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龍帝記  作者: 久万聖
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天狗族と嗜虐心

リュウヤたちには、それぞれ個室が用意されていた。


エガリテ邸の別館2階。


その最奥がリュウヤ。

その隣にアルテア。

リュウヤと反対側にサクラである。

アルテアを真ん中に挟んでいるのは、彼女が最も戦闘力がないためで、侍女を守る主人というのも本末転倒なのだが。


そして夜半に差し掛かるころ、既に暗くなっているリュウヤの部屋の扉を開ける人影があった。


その人影は、ゆっくりとリュウヤが眠っているはずのベッドへと近づいていく。

ベッド脇に辿りつくと、袖から光る物を取り出して突き刺そうとする。


「種族として大した能力を持っていないのか、それとも単なる個体による能力差なのかな。」


「!!」


突如、声をかけられた不審な人影は、ベッドから大きく飛び離れる。


が、離れた先で動きが止まる。


「なっ?!」


「ジタバタしない方がいい。余計に絡まるからな。」


声のする方ー扉の方ーを見ると、椅子に座っている人物がいる。


その人物が扉の横にある、明かりを灯す魔道具のランタンに魔力を通すと、部屋全体が明るくなる。


眩しそうに目を細め、徐々に目を慣れさせていく。


扉横に座っているのは、やはり標的であった人物リュウヤだった。


「君は、公使邸にいた、たしかシャルルという名の少年だったな。」


リュウヤはそう言うが、シャルル少年の姿は昼間に見た姿とは少し違う。

狐のような耳と尻尾を持っている。


天狗(てんこう)族、か。」


天狗というから、(イヌ)だとばかり思っていたが、狐とはね。

そんな感想を抱く。

いや、本来は天狐(てんこ)族と呼ばれていたのではないか、そんな疑問を持つ。


天狗族の少年は、なんとか絡まっている糸を外そうとするが、この糸は粘着力があるようで、かえって身動きが取れなくなってしまう。


「それ以上は、ジタバタしない方がいい。ジタバタすると・・・」


そう言いながらリュウヤは天井に視線を移し、天狗族の少年はそれにつられるように天井を見上げる。


「ひっ!!」


そこにいたのはデス・スパイダーのサイゾーだった。

デス・スパイダーの存在を確認すると、少年は床に水溜りを作りながら気絶してしまった。


「そんなに怖いのかね、こいつらが。」


"褒めて"とばかりに近寄ってきたサイゾーを撫でながら、リュウヤは呟くが、その声は天狗族の少年には届かないだろう。


それよりも、まだこのエガリテ邸にいる天狗族と接触する必要がある。


まあ、放っておいてもすぐに向こうから来るだろう。


そう考えていたら、すぐにエガリテ邸のメイドの姿をした者がやって来る。


やって来て、その視界に飛び込んできた状況に、


「ツムジ?!」


少年の本名らしい名を口にして、呆然としている。


その隙を逃さず、サイゾーはメイド姿の天狗族の少女を捕え、縛り上げていた。


サイゾーを見て、流石に漏らしはしていないが、その表情は恐怖に凍りついており、偽装していたはずの耳や尻尾が現れている。


そのメイド姿の天狗族に、リュウヤは尋問を始める。


「まず確認するが、君たちは天狐族で間違いないな?」


観念したのか、メイド姿の天狗族の少女は頭を縦に振ることで、リュウヤの言葉を肯定する。


「あの少年の名がツムジ。君の名は?」


さすがに名前を口にするのを躊躇うと、リュウヤはサイゾーをけしかける。


「い、言います、言いますからやめてください!!」


よほどデス・スパイダーが怖いのか、涙目になりながら哀願する。


「なら、名前は?」


「な、ナギと言います。」


「ここで働いている時の名前は?」


「フェリシーです。」


「いつからガロアで働いている?」


「ひと月ほど前からです。」


ひと月ほど前となると、執事アスランが天狗族と接触した頃か。


「あの少年もか?」


「は、はい。」


なるほど。容易く潜入し、それに違和感を感じ取られないほど溶け込む。


「まるで忍者だな。」


リュウヤはそう思ったが、口にしたのは別のことだ。


「それを命じたのは、お前たちの長なのだろうが、その目的は?」


「・・・・。」


「サイゾー。」


「ひゃっ!!言います、言いますから、やめてください〜。」


完全に泣き出してしまった。


僅かばかりの罪悪感を感じながら、リュウヤは尋問を進める。


「目的は?」


「龍王国の王様を、試すんだって・・・」


「なんのために?」


「わ、わかりません・・・」


「サイゾー。」


「ほ、ほんとなんですぅ。それ以上、教えてもらってないんですぅ。

もう、嫌だぁ!」


本格的に、大泣きをはじめてしまう。

さすがに大泣きされると、騒々しい。


「静かにしようか。」


そうリュウヤが言いつつ、サイゾーに視線を移すと、ナギはビクッとして泣き止む。


いや、ツムジという名の少年に殺気はなかったが、そうは言っても害されようとしたのは自分の方だよな?

なのになぜ、俺が加害者の立場になっているのだろう?


腑に落ちない物を感じながら、尋問を続ける。


「長は、このガロアに来ているのか?」


「わ、わかりません。」


「サイゾー。」


「ほ、ほんとなんです、だから、もう・・・、ヒック、ヒック・・・・」


こんなやりとりが、夜明け前まで続けられた。









ナギとツムジは、ふたつの水溜りの処理をさせられてから解放される。


早く着替えを済まさないと、エガリテ家の人々に自分たちが天狗族の者であることが暴露てしまう。


相当な寝不足と、尋問による疲労はあるだろうが、それは仕方のないことだ。


まあ、サイゾーをけしかけるのを楽しんでいたこともあるが、一応は命を狙われたのだ。それくらいのことは許されることだろう。


それにあのナギという少女。なぜか嗜虐心をそそるんだよなあ、などと昨夜のことを思い出していた。














朝食を摂り終わり、リュウヤたちはエガリテ邸を辞する。


それにフェリシーことナギも、その一行に加わることになった。


これは、サイゾーがあまりにもナギを気に入ったことから、リュウヤが譲ってほしいと申し入れ、ブレソール老もそれを認めたため、急遽ナギも一行に加わることになった。


それを聞いたナギは、半泣きの状態になっていた。


公使邸へと赴き、帰国する旨を伝える。


シャルル少年ことツムジは、リュウヤの姿を見てビクッと身体を硬直させていた。


ヴォルンドルとユリウスに挨拶を済ませると、龍王国(シヴァ)に向かう街道に出るため、城門に向かう。


そして、そこにウリエとフィリップが待っていた。




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