雪まつりの準備
謹慎も残り10日。
身体の方は痛みもなく、元に戻ったように感じられる。
ただ、それも日常生活でのこと。
戦いとなれば身体の動かし方も、力の入り具合も違う。
試そうとするなら、やはりそれなりの強者を相手にするしかない。
だが、誰が相手になってくれるやら。
第一候補の龍人族は、そういう話題から逃げ回っている。
すると鬼人族か。
だが、その鬼人族も名うての強者である3人を叩き潰したからなあ。
そうなると、誰が相手をしてくれるやら。
そんなことを考えていると、扉を叩く音がする。
今日の当番である、人間族の侍女リゼッタと夢魔族の侍女メッサリーナが対応する。
来訪者はギイとトルイ。
ふたりは入室するなりリュウヤに詰め寄る。
「いつやるんじゃ!?」
「いつやるのです!?」
は?
いったいなんのことだ?
なんのことかわからないという顔をしているリュウヤに、苛ついたようにふたりが一層詰め寄ってくる。
「昨冬、次の冬から始めると仰っていたではありませんか!!」
机を叩き、トルイが大きな声で言う。
昨冬・・・。
ドヴェルグとドワーフ・・・。
「ああ、そうだったな。もうそんな時期か。」
そう言って窓からトライア山脈の方を見る。
山頂付近から少しずつ、雪化粧が始まっていることがわかる。
昨冬、リュウネやトール族が作っていた雪だるまを見て、雪像作りを含めて"札幌雪まつり"のようなイベントができたら、そんなことを話していたっけ。
「雪が本格的に降るのはいつ頃になるかな?」
このあたりのことは、トライア山脈北方に住んでいたアールヴやエルフたちに確認する必要があるだろう。
いや、この場にはトライア山脈を住処としていたドワーフがいる。
「一月半もすれば本格的に降りましょう。」
すると、雪像作りができるほど積もるのは二ヶ月後くらいか。
ならば開催は、
「三ヶ月後だな、開催は。」
リュウヤはそう口にする。
「三ヶ月後じゃな!」
言質をとったと言わんばかりに、ギイはリュウヤに顔を寄せる。
「あ、ああ、三ヶ月後だ。」
「聞いたかトルイ!!三ヶ月後に、引導を渡してくれるわ!!」
「何を言われますか!!引導を渡すのはこちらの方です!!」
リュウヤの前で睨み合うふたり。
漫画的に表現するなら、ふたりの視線の間には火花が散っていることだろう。
「細かいことは、追って知らせる。
それでいいな?」
「「もちろん!!」」
異口同音に返事をすると、睨み合いを続けながら退室するという器用な技を見せた。
昼食の時間。
リュウヤの私室に来ているのはサクヤとアデライード。
レティシアとマロツィアもいる。
そこで、先ほどのギイとトルイとの話を伝える。
「それは面白いことですわ。」
アデライードの言葉だ。
「是非とも、これを大きなイベントにしましょう!」
アデライードにしては珍しく、興奮しているようである。
こういうイベントの価値を最も理解しているのが、アデライードである。
このイベントを通じて、色々なことが行えることが嬉しいのだろう。
「昨年通りなら、冬は雪に埋もれてしまって娯楽がありませんからね。」
とはサクヤ。
そう、それだからこそリュウヤも使えると考え、札幌雪まつりのようなものにしたいと思ったのだ。
「陛下。この件、私に仕切らせていただけませんか?」
「アデライードがやってくれるというのなら、これほど心強いものはない。
だが、仕事を抱え過ぎてはいないか?」
内政の大部分はアデライードが担当している。
産業振興にインフラ整備。財務関連もアデライードが担当しており、外交交渉に駆り出されることも多々ある。
それに加えて、今回の仕事を加えることは躊躇われる。
「いえ、外交に関してはカルミラ殿が対応できますし、財務はライラ殿が。
産業振興やインフラ整備に関しては、雪の積もる中で作業はできません。」
なるほど、季節柄、できる仕事が激減してしまうということか。
なら、全てを任せても良いのだろう。
「わかった。任せよう。
俺がすることがあれば、いつでも伝えてくれ。」
「ありがとうございます。
陛下には、後ほどお願いしたいことがございますので、お時間を頂ければと。」
「謹慎中の身だ。いつでも来たらいい。」
「わかりました。」
アデライードが何を求めているか、大凡の予想はついている。
他国への招待状の発送だろう。
そこに、国王の名を入れることでイベントの箔をつける。
アデライードの方を一瞥すると、どうやらこちらが予想をつけていることに気づいているようだ。
アデライードは一礼すると席を立ち、退室していった。
2時間ほどして戻ってきたアデライードの要請は、リュウヤの予想したものと同じだった。
招待状の宛先は、イストール王国、オスト王国、セルヴィ王国、パドヴァ王国の有力者。
そして、有力商人だった。