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龍帝記  作者: 久万聖
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謹慎へ

アスランとウィラは、アルテアを除いた侍女たちを引き連れている。


「陛下、この部屋に主だった方々を招かれると伺い、その準備のために参りました。」


アスランが(うやうや)しくリュウヤに用件を伝える。


わざとらしい態度だとリュウヤは思ったが、それは口にすることなく、準備をすることを許可する。


そしてリュウヤは、ウィラに問いかける。


「アルテアはどうした?」


「彼女は、謹慎を申し付けております。」


やや棘を含んだ口調で、ウィラは答える。


棘の理由は、リュウヤを止められなかったことと、側付きでありながら、リュウヤの側を離れたことか。


すっとその理由に思い当たるが、この場では口にしない。皆の前で下手に口にしたら、アルテアを擁護していると取られ、他の侍女の反感を招きかねない。


擁護するにも、タイミングが必要なのだ。


一時間ほどで準備が終わり、それを見計らったようにサクヤ達が入室してくる。


それと入れ替わるようにアスランとウィラが退室しようとするが、それをリュウヤが呼び止める。


「アスラン、ウィラ、ふたりは残れ。」


アスランはその言葉を予想していたようで、表情を一切崩さなかったが、ウィラは少し驚いた表情を見せた。


ふたりが最後尾の席に着席したことを確認して、リュウヤはこの場に来た者たちを見渡す。


最初からこの部屋にいるギイとアイニッキ。


そしてサクヤはベッド脇に(しつら)えた席に座っている。サクヤの反対側にヴィティージェとミーティア。

サクヤの隣にはトモエとシズカが立っている。


正面にアデライード、フェミリンス、エストレイシアを中心として、スティール、タカオ、ドルア、ラティエ、トルイ、コジモ、レティシア、クリスティーネ、カルミラ、ライラ、モミジ。さらにアリフレートとユーリャ、ナスチャもいる。


その後ろに、ナギとキュウビ。そしてもうひとりの天狗(てんこう)族の男性イナサ。

イナサは馭者を務めていた者で、キュウビの存在を隠すために族長として紹介される。

また、キュウビもノワケの名で紹介している。


ただ、カルミラ、ライラ、モミジの3人はリュウヤの意図に気づいたのか、リュウヤに向けて不敵な笑みを見せている。


リュウヤは体の向きを変え、ベッドに端座する。


寝間着姿のままだが、その身体のあちこちには包帯が巻かれていることがわかる。


リュウヤが倒れる現場にいた者はともかく、いなかった者たちからは驚きの声があがる。


リュウヤが蹌踉(よろ)めくと、慌ててサクヤがその身体を支える。


あの現場にいた者からしてみれば、よくこの程度で済んだ物だと、別の驚きがある。


「見苦しいところを見せて悪いが、自分の勝手な行動で迷惑をかけたことを謝罪する。」


そう言って頭を下げる。


それからのやりとりは、さながら記者会見のようだった。


口火を切ったのはフェミリンス。


「なぜ、あのような行動を取られたのか、教えていただけませんか?」


後方にいる天狗族の3人を一瞥した後、


「俺が姿を消したひと月ほど前から、天狗族が入り込んでいることに気づいた者はいるか?」


この言葉に、先程はリュウヤに向けて不敵な笑みを浮かべた3人も驚きの表情を見せる。


「敵意が無いことはわかっていたが、その目的がわからなかった。それを見極めるために一度離れることにした。」


それによって天狗族がどう反応して動くのか、それによって狙いがわかるのではないか、そう考えての行動であることを強調する。


「なぜ、供をするのがアルテアとサクラだったのでしょう?」


リュウヤの側近であることを自負する、スティールの言葉だ。その口調には、自分を同行させなかったことを責める色合い込められている。


「当初はひとりで行く気だった。だが、サスケに見つかってな。」


デス・スパイダーの名前を出す。


サスケが(じゃ)れついてきたー他者から見たらとてもそうは見えなかっただろうーことで、時間をとられ、その間にサイゾーがアルテアを呼びに行き、そこにサクラがたまたまいたために、ふたりを連れて行くことになった。


スティールの表情を見るに、意図的にふたりを連れて行ったのではないことを理解したようだが、自分を連れて行かなかったことに納得はしていないようだ。


「なぜ行き先がイストールだったのですか?」


レティシアの発言。

暗に、パドヴァでもよかったのではないか?

