岩山の王宮の混乱
リュウヤが、イストール王国王都ガロアに現れる5日ほど前。
リュウヤがいないことに最初に気づいたのは、秘書官であるエルフのミーティアだった。
午前、大地母神神殿建設地の視察を行い、昼食のために別れたのだが、その後に合流するはずだったにもかかわらず、リュウヤは現れなかった。
今までそのようなことが無かったため、もう少し待てばくるのではないか、そんな気持ちでいたことが、発覚を遅らせてしまう。
一時間ほど待っても現れないリュウヤを探しに、ミーティアは駆け回ることになる。
そのミーティアの慌てぶりを見たのが、スティールだった。
当初はスティールも、リュウヤの悪戯だと思っていたのだが、ミーティアから話を聞き、自らも捜索したものの発見できない状況から、本気で探し始める。
スティールはミーティアに、リュウヤ付きの侍女たちに話を聞くように促し、自分は近衛隊長タカオの元に急いだ。
ここでミーティアとスティールは、侍女のアルテアと、近衛のひとりであるサクラが居ないことを確認する。
そこで、これが悪戯などではないことに気づいた。
「もう夕刻になる。これほど探して見つからないとなれば、サクヤ様に御報告しなければならない。」
それに、サクヤに確認しなければならないこともある。
予定では、昼食はサクヤとリュウヤは一緒に摂っているはず。
その時の様子を聞くことができれば、手がかりとなるかもしれない。
スティール、ミーティア、タカオの3人は、急いでサクヤの元に向かった。
「私も探しに行きます!」
ミーティアらから報告を受けたサクヤの、最初の第一声。
だが、トモエとシズカが必死になってそれを止めた。
リュウヤがいない今、サクヤまで捜索のために留守にしては、大きな混乱を招きかねない。
そう説得されて、渋々サクヤは従う。
リュウヤ捜索のため、主だった幹部が集められ協議する。
集められたのは、ギイ、エストレイシア、フェミリンス、スティール、モミジ、ライラ、カルミラ、ヴィティージェ、アリフレート、ミーティアに、リュウヤの私生活を管理する執事アスラン。
「おや?アデライードがいないようですが?」
ライラが、アデライードの不参加に気づき、疑問を呈した。
「彼女はとても忙しいですし、今日は視察も反対方向、接点がないと思われましたので、参集は見送らせていただきました。」
そうサクヤが説明する。
アデライードが多忙なのは、ここにいる皆が知っている。
そのため、アデライードに疑惑の視線は一切向けられていない。
まずはリュウヤの足取りに関して、朝の起床から昼食までを、順を追って検証していく。
起床から執務室への移動まではアスランとミーティア。
執務室から大地母神神殿建設地への移動はミーティア。
視察中はミーティアとアリフレート。
そして昼食の場への移動はミーティア。
昼食そのものはサクヤとギイがそれぞれ説明を行う。
それぞれの話に矛盾点はなく、やはり昼食後になんらかのことがあったと推定される。
更に、昼食後の行動を調べたミーティアとスティールが、それぞれの調査結果を報告する。
ただ、その調査結果も「わからない」という結論しか出せないものではあったのだが。
ここでエストレイシアが提案する。
軍を動員して捜索することを。
混乱や動揺をきたさぬように、その名目は「夜間演習」とする。
それにモミジが乗り、鬼人族もその捜索隊に加わることにする。
現在、打てる手段はこれくらいしかなかった。
夜を徹した捜索も実らず、朝を迎える。
いつもの朝食の場。
サクヤは溜息をついている。
「サクヤさま、元気ないね?
どうしたの?」
朝食に同席しているリュウネが、心配そうにサクヤの顔を覗き込む。
「大丈夫よ、リュウネ。」
そう答えながら、サクヤはふと思い出す。
あの時、誰よりも早くリュウヤの目覚めに気づいたのは誰だったのか、を。
「リュウネ、貴女ならリュウヤ様がどこにいるのか、わかるかしら?」
「りゅーやさま?少し待ってね。」
大きな期待をしたわけではない。
もしかしたら、くらいの期待だ。
目を閉じたリュウネは、程なく、
「馬車に乗ってるよ。アルテアと、サクラが一緒にいる。」
朝食の場に同席している者たちがざわつく。
「場所はわかるかしら?」
「わかんない。」
だが、これは大きく期待ができる。
「リュウネ、知っている人が現れたら、教えてくださいね?」
「うん、わかった。」
リュウヤとユリウスが接触したことがわかったのは、3日後の昼頃。
それによって、リュウヤがガロアにいることが知れたのである。