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龍帝記  作者: 久万聖
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昼食での会話

この日リュウヤは昼食に、レティシア、アデリーナ、クリスティーネの3人を招いていた。


他に同席しているのはサクヤとアナスタシア、筆頭書記官のミーティア。それになぜかアイニッキがいる。


「雪像の構想に忙しいらしくて。

最近はお昼を食べに戻らないのよ。」


とのことである。

そこでサクヤの好物だというスープをたっぷりと入った鍋を抱えて、昼食に参加したのだ。


「美味しい。」


アイニッキのスープは、王女たちにも好評のようである。


そのアイニッキのスープが残り少なくなってきた頃、リュウヤがレティシアらに切り出す。


「君たち3人を招いたのは、意見を聞きたかったからだ。」


そう話し出すと、オスト王国、パドヴァ王国の王族・貴族を猶子とする考えがあることを伝え、その理由を話す。


この場にいる3人は、それぞれにやりたいことを見つけたと思われる。

このままリュウヤの元に居られるのであればよいのだが、本国の事情によっては戻らなければならない。

レティシアやアデリーナら、パドヴァ王国の者たちはそこまでのことはないかもしれない。

問題となるのはクリスティーネら、オスト王国の者たちだ。

オスト王国の次期国王ジギスムントには兄弟が多い。

公認されているだけでも、12男16女もの兄弟がいる。

兄弟が多いということは、それだけ血縁のスペアがあるということになるのだが、それもジギスムントにそれだけの力量があってのこと。

その力量が無ければ、むしろ火種となりかねない。

兄弟姉妹で、血で血を洗う抗争になることだって珍しくはないのだ。


劉邦の建てた前漢(西漢)や、三国時代を終わらせた西晋は、建国者が死ぬとその後継者の兄弟たちが牙を剥き、内乱に発展している。

ことに西晋はその結果、国力を大幅に減殺して北方異民族による侵略を受け、滅亡の憂き目にあっている。

その後、なんとか建て直して東晋として復興するものの、かつての領域を回復することはできず、文字通りに血生臭い南北朝時代を到来させてしまった。


ラスカリス候がまとめている間はよいが、彼の後継者に能力があるとは限らない。

もし争乱になった時、この地にいる3人も巻き込まれる可能性がある。


また、そういう争乱が無かったとしても、せっかく見つけたやりたいことを、放棄しなければならない状況が生まれるかもしれない。


だが、たとえ形式だけであったとしてもリュウヤの子となれば、その心配もなくなる。


「返事はすぐでなくてもいい。ただ、俺がお前たちのことを大切に思っていること。それだけは知っておいてほしい。」


そう締めくくった。







☆ ☆ ☆








昼食後。


退出しようとするクリスティーネを呼び止める。


再び席に座るクリスティーネに、リュウヤは話しかける。


「薬学・薬草学は面白いか?」


「はい。今まで知らなかったことを学べて、とても楽しいです。」


明るい笑顔で返事をする。


「そうか。アウクスティもクリスには才能があると、そう評していたぞ。」


嬉しそうにしているクリスティーネに、


「だからこそ、クリスに言っておかなければならないことがある。」


その言葉に緊張した面持ちを見せるクリスティーネ。

そして、その内容を知りたそうにしているサクヤとアイニッキ。


「薬学や薬草学。それを加えて医学だと俺は思っている。

そして、医学もまた科学や化学でもある。」


生命科学や細菌学、ウィルス学も関わってくるのだから、あながち間違いではないとリュウヤは考えている。


「そういった物は、時に発見者や提唱者の意図とは正反対の方向に理解されてしまうことがある。」


その言葉に、3人は虚をつかれたような表情を見せ、それぞれの顔を見る。


「俺のいた世界に、荻野久作(おぎのきゅうさく)という医学者がいた。」


「その、荻野久作という方は、どういった研究をされていたのでしょうか?」


クリスティーネの質問。


「女性の月経周期と妊娠の関係性の研究だ。」


月経と聞いて、サクヤとクリスティーネは頰を赤らめる。


「荻野久作は、月経周期と妊娠の関係性を調べることで、女性の不妊や多産による負担の軽減をもたらせると考えていたんだ。」


当時、荻野久作がいた新潟県の農村地帯では、後継を産めないがために離縁されたり、望んでいないにも関わらず子沢山になってしまい、苦しい生活を強いられていた女性が多数存在した。


それを少しでも救済できないかと考え、通院している女性たちの協力を得て、月経周期と妊娠の関係性を突き止めた。


3年の歳月を経て、その研究論文を発表。

日本国内では反発が多かったものの、ドイツで発表されると現地の学会誌に掲載されるなど、大きな反響を呼んだ。


そして問題はここから起きる。

荻野久作はあくまでも不妊治療や多産の抑制により、女性の負担軽減を目指したにも関わらず、オーストリア人のヘルマン・クナウスはこの研究論文の内容を逆転させ、不妊法として提唱してしまったのだ。

そのことに荻野は反対意見を表明するが、不本意にもこの不妊法は「オギノ式」として定着してしまう。


しかも、それに追い打ちをかけるようにローマ法王が、


「ヴァチカンが認める避妊法はオギノ式だけだ。」


と発言してしまい、「法王庁の避妊法」として権威付けられてしまったのだ。


こうなってしまうと、もはや提唱者である荻野久作が何を言っても無駄である。


結果として、不妊治療の一助であり多産による女性の負担軽減という目的で発表されたにも関わらず、正反対の方向で定着してしまったのである。


「つまるところ、受け取る側は自分たちに都合の良いように解釈してしまう。

そうしない、ならないために常に留意しなければならない、そういうことだ。」


「わかりました。曲解させたり、誤解を招かないように、発表には注意します。」


研究者として心がけてほしいことを伝えたつもりだが、どこまで理解してくれただろう?


クリスティーネはリュウヤらに一礼すると、退室していった。





中国史の南北朝時代は、皇族同士の殺し合いだけでなく、滅亡時の殺戮の凄まじさもあり、歴史初心者にはかなり敷居が高い時代です。


わずか10歳で後継者争いに巻き込まれた「劉子鸞(りゅうしらん)」は、処刑される際に「願わくは身がふたたび王家に生まれることのなきように」と言い残しています。

また、彼の同腹の幼い弟妹も、処刑されています。

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