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龍帝記  作者: 久万聖
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アイニッキ

クリスティーネらと昼食を摂った日、アイニッキより夕食の誘いを受けて訪問する。


すでにサクヤとアナスタシアは来ており、リュウヤがついた頃にはすでにテーブルについている。


アナスタシアがリュウヤやサクヤと行動を共にするのは、リュウヤの側室としてであり、それを周知させる目的もある。


リュウヤとしては、アナスタシアには年相応のことをしてもらいたいのだが、セルヴィ王国との関係の手前、同行させざるを得ない。

なにせアナスタシアに同行してこの地に来ている者たちは、当然のことながらアナスタシアへの対応や扱いを、本国に報告する役目も負っているのだ。


そのためアナスタシアの勉強の時間以外は、基本的にリュウヤは彼女を伴わせている。


今回は私的なことなのだから、伴わせなくてもいいような気もするのだが、そこはサクヤとアイニッキが気を利かせたようである。


「ほう、これは昼にも出ていたスープではないか。」


「はい。昼食のときは、リュウヤさんは子供達に遠慮しておられたようですから。」


他の者たちがおかわりをしているのを見て、たしかに遠慮していた。


「温かい料理って、なかなか食べさせてもらえなかったから。」


アナスタシアが小さな声で口にする。


その言葉にサクヤは驚くが、王族や貴族の食事というものは、必ず毒見役を通すために、提供時には冷めてしまっていることがほとんどである。

また、食器には毒殺を防ぐ目的で銀製品が使われることも多く(水銀などに反応し、変色する)、冷めやすいのだ。


実のところ、温かい料理を出すことに彼女達と共に来た者たちから、クレームが届いたこともある。


そのクレームに対してリュウヤは、


「俺も同じものを食べるのだ。そのことにも文句をつけるのか?」


そう返している。


そのため、リュウヤ同席の時は彼女達の付き人も黙認することになっている。

そして、王族や貴族の子女がリュウヤの元で食事をする大きな理由にもなっている。


「さあ、アナ。遠慮せずに食べてね。」


いつの間に、アイニッキはアナスタシアと愛称で呼ぶ仲になったのだろう?

少し不思議に思うが、遠慮せずに食べてほしいというのは、完全に同意である。


食も進み、アナスタシアに食後のデザートとして葡萄(ぶどう)が出されている。

まだ雪が降っていない、オスト王国産のものである。

その一方でリュウヤとサクヤ、アイニッキは葡萄酒(ワイン)を口にし始めている。


サクヤの頰が、少し赤くなりほろ酔いになり始めた頃、アイニッキがいきなり、


「リュウヤさんは、サクヤちゃんと子供を作る気は無いの?」


そう言い出す。


リュウヤはこの時、口に何も入れていなかったことに感謝する。


「ア、アイニッキ、いきなり何を!?」


サクヤが慌ててアイニッキに詰め寄る。


「だって、もう一年半にもなるのに、そんな話を聞かないんだから。」


アイニッキはサクヤではなく、リュウヤを見ながら話している。


「それに、昼食の時に、えーっとなんて人だっけ?

とにかく、妊娠について研究している人のこと話してたでしょ?

そろそろ、リュウヤさんもその気になってきたのかなぁって。」


荻野久作の話をしたのが、どうやらまずかったらしい。

あれは、あくまでも研究者の思いと正反対の広がり方をした一例として出したのだが、アイニッキは違う取り方をしたのかもしれない。


「アナやノーラ、マロツィアも可愛いけど、私としてはやっぱり、サクヤちゃんの子供が見たいのよね。」


そのためには、リュウヤがその気にならないといけない。


「知ってるわよ、この国が安定するまではそういうことはしない、そうふたりで話していることは。

でも、もう随分と人は集まってきたし、安定もしてきた。

私はそう思っているんだけど。」


たしかにその通りでもある。

それなりに人材も揃い、多くのことがリュウヤの手から離れている。

国境についても、不安定要素があるのはトライア山脈を越えた北方地域のみ。


「三年を目処に、そう言ってたけど、早くなることは悪くないと思うわよ。」


三年を目処にしているとは、かつての自分の発言だ。

言い訳に使おうと思っていたら、アイニッキに先回りされてしまった。


アイニッキの目が、いつになく真剣にリュウヤを見ている。


子の幸せを願う母親の目とは、こういうものなのだろうか?

ふとそんな疑問が頭をよぎる。


サクヤはそんなふたりの様子に、口を挟めずにいる。

アイニッキは自分のために言ってくれている。そのことがわかるだけに、アイニッキには何も言えない。

そしてリュウヤには、その本心を聞きたいがために何も言えない。


アナスタシアは、そんな状況を興味深そうに見ている。


そんな中、リュウヤが口を開く。


「春は無理だな。イストール王国とオスト王国で即位式がある。

準備期間を考えるなら、秋以降。

収穫祭の後の方がいいかな。

準備は、アイニッキに任せるとしよう。」


その言葉にアイニッキは笑顔になる。


「サクヤちゃん、来年の今頃には、晴れて夫婦になるのよ。」


理解が追いつかないサクヤは、口を半開きにしたまま固まっている。


「サクヤ様、おめでとうございます。」


アナスタシアの祝福の言葉に、我に帰る。


「リュウヤ様、本当によろしいのですか?」


その言葉に、リュウヤはサクヤを抱き寄せ、


「いいんだよ、サクヤ。」


そう答える。


そのふたりを見ながら、


「さあ、盛大な結婚式にしないと。」


そう腕まくりをしているアイニッキと、そんな三人を見ているアナスタシア。


そこにギイが帰ってくる。


室内の妙な雰囲気を感じとり、


「何があったんじゃ?」


と口にする。

それにアイニッキが、リュウヤが止めるよりも早く口にする。


「サクヤちゃんとリュウヤさんが、秋に結婚式を挙げることが決まったのよ。」


そんなことを耳にすればギイがどうするか?


「それは目出度い。

目出度い場には酒じゃ!!

他の奴らも呼んでこい!!」


こうなるのである。


「明日は、二日酔い決定だな。」


そうボヤくリュウヤの手を、サクヤはしっかりと握っていた。


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