収穫祭の日
謹慎残り5日。
この日、朝からユーリャに責められていた。
その理由は、「大地母神神殿主催の収穫祭」に参加できないことだった。
代理としてサクヤを出席させるのだが、ユーリャはリュウヤが参加しないことに文句をつけにきたのだ。
「陛下、もう身体は大丈夫なんでしょ?
だったら来てもいいじゃない!!」
国民に対しては、さすがに国王が謹慎では示しがつかないため、療養としている。
だから、表向きの理由ならば、出席しても問題はないのだ。
とはいえ、自分から謹慎と宣言している以上、出席は憚られる。
「むー!!」
ユーリャを宥めながら、リュウヤも説明をするのだが、なかなか納得してもらえない。
たまらず、同席しているアリフレートも説得するのだが、
「むー!!」
不機嫌な、この言葉にもならない一言で粉砕される。
なんとかなったのは、サクヤの提案をユーリャが受けたからである。
サクヤの提案。
それは、謹慎が明けたら、リュウヤがひとつだけユーリャの言うことを聞く、というものである。
その提案を受けてユーリャはすぐさま、
「じゃあ、陛下とデート!」
そう宣言する。
思わず頰を引きつらせたサクヤだが、自分が言い出したことである以上、反対はできない。
またリュウヤとしても、この場を治めるためのサクヤの提案であることを理解しているため、拒否はできない。
こうして、謹慎明けのデートが決定してしまったのである。
ユーリャが収穫祭に行き、静かになった私室でリュウヤは思案している。
アデライードからの依頼である、招待状の送り先をどうするのか。
彼女の指定先は全員発送するが、それ以外をどうするのか?
ドワーフの国カルバハル、獣人族の国は発送する。
それ以外は?
アデライードの作成したリストを見返しながら、その中に入っていない名前への発送を決める。
アデライードは嫌がるだろうと思いながら決めた相手、ブレソール・エガリテ宛に。
昼食の後、キュウビから報告を受ける。
「陛下、大地母神神殿総本山の者が、バーレに接触しています。」
「収穫祭を狙ってきたか。」
「はい。聖女が主催する収穫祭なら、外部からも多数の者がやって来ますから。
紛れ込むには好都合でしょう。」
木を隠すなら森の中、人を隠すなら人混みの中ということか。
「バーレが危害を加えられる可能性は?」
「バーレはもちろん、ユーリャやアリフレートの周辺にも、しっかりと護衛をつけてあります。
もちろん、相手も監視下に置いてあります。」
どうやら、抜かりはないようだ。
「動きがあれば報告しろ。」
「承知致しました。」
キュウビを、名前を偽ってまで侍女として側に置いたのは、こういった時のためである。
リュウヤ付きの侍女であれば、リュウヤと同じ部屋にいても当たり前のことであり、怪しまれることはない。
それが侍女長であれは尚更のことである。
そしてもうひとりのナギにしてもそうだ。
キュウビが何か指示を出しても、それは上司であるキュウビが部下に指示を出したとしか見られない。
非常に都合のよい状況を整えているのだ。
そしてこの日、リュウヤは諜報部隊としての天狗族の力の一端を目の当たりにすることになる。