そう言っている。


「パドヴァだと、すぐに報告が行くだろうからな。

それに・・・」


ここでアデライードをを一瞥し、


「アデライードの生家、エガリテ家へ挨拶もしたかったということもある。」


また、いくつかの物品を探す依頼をしたことも告げる。


「あと、ユリウスらの様子を見たかったことと、デュラスのところの出産祝いをと、そう考えた。」


アデライードから手紙を預かったことは伏せている。


また、ここで来春のウリエの即位式の日取りが決まったことを伝え、それに参加することと、サクヤを同行させることも伝える。


途中、サクヤがリュウヤの体調を気にして打ち切ろうとするが、リュウヤがそれを抑えて続けさせる。


下手に打ち切っても、かえって不満を醸成してしまい、禍根を残しかねない。

そのことをリュウヤは、かつて居た世界の記者会見などをみて知っている。


昼過ぎから始まった、部下たちとの会談は夕方になってエストレイシアの質問で終わる。


「あのサクヤ様の魔法、陛下には対処法はなかったのでしょうか?」


「あった。」


リュウヤは即答する。

そして、それを聞いたサクヤは驚いたような顔をリュウヤに見せる。


「できますれば、後学のためにその方法を教えていただけませんか?」


「雷系統か、火炎系統の魔法で一気に水を蒸発させる。」


「それが出来なかった理由は?」


「それをしたら、少なくとも半径100メートルの中に居た者を、死なせることになりかねなかったからな。」


あれだけの水量を、一気に蒸発させてしまうと"水蒸気爆発"が起きかねない。


流石に、不意を突かれた状況で皆を守りながら対処は出来なかった。


「・・・わかりました。」


別のことを聞きたかったのかもしれないが、エストレイシアはここで質問を終えて、会談は終わる。


最後に、リュウヤからモミジとウィラに向けた言葉がかけられる。


「アルテアとサクラ、ふたりはどうしている?」


ウィラは先程も答えているが、あえてアルテアのことも問うたのは、皆に聞かせるためでもある。


「アルテアは、謹慎させております。」


「サクラも同様に、謹慎させております。」


それを確認してリュウヤは、


「両者は俺が巻き込んだのだ。よって、ふたりの謹慎を解くように。」


「わかりました。ですが・・・」


ウィラは言葉を続ける。


「側にお仕えしているにも関わらず、主人(あるじ)を守るために残るのではなく、離れたことに対しての罰は必要です。」


予想通りの言葉。


「ならばアルテアの、侍女長としての任を解く。

代わりに、そこにいるノワケをその任に着ける。」


「わかりました。」


ウィラは一礼して下がる。


「今日一日は、謹慎でよろしいでしょうか?」


モミジが確認する。


「それで良い。」


そこで一息入れ、


「それから、今回のことについて、混乱を招いた責任を取るため、今日より30日、俺は謹慎として私室に籠ることにする。」


勝手な行動を取ったのが約10日。アルテアとサクラの分も含めるなら30日でちょうどいいのではないか、リュウヤはそう口にする。


「まあ、それは口実だな。

皆の目にどう写っているかはわからんが、実は今の態勢でいるのもかなり辛くてな。

療養も兼ねての謹慎というわけだ。」


その言葉に、顔を見合わせてホッとしている。


そして、謹慎期間中は私室で政務を執ることも伝え、解散する。


「サクヤ、エストレイシア、カルミラ、ライラは残れ。」


ノワケはウィラについて行き、リュウヤ付きの侍女長としての指導を受けることになる。


「エストレイシア、カルミラ、ライラは、防諜体制を構築するように。

それから、オスマル帝国と翼人族の間が、本格的にきな臭くなっていると、シニシャから連絡があったことは知っているな?」


「はい。一部では小競り合いが発生しそうだと、数日前にも連絡が。」


エストレイシアが答える。


「セルヴィ王国が周辺諸国をまとめるには、まだ時間がかかるだろう。

だから、すぐに我々に影響があるとは思えないが、もしものために情報を集めろ。」


「はい。御下命、承ります。」


3人は一礼して下がる。


そして、この部屋に残ったのはサクヤのみ。


サクヤにだけ、リュウヤはノワケの正体を伝える。


これも、自分がいない時に何かあった時のためである。

当然ながら、そのことはノワケことキュウビにも伝えている。


「少し疲れたな。」


「ゆっくりとお休みください、リュウヤ様。」


「ああ、休ませてもらうよ。」


少しすると、リュウヤは寝息を立て始める。


その寝顔を見ながら、サクヤはリュウヤに謝罪する。


怒りに任せた考えなしの行動を。

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