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龍帝記  作者: 久万聖
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亀の甲より年の功

「やりすぎですよ、サクヤちゃん。」


「まったくじゃ。リュウヤが死んだらどうするんじゃ。」


「ごめんなさい。」


アイニッキとギイに、呆れたように言われて、サクヤは文字通り蚊の鳴くような声で謝っている。


場所はリュウヤの私室。

気を失ったリュウヤは、私室へと運ばれてベッドに寝かされている。


「リュウヤも何か考えがあってしたことじゃろう。

それを聞いてからでもよかっただろうに。」


たしかにその通りなのだが、それを考えることができないほどに怒っていた。


「はい・・・。」


「まったく、そんな・・・」


まだ言い募ろうとするギイに、"待った"がかけられる。


「そこまでにしてくれ。悪いのは、勝手な行動をした俺の方だ。」


目覚めたリュウヤが声をかけたのだ。


「リュ、リュウヤ様、申し訳ありません!!」


頭を下げるサクヤの頰に手をあてて言う。


「さっきも言っただろう?悪いのは、何も言わずに勝手な行動をした俺の方だと。」


「で、ですけどっ!!」


リュウヤは身体を起こそうとして、バランスを崩す。


慌ててサクヤが抱きとめる。


「さすがに、まだ身体のあちこちに痛みがあるな。」


抱きとめられたまま、リュウヤは呟く。


「すみません、リュウヤ様。」


泣きそうな顔をしているサクヤを、ゆっくりと優しく抱き寄せる。


「す、すみません、すみません・・・」


リュウヤが生きていることをようやく実感し、泣きじゃくる。


もし、あの時にリュウヤが死んでいたら?

このままリュウヤが目を覚まさなかったら?


今頃になって、その恐怖を実感したのだろう。


サクヤが泣き止むまで、リュウヤはそのまま抱き寄せている。


サクヤが泣き止むと、


「俺はどれだけ気を失っていた?」


そのことを確認する。


「一昼夜ってところだな。」


ギイが答える。


「サクヤ、主だった者たちを集めてくれ。

説明と、謝罪をしないとな。」


「はい、すぐに。」


サクヤはすぐに参集させるために、急いで退室する。


その後ろ姿を見て、ギイが呟く。


「あのサクヤ嬢ちゃんが、あそこまで怒りを露わにしたとはのぉ。」


それに対してアイニッキは、リュウヤに薬湯をすすめながら、


「リュウヤさんが悪いんですよ、わかっているとは思いますけど。」


そう口にする。


薬湯の入った器を受け取りながら、


「ああ、わかっている。」


リュウヤは答える。


「凄い色と、臭いだな。」


これは受け取った薬湯を見た感想である。


毒だと言われても、納得してしまいそうな毒々しい色と、クサヤの臭いをさらに強化したような臭い。


材料を聞きたくなったが、聞いてしまうと余計に飲めなくなりそうなのでやめておく。


息を止めて、一気に飲み干す。


飲み干した後のリュウヤの顔を見て、ギイが笑う。


「とてもいい顔をしておるな。」


「ぬかせ!」


そう言い合い、そして笑う。


「そういや、リュウヤが悪いとアイニッキが言っておるが、なぜじゃ?」


「そんなこともわからないの?」


ギイの疑問にアイニッキが呆れ顔をしている。


「俺と出会う前のサクヤなら、あそこまで怒りを露わにすることはないだろうな。」


「なんじゃ、惚気(のろけ)か?」


「違うぞ。」


ギイが茶化すのを否定しながら、リュウヤは説明する。


自分と出会う前、それは龍人族そのものが存亡の危機にあり、サクヤは"巫女姫"として必死だった。

サクヤすら伝聞でしか知らない、笑顔で過ごしていられた時代を取り戻すために。


そのためにリュウヤの魂を召喚し、またリュウヤもその期待に応えた。


その結果、どうなったのか?


張り詰めていた心に余裕が生まれ、その余裕ができた心の中に幸福感と、リュウヤへの想いが入り込む。


そこに今回のリュウヤの行動。


サクヤに何も言わず、いきなり姿を消してしまった。


その時、サクヤはどう思い、考えただろう?


その心が恐慌(パニック)に陥ったのは間違いないだろう。


そして、やっと得られた幸福を奪われることへの恐れ。

それが、リュウヤの行動の所為(せい)だと知った時、どういう感情に支配されたのか?


それが今回のサクヤの怒りの正体。


愛しい、相思相愛であるはずのリュウヤが、そんな行動を取ったことへの怒り。


「まったく、そこまで理解していながら、サクヤちゃんにそんな思いをさせるなんて。」


アイニッキの抗議に、リュウヤは返す言葉もない。

なにせサクヤの抱いた感情は、ともすれば自分が抱きかねない感情でもあるのだ。


あちらの世界で孤独に生きた自分に温もりと、なによりも愛情というものを与えてくれたのはサクヤなのだ。


そのサクヤを失うようなことになったら、自分はどうなってしまうのだろう?


サクヤの今回の行動は、それを教えてくれたようなものだ。


「甘え過ぎていたな。」


「ええ、甘え過ぎですよ、リュウヤさんも、サクヤちゃんも。」


アイニッキに断言される。


「お互いに、もっとお話しをしないと。

言わなくても理解してもらえる、なんて思わないことね。」


亀の甲より年の功、そんな言葉が頭に浮かぶ。


「まったくだな。

お前たちはよく話をしているのか?」


リュウヤの言葉に、アイニッキが即答する。


「もちろん。なにせお酒が入ったら、聞きたくないことでも話しますからね、うちの(ひと)は。」


その言葉にリュウヤは笑い、ギイはしかめっ面をする。


「ギイには、内緒話をしないようにしておくよ。」


リュウヤの言葉にギイが反論しようとした時、扉を叩く音がする。


侍女が来訪者を確認して伝え、リュウヤは入室を許可する。


最初に入って来たのは、執事アスランと女官長ウィラだった。

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