に答える前に、リュウヤは侍女長ノワケにイナサを呼ぶように命じ、アデライードには、彼女が持参したものとは違う名簿を渡した。
個人的には三連敗を予測していたので、嬉しい誤算でした。
サッカー日本代表の皆様には、低評価をしていたことへの謝罪と、楽しい二週間をありがとうと感謝しています