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龍帝記  作者: 久万聖
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密談

デュラスが家族の団欒を堪能していたころ、フィリップは王都ガロアの中でも、中流層に人気の酒場に来ていた。


本来なら、王族であるフィリップが来るような店ではない。


それでも来たのは、ジゼルが帰った後にエガリテ家の使者が来たためだ。


その使者から、最も知りたかった情報がもたらされる。


正確には、その使者が持ってきた手紙に記されていたのだ。


供回りは数名。


フィリップを中心にしてばらける。


フィリップの安全を確保するため、そしてこれから来るであろう人物を監視するために。


「呼びだてして申し訳ない。」


フィリップに声をかけてきた人物、まさにリュウヤだった。


「来るなら来るで、先に連絡をしてほしいのだがな。」


「ジゼルが報告していたと、そう思ったのだがな。」


どうやら、わざとジゼルの前に姿を晒したらしい。


「そのおかげで、余計な混乱を招いたんだよ。」


思わず怒鳴りそうになるが、グッとこらえる。


そしてリュウヤの方に向き直る。


連れはふたり。しかもふたりとも女だ。


だが、リュウヤの供をするくらいなのだから、見た目通りなわけはないだろう。

相当な武力を持っているに違いない。


ふたりの女は、隣の席に座る。


それを不審に思ったフィリップだが、


「監視対象がばらけていては、監視しづらいだろう?」


というリュウヤの言葉に、その行動を理解した。

フィリップ自身は文字通りの動向監視を命じたつもりだが、部下たちがそう受け取ったとは限らない。

むしろ、排除するための監視だと捉えている可能性すらある。


「そうだな。」


そして、リュウヤには揉め事を起こす気はないことを理解する。


「それで、俺を呼び出した理由を聞かせてもらえないか?」


フィリップは単刀直入に問う。


が、まるで計ったかのように酒と料理が運ばれてくる。


「すまんな。少し動き回っていたから、腹が減っているんだ。

食べながら話そう。」


リュウヤの言葉に、フィリップは毒気を抜かれたような気持ちになる。

それと同時に、焦り過ぎていたかと自省する。


「ここに来た目的は、いくつかある。

ユリウスの様子を見たかったのと、デュラスの出産祝いを届けること。

アデライードの生家への挨拶・・・。」


リュウヤの話を聞きながら、フィリップは運ばれて来た料理に手をつける。

味付けは、王宮のものよりも塩味が濃い。

だが、フィリップにはその方が旨く感じられる。


「そして、主目的なんだが、ウリエには婚約者はいるのか?」


「?!」


フィリップはこの日最大の驚きに包まれ、疑問を抱く。


リュウヤにはまだ子供はいないはず。

セルヴィ王国から輿入れしたというアナスタシア王女は、まだ10歳。


まだ子供を産める年齢でもないだろうし、今から産まれた子供だとしても、ウリエとは年齢が離れ過ぎている。


いや、年齢差のある国王夫妻というのは、それほど珍しいものではないが、それでもまだ産まれていない存在を婚約者にしようなどとはしない。


「いや、ウリエには婚約者はいない。」


リュウヤが何を考えているのかはわからない。

だが、踏み込まなければ、その考えを知ることもできない。


「想い人は?」


「それはわからぬが、俺の知る限りでは、そんな浮いた話は聞かないな。」


ここでフィリップはふと思う。


ウリエのやつ、初体験は済ませたのか、と。


王族・貴族は、世継ぎを残すために性教育というものが行われている。


男子であれば実践教育も行われるし、時には女子でも実践教育を行うこともある。

だから、フィリップの思案は杞憂のものである、はずだ。


だが、近いうちに18歳になろうというのに、浮いた話ひとつないというのは、兄としては懸念材料となりうる。


「リュウヤ殿には、ウリエの婚約者に相応しい人物に、心当たりがおありなのかな?」


「案は3つ。ひとつは、俺のところに人質となっているオスト王国の王女を俺の養女として。

ふたつ目は、パドヴァ王国の王女。これも俺の養女としたうえで。

3つ目は、セルヴィ王国の王女。こちらは、俺のところにいるアナスタシアではなく、直接だな。」


リュウヤの提案に、フィリップは思案を巡らす。

この中で選ぶとなれば、最初の案だろう。


地域大国であるイストール王国とオスト王国、それに新興の軍事大国である龍王国(シヴァ)の三者を強く結びつけるものとなりうる。


そこまで考えて、ふとエガリテ家からの手紙の一文を思い出す。


そこには、龍王国とオスト王国の間の関税が撤廃されたとあった。

我がイストール王国と龍王国との間の関税も撤廃されている・・・。


アデライードほどではないが、フィリップもそれなりに経済感覚を持ち合わせている。


だからこそ気づいた。


このリュウヤという男、この地の諸国をひとつの経済圏としてまとめるつもりだ。


そうすることで戦争を防ぎ、安定した地域を作り上げる。


そうすれば、この地方の周囲にある大国とも互角以上にやりあえる。


そしてその盟主となるのは・・・。


そこまでは考え過ぎか。


「魅力的な提案だな。だが・・・」


「ここで返事をして貰おうとは思ってはいない。

検討に値するかどうかは、そちらで考えることだ。

それに、ウリエの意思もあるからな。」


"ウリエの意思"という言葉が、フィリップには理解できない。

王族や貴族の婚姻には、個人の意思というものは介在しない。

個人の意思よりも、国益が優先されるものなのだ。


言うだけ言ったとばかりに、リュウヤは立ち上がる。


「リュウヤ殿。いつまで滞在するつもりなのだ?」


フィリップは問いかける。


「明日の昼には、ガロアを出る。

そうしないと、色々と巻き込むことになるかもしれないからな。」


「巻き込む?どういうことだ?」


「俺を監視している奴らがいる、そういうことだ。

今のところ、敵意は向けられてはいないがな。」


そう答えると、店の外へと歩き出す。


それに合わせるように、隣席のふたりの女性もリュウヤに続くように歩き出した。


それを見送りながら、フィリップは思案にくれていた。


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