表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
龍帝記  作者: 久万聖
294/463

冬の間の企画

リュウヤは執務室に戻ると、アルテアとナスチャ、バッセルの3人を呼ぶ。


「今日はご苦労。特にアルテアは、本来の仕事ではないというのに、よくやってくれた。」


リュウヤが労いの言葉をかける。


「バッセルは蟲使いの村以来か、顔を合わせるのは。」


「は、はい!」


バッセルはもともと養蜂のアドバイザーとして来ている。


「養蜂の方も、随分と効果を発揮していると聞いている。」


顔を覚えられているだけでなく、自分のしてきたことを評価されたことに、自然と顔がほころぶ。


「これなんだよなあ、王様(おーさま)はさ。」


ナスチャが口を尖らせて言う。


「他の奴なら大して褒めないような小さなことでも、しっかりと褒めるんだよなぁ。しかも、顔と名前まで覚えてるんだよ。」


どこか呆れたような賞賛を口にするナスチャ。


「前にも言ったけど、フツーの王族やら貴族なんてのは、もっと踏ん反りかえってるもんだぜ?」


それに苦笑しながらリュウヤは答える。


「俺は初代だからな。」


代を重ねていくと、能力でなく血統によって継承された者は勘違いをしやすくなる。

自分は高貴な選ばれた血統だから何をしても許される、と。


それに対して初代というのは、民衆の支持を土台にして戦うことが多い。

むしろ、積極的に民衆の支持を得なければ、簡単に潰されてしまう。

漢の高祖・劉邦(注1)が項羽(注2)に敗れ続けながらも、最後に勝利することができたのは、民衆の支持あればこそだ。


「そんなもんかねえ?」


「そんなもんさ。」


そんなやりとりが終わると、アルテアとバッセルのふたりが退出し、なぜかナスチャが残る。


「どうかしたのか?」


リュウヤの問いに、


「これから晩飯なんだろ?あたいも食べさせてもらおうと思って。」


この図太さに苦笑するが、ナスチャが一瞬だけ見せた表情を見逃さない。


「何か話したいことでもあるのか?」


「うん、まあね。」


どこか真剣な、それでいて揶揄(からか)うような表情で、ナスチャは答えていた。












夕食、同席したのはサクヤとエストレイシア、フェミリンス、ミーティア、そしてナスチャである。


業務報告を受け、それに対する感想や意見を述べ合う。


一対一で行うことの方が多いが、多人数でディスカッションのように行うことも、リュウヤは重要視している。


多くの視点から見ることで、問題点もより浮かびあがらせることもあるからだ。


そういったことも終わり、ナスチャが口を開く。


「アルテアがさ、デートしてみたいって言ってたんだよ。」


「アルテアが?」


エストレイシアが興味深そうに反応を見せ、フェミリンスは先を促す。


「いやさ、今日は王様(おーさま)とユーリャのデートを護衛していたんだけど、その時にポロっと言ってたんだ。」


「アルテアもそういう年頃なのだろう。」


エストレイシアはそう感想を述べる。


「デートをしてみたいと言うのはいいが、相手がいるのか?

そんな風には見えないのだが。」


リュウヤがアルテアの様子を思い浮かべながら、口にする。

リュウヤ付きとして忙しく動き回っており、出会いの時間があるようには見えない。


「そう、それなんだよ。デートしたくても、そういう出会いっていうの?そんな機会がないことを愚痴ったんじゃないかって。」


なるほどと思う。


「アルテアがその気なら、いくらでも相手はいると思うぞ?

デックアールヴの男たちからの人気はあるからな。」


「それを言うなら、リョースアールヴの男たちからもそうですよ。」


ここでフェミリンスも口をはさむ。


「でも、アルテア自身はどうなのでしょう?異種族でもよいのかどうか・・・」


控えめなサクヤの言葉だが、これはかなり重要なことだ。


寿命の違いという問題がある。

この世界の人間族(ヒューマン)の平均寿命が、大体50歳弱だ。


それに対してエルフやドワーフで数百年。

両アールヴに至っては、基本的には不死だ。


「王宮内にいると、そのことを忘れがちになるな。」


リュウヤがそうこぼす。


「まったくだよ。色々と非常識だからな、この国は。」


リュウヤの元に、多種族が纏まっている状況というのは、たしかにこの世界の常識からかけ離れているのだろう。


「ですけど、エルフは人間族と交わる者もけっこういますよ?」


ミーティアの発言。ハーフエルフもいるのだから、たしかにその通りではあるだろう。

ただ、人間族、エルフの双方から受け入れられず、迫害される事例も多いという。


この国であれば、少なくとも迫害される事例は減少するだろう。


「偏見を無くす為にも、異種族間の婚姻は行なってほしいとは思うが、こればかりは個人の価値観の問題だからな。」


リュウヤとしては当然の感想なのだが、この世界の常識ではない。

むしろ、リュウヤが命じたらいいではないか、そういう言葉が出てくるだろう。


この場にいる5人は、リュウヤに感化されているのかそういう言葉が出てくる者たちではないが。


「それでしたら、出会いの場を作ってみてはいかがでしょう?」


サクヤの提案。


出会いの場を作るとなると、リュウヤが思い浮かぶのは合コンやかつての人気番組の企画、「ねるとん」を思い浮かべてしまう。


「そうだな。冬の間に、何か企画してみるか。」


娯楽も少なく、また雪に埋もれるこの地では出来ることも少なくなる。


それに、そういうカップルが成立したら、それは明るい話題になるに違いない。


アルテアの呟きは、本人の思いもよらぬ方向へと向かって行く。

(注1)劉邦、(あざな)は季と伝わるが、これは劉家の末っ子という意味。

極めて寛容な人物として知られ、人心掌握術に優れていた。

大酒飲みであり、大の女好きとしても知られる。



(注2)項羽。姓を項、名は籍、字が羽であり、諸葛孔明と同様に、姓+字で表記されることが多い。

戦闘そのものには途轍もなく強いが、側近ばかり重用したり、無用な殺戮を繰り広げたりしたため民衆や諸侯の支持を失い、垓下(がいか)(たたか)いで戦死。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