試食
チームと屋台の募集締切日。
この日の昼食会場は大広間どなっており、幹部が勢揃いしている。
昼食前に、アデライードより雪祭り開催要綱が伝えられる。
1、雪像の作成及び設置場所はくじ引きにて行う。
2、他チームへの妨害は、発覚次第失格。
3、今回の雪像作成のテーマは「龍」。
4、次回のテーマは優勝者が決める。
5、優勝チームへの賞品は、各チームの希望に沿う物とする。
5については、これから各チームに希望を確認することになる。
「あまりに非常識な物は、却下することになるけどな。」
とはリュウヤの言葉。
そして、屋台の説明を行った後、料理長ジルベルトが試作料理を全域の前に並べる。
一応、原案はリュウヤであることは伝えられる。
まずはラーメンモドキから食べられる。
リュウヤからすると、ラーメンというよりもスープパスタのように感じられる。
スープにはバターの香りがしており、コクを増すために入れられたのであろうことがわかる。
ただ、バターを使うとなると、価格としては高くなってしまい、屋台料理とは言えなくなるのではないか?
その懸念を口にすると、
「今回は、私の部下が屋台を出すことになっております。
料金としては、ほぼ原価で提供しますので、販売価格は抑えられます。」
さらに説明を聞くと、あくまで広めることが目的であり、レシピは公開すること。
それを元にして、興味を持った者たちが改良すれば良いのではないか、とのことであるようだ。
たしかに、全てをこちらで準備してやる必要はない。
強引に広めようとしても、かえって反発を招くことだってある。
そして次に出てきたのは、お好み焼きモドキを参考にしたとは思えない、上品な物だった。
「キッシュに似ているな。」
それがリュウヤの感想。
お好み焼きのジャンクさが見事に消えている。
いや、キッシュというよりも、ミートパイの方が近いだろうか?
「器の問題もありましたので。
出来るだけ、食べ歩きができるようにと試行錯誤していましたら、このような形でに落ち着きました。」
ここでリュウヤは、重要なことを忘れていたことに気づく。
そう、器の問題だ。
日本なら、プラスチックの容器やら、100円ショップで売っているような安物の容器がある。
だが、この世界ではそのような便利な物はない。
串焼きのようなものが多くなるのも仕方がないことだったのだ。
器といえば、ニシュ村で木製の物が作られていたはず。
そこの在庫を買い取るか・・・。
そう考えつつ、皆に感想を聞く。
多少、味付けへの注文が入るものの、概ね好評なようだ。
それらをジルベルトはメモを取っている。
ジルベルトがメモを取り終えたのを見計らい、リュウヤは皆に宣告する。
「私事ではあるが、皆に伝えることがある。」
その言葉に、全員がリュウヤへ視線を向ける。
「来秋、サクヤと結婚をする。」
おおっと、響めきが起こる。
「おめでとうございます!」
という言葉が飛び交う中、リュウヤが言葉を続ける。
「国としての形が急速に整い、ひと段落したと考え、結婚を決めた。
ひとえに、この場にいる者たちをはじめ、この場に来ることのできなかった者たちへも感謝の辞を述べたい。」
そう言うと、"ありがとう"と頭を下げる。
そして、結婚式典については、アイニッキが全てを取り仕切ることが伝えられた。
☆ ☆ ☆
昼食後、サクヤは皆から多くの祝福を受け、リュウヤはその場から離れている。
そのリュウヤの元へ、
「おめでとうございます、陛下。」
フェミリンスが祝福の言葉を述べに来る。
「ああ、ありがとう。」
「よろしいのですか?陛下もサクヤ様と一緒に祝福を受けなくても?」
「ああいうのは、女性の特権だ。男など、一緒にいたところで、たいして言葉を受けることもない。」
飾り以下の存在だと笑う。
笑うリュウヤの顔を、その見えぬ眼で見据えている。
その状況がどれほど続いたのだろう?
長い時間だったのかもしれないし、数瞬だったかもしれない。
その状況を破ったのはギイとエストレイシアだった。
「リュウヤ!そんなところにいないで、こっちに来んか!!」
そう言って、ギイはリュウヤの手を引いていく。
「何をしているんだ、フェミリンス。」
エストレイシアはフェミリンスに声をかける。
何も答えないフェミリンスに、
「何が見えた?」
問いかける。
「なにも。」
短いフェミリンスの返事。
「何も見えないというのは、良いことなのだろうな。」
「そう、なのでしょうね。」
フェミリンスは抑揚のない口調で答える。
「そういう返事をするのなら、もっと楽しそうな表情をするものだ。」
この地に来てから、表情は豊かになったはずのフェミリンスだが、それでも時折このような顔を見せる。
「言っても無駄、だったか。
だが、子供たちの前で、そんな顔を見せるなよ。」
エストレイシアはそう言うと、仕事があるからと立ち去っていく。
「今はまだ、何も見えません。
ですが、近いうちに、見えてしまいそうな・・・」
そこから先は口にしない。
口にしてしまえば、本当になってしまいそうで恐ろしかったから。