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龍帝記  作者: 久万聖
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サクヤとエレオノーラ

謹慎期間中。


執務室を私室にしたこと以外では、リュウヤに大きな変化はない。


サクヤの水魔法の直撃を受けたダメージはなかなか抜けず、今だに歩行が不安定なため、書類の決済が唯一といっていいできる仕事である。


リュウヤ自身に変化は無くとも、周囲に変化は生まれている。


その最たるものは、若年者の行動だろう。


リュウネやユーリャ、エレオノーラにマロツィア、アナスタシアやコジモ、レティシアらは暇を見つけてはリュウヤの私室にやって来る。

ただ、ユーリャの場合は無理矢理(・・・・)に暇を作ってはやって来て、アリフレートに怒られている。


困った問題も起きていて、エレオノーラはリュウヤに怪我をさせたのがサクヤだと知り、


「リュウヤ陛下にお怪我をさせるなんて、サクヤ様なんて大嫌い!!」


とやってしまい、サクヤは一層落ち込んでしまっている。


そのため、サクヤはエレオノーラがいる時には、リュウヤの私室に来れなくなってしまっている。


目に見えるリュウヤ周辺の変化は、日替わりでリュウヤ付きとして行動する侍女が最低でもふたり付けられることになったことだろう。


正直、窮屈に感じてしまうのだが、これも勝手な行動をしたことが原因であり、自業自得であろう。


また、秘書官のミーティアにも、見込みのある者がいれば、登用して教育を施すように伝えている。

これは、彼女が来た当初と比較して、組織そのものが大きくなり、仕事量が増加したことによる。


そのため、今までは単なる秘書官だったのが、"国王付き筆頭秘書官"という肩書きを与えられている。


ミーティアは早速、以前から目をつけていた人材をスカウトして、教育を始めている。

これは、リュウヤの謹慎期間中に少しでも戦力にすることを考えての行動だ。


謹慎期間中は、フェミリンスも相談役という立場上、リュウヤの私室に詰めている。


リュウヤの謹慎期間を利用しているのは、執事アスランも同じである。

アスランもまた、自分が所用で出ている時のリュウヤの周辺のマネージメントできる人材の育成に励んでいる。


そのうちのひとりに、近衛の一員だったマテオがいる。


マテオは、著しく強化されていく近衛の中での立ち位置に疑問を覚えていた。

そのため辞表を提出しようとしていたのだが、そこをアスランがスカウトしてきたのだ。


「あの誠実さは、執事として良い資質だ。」


とのことで、リュウヤ及び、近衛隊長タカオの許可を得て、執事としての教育を施すことになった。








この日の昼食。


エレオノーラが勉強のため、リュウヤの私室に来れないことが確定すると、サクヤはリュウヤに呼ばれてやってきた。


サクヤが来室すると、リュウヤはベッドから降り、立ち上がろうとする。

立ち上がろうとはしたものの、リュウヤはふらつき、倒れそうになる。


慌ててサクヤが寄り添い、その身体を支えてテーブルに誘導する。


「無理をしないでください、リュウヤ様。」


「すまんな。」


サクヤの介助で席に座る。


給仕を務めるのは、ナギとイチョウ、そして侍女長となったノワケことキュウビである。


元々、潜入することを得意としているだけあって、その侍女としての働きぶりは見事なもので、女官長ウィラすら目を見張るほどである。


手際よく並べられた料理、といっても量は多くはなく、元々が昼食の習慣がなかったため、日本でいうところの軽食よりもやや多いくらいである。


「リュウヤ様、あの、ノーラ(エレオノーラの愛称)は?」


「今日は、家庭教師がついての勉強の日だ。」


「そうですか・・・」


家庭教師は、オスト王国からエレオノーラやクリスティーネ、マクシミリアンの教育のために同行している。


「ノーラの言葉を気にしているのか?」


「・・・・」


返事はないが、その沈黙こそが答えだろう。


怒りに身を任せてリュウヤを攻撃して、怪我をさせたのは事実なのだ。

それを責められると、サクヤとしても非常に辛いのだろう。


ただ、リュウヤにしてみるとサクヤの、ノーラとの接触を避けるという行為は悪手にみえる。


接触を避けているサクヤにはわからないだろうが、エレオノーラの方は、自分が言ってしまった言葉の影響に戸惑い、謝ろうにも謝れない状況になっている。

それを口で説明しても、サクヤもその様子を知らない以上、理解されないだろう。


だから、サクヤにその様子を見せるために言う。


「ノーラが来たら、呼ぶから時間を空けておいてくれ。」


と。








サクヤが退室し後片付けが粗方終わると、


「まるで親子のような会話でしたわね、陛下。」


キュウビが揶揄(からか)うような口調で話しかける。


「俺もそう思うよ。」


苦笑しながらリュウヤは返す。


実年齢はともかく、精神年齢でいうならば、間違いなく親子のようなものだろう。


