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龍帝記  作者: 久万聖
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クリスティーネ

岩山の王宮の周囲にも、雪がちらつき始める。


王宮内は意外と暖かく、アナスタシアやクリスティーネ、エレオノーラ、マクシミリアンらは意外そうにしている。


「この岩山が一枚岩なことと、そのおかげで隙間風などが入ってこないこと、岩山そのものの保温力のおかげだそうですよ。」


説明しているのはレティシア。

昨冬、同じ疑問を持った時に同様の説明をリュウヤから受けている。


クリスティーネは、その説明を不思議に感じてしまう。


オスト王国の宮廷魔術師たちならきっと、


「精霊の力が強く働いているのでしょう。」


とでも答えたに違いない。


だが、ここでは違う。

精霊の力という曖昧なものではなく、しっかり昨冬の温度の変化を記録したものを見せながら説明している。


「リュウヤ陛下のいらっしゃった世界では、そういう世の(ことわり)を追求する学問が進んでいるそうです。」


「理の追求をする学問?」


「はい。それを科学(サイエンス)化学(ケミストリー)と呼ぶそうですよ。」


「科学と化学・・・。」


クリスティーネは聞きなれぬ言葉を繰り返し呟いていた。













クリスティーネがリュウヤに連れられて来たのは、ドワーフとエルフが共同開発している、鉛白や水銀を使用しない白粉(おしろい)の研究施設。


「科学と化学、それを知りたい。」


そう口にしたクリスティーネを、リュウヤがその端緒となりうると考え、連れてきたのだ。


「鉛白や水銀を使わない白粉、ですか?」


「そう。鉛白も水銀も、身体に害を及ぼす物質なんだよ。だから、それを使わない白粉を開発させていたんだ。」


そういえばと、クリスティーネは思い出す。


この国に入った時、白粉は全て没収、廃棄されていたことを。

それは何もオスト王国だけではなく、セルヴィ王国の使節団も同じだったという。

あの時は、なぜ没収するのかわからなかったのだが、そう説明されると納得できる。

しかも、その代用品まで開発していると聞けば尚更のこと。


それがある程度の形になったと報告を受け、リュウヤが視察に訪れた。


「これがその試作品でございます。」


ドワーフのテムルから差し出された銀製の器の中には、白い粉末が入っている。


それを秘書官ミーティアと侍女リゼッタ、なぜかついてきているナスチャに


「試してみたらどうだ?」


と渡す。


驚き、辞退しようとするリゼッタに対し、ナスチャは遠慮なく受け取り、手の甲に塗る。


その遠慮のなさに驚きつつ、リゼッタも手に取って塗ってみる。


「へえ。王女様とかって、こんなのをつかっているのかあ。」


感心したようなナスチャの声。

それにつられるように、リゼッタも、


肌理(きめ)が細かくて滑らかです。」


感想を口にする。


「私は、あまりわからないです。」


とはミーティア。

エルフたちは、そういう化粧品を使うことがまず無いとのことなので、違い以前に使用感がわからない。


「陛下、私も試してみてもよろしいでしょうか?」


今いる者たちの中で、一番化粧品に詳しいのはクリスティーネだろう。

ゆえにリュウヤには拒絶する理由がない。


銀製の器を受け取り、早速、手の甲に塗ってみる。


「肌理はとても細かいです。ですが、白さはそこまでではありませんね。」


率直に感想を述べる。


日本において、鉛が入った白粉の販売が禁止されても、より白く見せたいがために鉛入りの白粉が売れ続けたというから、まだ白さが足りないのかもしれない。


「だが、日焼け防止の為としたならば、販売してもよいかもしれないな。」


現時点で最も要望が多いのが、日焼け防止としてなのだ。


「たしかに、日焼け防止としてなら十分に要は足せましょう。」


そこで資金を稼ぎつつ、開発を続行させるか?


いや、これをファンデーションとして普及させてはどうだろうか?


「クリスティーネ、これで表面を整えてから頬紅(ほおべに)を使うというのはどうだろう?」


日本風に言うならば、基礎化粧品として売り出してみたらどうだろうか?


虚を突かれたような表情を見せた後、


「それは面白いかもしれません。」


クリスティーネがそう口にする。


そうなると、どうやってその利点を活かした売り方ができるだろうか?


「冬の間、王宮勤めの者たちに試させてみよう。

その中で、手本となりそうなものがあれば、それを前面に押し出そう。」


そのための数を揃えられるか、テムルに確認する。


「数を揃えることは可能です。」


その返事を得ると、ミーティアといくつかのやり取りを行い、実施するための段取りを大雑把ではあるが組まれる。

細かなところは、秘書たちが集まって協議されることになる。













次いで、リュウヤたちが来たのは、ドヴェルグとドワーフが協力して行われている実験現場である。


天狗(てんこう)族に命じて入手した硫黄と硝石。そして木炭を使う。


そう、黒色火薬の作成実験の現場である。


それぞれの配合を色々と変え、試作している。


試作した火薬を小さな陶器の壺に入れ、順番に点火させていく。


用意された壺の3割が小さな爆発を起こしている。


「とりあえずは、成功か。」


後は、より爆発力の高い配合を見つけ出すことと、量の確保が必要になるだろう。


兵器として活用するには、まだ時間がかかるだろう。


「あれはいったい?」


クリスティーネの質問に、


「火薬というものだ。魔法を使えないものたち用に、魔法の代わりになるものをと、そう考えたんだ。」


リュウヤが答える。


これも"科学"や"化学"なのだろうか?


どこか、話に聞く錬金術に似ているような気がするのだが。


そんな疑問をぶつけると、


「そうだな。俺のいた世界では、科学や化学の礎となったのは錬金術ではある。

ただ、あちらの世界には魔法が存在しないからな。」


そのため、錬金術もまったく違う形に進化している。


「魔法がある分この世界の錬金術、化学や化学というのは大雑把に見える。

向こうの世界は魔法が存在しないだけ、緻密にならざるを得ない。

それは、医学も同じだろうな。」


そう言われて、クリスティーネは深く考えこんでいた。

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