デュラス家の団欒
短めですが。
「あの人なら、やりかねない。」
ジゼルの報告を聞いた、ウリエ王子の第一声。
「あの男は、何をやっているんだ。」
ジゼルの報告を聞いた、フィリップ王子の第一声。
ジゼルは慎重に言葉を選び、「確証はない」とつたえてはいたものの、ふたりの王子はリュウヤであると断定していた。
一時間ほど話をして対策を考えるが、良案など浮かばない。
「仕方ない。まず、それらしき者を探させよう。
そして、絶対に手を出させないようにする、それしかない。」
フィリップの言葉に、ウリエとジゼルは頷く。
ジゼルは王都を警備する巡視兵や警護兵の元に走り、リュウヤの人相を伝え、人相書を作成して当番兵に配る。
そして、発見しても絶対に手を出さないこと、発見次第フィリップ王子に報告することを伝える。
「そんなに重要な人物なのか?」
警備隊長が不思議そうに尋ねると、
「最重要危険人物です。」
とジゼルは答える。
胡散臭そうな顔をする警備隊長に顔を近づけて、
「龍王国の国王なんです。」
そう伝えると、
「なっ!?それは本当なのか?!!」
ジゼルは首肯する。
「いや、まさか、そんな・・・。」
「そこまでにして下さい、隊長。
ことが事です。」
その言葉にハッとする。
「そうだったな。」
あの国王の武力の凄まじさは、昨年のラムジー四世の出兵に参加させられた知人から聞かされている。
それだけでなく、エルフとの戦争や、パドヴァ王国との戦争の話も聞いている。
それらの噂が話半分だとしても、あの国王が暴れたらどれだけの被害が出るのか、想像もつかない。
「すぐに手配しよう。」
警備隊長はすぐに部下を集めて、指示を出していく。
やるべきことをして、帰宅するころには夕暮れ時になっている。
王宮の門をくぐろうとしたとき、義父デュラスに声をかけられる。
「こんな時間まで何をしていたのだ?」
「義父上!」
ふたりして馬に揺られながら、ジゼルはデュラスにことのあらましを話す。
それを聞き終えた感想は、
「あの御仁らしい。」
だった。
「周りにとっては、傍迷惑この上ないがな。」
どうやら義父デュラスも、リュウヤであることを前提にしているようだ。
そして、自邸への帰路はそのままリュウヤの話になる。
出会ってから一年余。
たいして時間は経っていないはずなのに、随分と長い付き合いであるように思えてしまう。
「本当に、不思議な方だな。」
互いにそんなことを話しながら帰宅すると、玄関横に荷物が山積みになっている。
出迎えた家令に馬の手綱を渡しながら、
「あの荷物はなんなのだ?」
「はい。ルシウスというお方が、出産祝いにとお待ちされたのですが・・・。」
家令の返事に、デュラスとジゼルは顔を見合わせる。
「ルシウス?」
そうデュラスは呟き、
「それはこのような人相の人物ではありませんか?」
ジゼルは先程の警護隊長の元で書いてもらった、人相書を見せる。
「おお、たしかにこのような方でした。」
家令の返答に、ふたりは再び顔を見合わせる。
「ですが、このような人相書があるということは、この方は何か罪を犯された方、なのでしょうか?」
手綱を渡された家令は、その手綱を馬番の使用人に渡してふたりの後ろに続く。
「いや、そういうわけではないのだが、最重要危険人物ではある。」
最重要危険人物と聞いて、家令は驚く。
「申し訳ございません、そのような人物に奥方様を会わせてしまいました。」
青い顔になって、謝罪をする。
「いや、良いのだ。危険人物とは言っても、アルノが思うような人物ではない。こちらから手を出さない限り、とても頼りになる人物でもあるからな。」
アルノと呼ばれた家令は、ホッとした顔をみせる。
玄関の扉を開けると、妻のエヴァが産まれたばかりの娘クロエを抱いてやって来る。
「お帰りなさいませ、あなた。ジゼルも。」
美女とは言えぬかもしれないが、とても人好きのする笑顔でデュラスを迎える。
「ああ、ただいま。客人が来ていたようだが・・・」
「はい、ルシウスという方が、先程までいらしていました。」
「そうか。」
「色々と、手土産をお持ちになられておりました。
あなたがもうじき帰宅するとお伝えしたのですが、なにやら用事があるからとお引止めできませんでした。」
「そうか。」
「御食事の準備もできています。」
妻に促されるように、デュラスは食卓へと向かい、ジゼルもそれに続いた。
「手土産にいただいた、オスト王国産の葡萄酒ですよ。」
少し前の遠征でも持ち帰ったのだが、やはりオスト王国産の葡萄酒は美味い。
「お前も飲めると良かったのだがな。」
エヴァにもすすめたいのだが、まだクロエは乳飲児だ。
酒を飲むのは、クロエに悪影響が出ると聞いているため、飲ませるわけにはいかない。
その分、デュラスの標的はジゼルへと集中する。
そして話は、訪ねてきたという客人のことになる。
その正体を知り、エヴァは驚く。
「人誑し、なのでしょうね、そのお方は。」
その通りだと思う。
そうでなければ、いくら知人とはいえ他国の者の出産祝いなど、贈りはしないだろう。
しかも、本人自ら持ってくるなど。
「もし、ラムジー四世の治世が続いていたなら、私はすぐにでもリュウヤ殿の元に走っただろうな。」
だが、今は仕えるに足る主君、ウリエを得た。
だが、それも実はリュウヤのおかげとも言える。
「あの御仁とは不思議な縁だが、大事にしたいものだ。」