リュウヤや40代半ばでこの世界に召喚されており、精神年齢も相応か、それ以上だろう。


ではサクヤはというと、実年齢こそ120歳以上だが、精神年齢としては20歳から25歳くらいだろう。


その年齢差を考えれば、親子と言われても仕方がない。


キュウビが一礼して下がると、リュウヤは書類の山と格闘を始めたのだった。










日がやや傾いてきた頃、エレオノーラとクリスティーネが来室する。


ナギがクッキーとお茶を用意して、ベッド脇に置かれたテーブルで食べている。


主に話をするのはエレオノーラ。


今日、どんなことを勉強したのかを、リュウヤに報告している。


これこそ、まさに親子のような会話なのだが、同席しているクリスティーネによれば、その見方も外れてはいないらしい。

全員で28人もの子供がいる実父アリボ二世には、こんな風に話しができる時間など皆無だったのだそうだ。

そしてなにより、アリボ二世は後宮にいることが多く、顔を合わせることもほとんどなかったのだとか。


だから、


「ノーラは、陛下に理想の父親を映し出しているのかもしれません。」


とクリスティーネは言う。


そうして過ごしていると、やがてエレオノーラがそわそわしだす。


「どうかしたのか、ノーラ?」


そうリュウヤに問われると、俯きながら、


「サクヤ様、今日は来られるのかなって。」


「サクヤに、何か用があったのかな?」


頭をぶんぶんと横に振り、


「違うの!サクヤ様に酷いこと言っちゃったから、謝りたくて・・・。」


リュウヤはエレオノーラの頭に手を乗せて、続きを促す。


「大嫌い、なんて言ってしまって、サクヤ様に悲しいお顔をさせてしまって・・・」


ここで泣きだしながら、


「クリス姉様に、相談したら・・・、ごめんなさいって謝ったら、きっとサクヤ様は許してくださるって・・・、でも、・・・でも、なかなかサクヤ様に会えなくって・・・」


ここで大泣きしてしまい、言葉が続かない。


リュウヤはエレオノーラを抱え上げ、優しく頭を撫でながら、


「大嫌いって言ってしまって、引っ込みがつかなくなってしまったんだね?」


話しかける。


エレオノーラは首を縦に振る。


「ノーラは、サクヤのことが大好きなんだね?」


この言葉にも、エレオノーラは首を縦に振る。


「とってもお綺麗で、優しくて、いつもお話しを聞いてくれて・・・」


そして、再び泣きだしてしまう。


「サクヤに謝りたいんだね?」


その問いに、こくんと頭を縦に振る。


リュウヤは隣の部屋に繋がる扉に向けて声をかける。


「サクヤ、入れ。」


エレオノーラはその言葉に驚いて、リュウヤの顔を見た後、その視線を辿ってみる。


扉を開ける音とともに、サクヤが入ってくる。


「サクヤに謝りたいのだろう?しっかりと謝ってきなさい。

きっと、サクヤは許してくれるから。」


エレオノーラはリュウヤに押されるようにベッドから降りると、サクヤに向けて走り出す。


しっかりとサクヤに抱きつくと、


「サクヤ様、ごめんなさい!サクヤ様に、酷いこと言ってしまって・・・。

本当は、サクヤ様のこと、大好きなのに・・・」


再び泣きだしながら、何度もごめんなさいとサクヤに訴えている。


サクヤもエレオノーラをしっかりと抱きしめ、


「いいのですよ、ノーラ。」


そう言いながら、エレオノーラの背をさすり、落ち着かせようとしている。


これで落ち着くかな、リュウヤはそう呟きクリスティーネを見る。


クリスティーネはリュウヤの視線に気づくと、ホッとしたような笑顔を見せる。


そしてエレオノーラの側に歩み寄り、


「ノーラ、サクヤ様にお渡しするものがあるのでしょう?」


そう言ってエレオノーラに手渡したのは、外で摘み取って来たのであろう小さな花束。


リュウヤにはその品種はわからないが、ナデシコに似ているような気がする。


「ありがとう、ノーラ。」


サクヤは優しく頭を撫でながら、エレオノーラに感謝の言葉をかける。


その微笑ましい様子を見て、もう大丈夫だとリュウヤは確信する。


「サクヤ、ノーラ、クリス。今日はここで夕食を摂らないか?」


「よろしいのですか、陛下?」


リュウヤの言葉に、クリスティーネが驚いて確認する。


「皆が良ければ、だがな。」


その言葉にエレオノーラがはしゃぎ出す。


「サクヤ様と、クリス姉様も一緒!」


とてもいい笑顔を見せている妹を見て、断って悲しませることは避けたいとクリスティーネは思う。

ただ、


「マクシミリアンを呼んでもよろしいでしょうか?」


そう、弟もいるのだ。


「失念していたな。マクシミリアンも呼ぼう。」


これで5人で夕食を摂ることが決まる。


ナギとイチョウを呼ぶと、その旨を伝える。


この日の夕食は、はしゃぐエレオノーラのおかげで、賑やかなものになったのである。



そういえば、天狗族の名前ですが、基本的に風にまつわる言葉になっています

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