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龍帝記  作者: 久万聖
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アルテアの憂鬱

なぜこんなことになっているのか、アルテアは戸惑っている。


彼女の前方5〜60メートルに、自身が仕える国王と大地母神(イシス)の聖女ユーリャがいる。

そして、彼女の傍には蜘蛛使いのナスチャと、初めて顔を合わせる蜂使いのバッセル。


「あの〜、なんで私がここにいるのでしょうか?」


疑問を口にするアルテア。


自分はただの侍女のはずなのに。


「決まってるだろ?蜘蛛を使えるからだよ。」


ナスチャが当たり前のように答える。


「タカオから聞いてなかったのか?」


・・・、何か聞いていたような気がする。


でも、リュウヤ陛下の観察と言われていたような気がする。

間違っても、ナスチャ達とともに護衛(・・)とは聞いていない。


「仕方ないだろ?」


ナスチャの言葉。


そう、仕方がない。


この国は多種族共存国家ではあるが、それでも最も多いのは人間族(ヒューマン)

多いという言い方は控えめなもので、圧倒的多数は人間族なのだ。


それ以外の種族は、すべて合わせても1割以下。


そうなると、いくらこの国では珍しくないと言っても、目立ってしまう。

今回のような隠密行動が必要な護衛としては不適格なのだ。


その一方で、人間族は護衛としては力不足。


ただ、その中でも例外というのは存在するもので、それが蟲使い達であり、サスケとサイゾーという二匹の蜘蛛を扱えるアルテアなのだ。


ただ、流石に護衛はアルテア達だけではない。


隠密行動に秀でた天狗(てんこう)族がリュウヤの周辺に展開しており、何かあれば最初に行動することになる。


その後、アルテアらが行動して、さらに周辺に控えている鬼人(オーガ)族が対応。

さらにその外側に控えているエルフ達が、襲撃者を確保する手はずになっている。


なので、アルテア達の役目は、鬼人族が駆けつけるまでの時間稼ぎである。


ただ、時間稼ぎとはいえ、本来は侍女である自分がそれに駆り出されるのは、不本意でしかない。


リュウヤたちがテラス席のある、最近話題になっているという茶店でお茶と軽食を食べているのを見ると、なんでこんなことになっているのだろう、そう考えてしまう。


それと同時に考えてしまうのが、自身の恋愛事情である。


彼女が勤める王宮は外とは違い、他種族の割合が高いのだ。

しかも、彼女と接点が多いリュウヤの側近のほとんどが人間族以外であり、数少ない人間族も元王族や貴族だったりすることが多く、踏み込める自信がない。


そんなことを考えているうちに陽は傾き、リュウヤとユーリャのデート(らしきもの)は何事もなく終わりを迎える。


無事、勤めを果たしたアルテアは、本人としては小さな声で言ったつもりの一言を呟く。


「ああ、私もデートしたみたいなあ。」


この言葉が小さな騒動を巻き起こすことになるとは思わずに。

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