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龍帝記  作者: 久万聖
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新しい剣の発注

イザーク伯らオスト王国使節団を見送るため、王宮外までリュウヤは出てくる。


その左隣にサクヤ。


右隣にはエレオノーラが立っている。


本来なら、年長順にクリスティーネが立つべきなのだろうが、エレオノーラが譲らずにこうなってしまった。


クリスティーネとマクシミリアンのふたりは、エレオノーラのこの懐きように驚いている。


これはもちろん、ドルシッラの悪戯(いたずら)によるものなのだが、ふたりはそんなことは知らない。


見送りが終わるとオスト王国の王子王女3名は、図書館にて家庭教師による勉強が待っていた。


名残りおしそうに別れるエレオノーラに、


「しっかりと勉強してきなさい。」


と、リュウヤは頭を撫でる。


「はい!!」


そうエレオノーラは元気よく返事をしていた。


そして、リュウヤ自身はというと、ドヴェルグとドワーフの工房へと向かう。


鬼人(オーガ)族との試合で破損した剣の代わりを、作製してもらうためである。


あの時の試合で残った一振りもまた、モガミの大太刀を破壊した際に歪みを生じさせている。

そのため、腰に佩いてているのは冥神ハーディより贈られた宝剣のみである。


サクヤらとも別れ、リュウヤの側にいるのは鬼人族の侍女イチョウと、新しく配属された人間族の侍女リゼッタ。

近衛のタカオと、近衛に配属された鬼人族のテンリュウと同じく鬼人族の女戦士サクラ。


サクラ。


この名前を聞いたとき、リュウヤは思わず口にしたのが、


「イチョウといいカエデといいモミジといい、お前たちの名は俺の郷愁を誘う名前が多いのだな。」


という言葉である。


それを耳にしたサクヤが問いかけると、


「俺のいた国では、春は桜という花を愛でて、秋はイチョウやカエデ、モミジの木の葉が紅く色づくのを愛でる風習があるんだよ。」


と答えている。

それに対し、


「でしたら、その風習をこの国でも広めましょう。

リュウヤ様の郷愁など、吹き飛ばしてしまうくらい盛大に!」


サクヤは大きな身振りで、そう力説していた。


そんなことを思い出していると、ギイが指揮する工房に到着する。


「こんにちは、陛下。」


挨拶をしてきたのはパドヴァ王国の元公女アデリーナ・グェッラ。

ギイの元で彫刻を学んでいる。


「レティシアから聞いているぞ。

彫刻に夢中になるあまりに、なかなか食事に顔を出さないと。」


「そんなことを言っているのですか?

昨日だって、きちんと食べているのに・・・。」


口を尖らせて抗議するが、


「何時間遅れで食べたんだ?」


と言われてしどろもどろになり、白状する。


「・・・2時間遅れて、でした。」


「食事はしっかりと摂るように。いいね?」


「わかりました。」


そんなアデリーナに案内され、ギイの元行く。


そこには鬼人族の戦士が数人いる。

リュウヤはそのうちのひとりに声をかける。


「モガミ、ここで何をしているのだ?」


突然、名を呼ばれたモガミは振り返ると、


「へ、陛下!」


そう言って跪こうとするが、それはリュウヤに止められる。


「先の試合で、大太刀を失ってしまいましたので、代わりのものを打っていただこうと。」


ただ、ギイは日本刀式の剣を打った経験が少なく、鬼人族からも鍛治師を連れてきたのだという。


「そういえば、陛下もあの時は我らの刀と似た剣を使っておられましたな?」


「ああ、ギイに無理言って作ってもらったものだ。」


「まったく、苦労させられたもんだ。」


作成するときのことを思い出し、ギイが愚痴る。


「あーだこーだと、随分と注文されたっけな。」


ジロリとリュウヤを睨むギイと、苦笑するリュウヤ。


「だが、鬼人族のおかげで俺の言いたいことも理解できたんじゃないのか?」


「まあ、そうじゃな。」


そう不承不承、ギイは答えながら、


「お前の剣じゃがな、あれはもうダメだ。

修理ではなく、新たに作り直すことにした。」


頼まれていた剣の修復について話す。


「無理か・・・。

あれは使い勝手が良かったのだがな。」


非常に良く手に馴染み、また取り回しも良く使い易かった。


「安心せい、あれよりも良い剣を打ってやる。」


そう胸を叩いて宣言する。


「ただ、そこでひとつ頼みがある。」


「なんだ、改まって。」


「その剣の柄と鞘、その装飾をアデリーナに任せたい。」


「えええぇぇ!!」


ギイの言葉に、アデリーナは元公女らしからぬ絶叫をした。


「そ、そんなの、まだ、わたしには無理です!」


その言葉に対して、


「ギイが任せたいと、そう言うのならば異論はない。」


リュウヤはあっさりとギイの申し出を受けてしまう。


「そんな、陛下・・・」


断って欲しかったであろうアデリーナは、リュウヤを恨めしそうに見ている。


「アデリーナ、お前は彫刻をはじめとする美術活動を、趣味で終わらせるつもりなのか?

それとも、生計を立てるつもりでいるのか、どちらだ?」


そうリュウヤに問われ、アデリーナは考える。


パドヴァ王国に戻ったところで、すでにグェッラ公爵家は存在しない。

そうなると、自分で生計を立てる必要がでてくるだろう。

そこまで考えて、アデリーナはリュウヤの言葉にある意図に気づいた。


国王リュウヤの持つ剣の装飾を施したとなれば、それだけで巨大な宣伝になる。

いや、宣伝にしろと、リュウヤはそう言っているのだ。


「わかりました。少し時間がかかるかと思いますが、お受けさせていただきます。」


アデリーナはギイの申し出を受けることにした。











「本音はどこにあったんだ?」


アデリーナが早速、意匠(デザイン)を考えるために自分の作業室に行くと、リュウヤはギイに問いかける。


ギイは作業を中断させ、休憩所にみんなを連れて行くと、そこで話し始める。


「昨日の、あの若い絵師を見て、決めたんじゃよ。」


「オスカルを見て?」


「正確には、オスカルを評価したお前の言葉を聞いて、じゃな。」


リュウヤはオスカルの才能を、「今の時代では認められない」と評した。

それはどういうことなのかと、ギイなりに考え、そして決断したのだ。


「ワシらは、どこか型に嵌めるようなことばかりしてきたんじゃないかとな。

だから、若い才能を、できる限りそのまま伸ばして行く方向にしてみようと、そう考えたんじゃよ。」


この場にいる者たち、皆それなりに理解をしたようであるが、


「だが、いきなり陛下の剣とは、些か荷が勝ちすぎてはいないか?」


モガミが疑問を呈する。

たしかに、モガミの言う通りなのだ。


「それは、ワシも考えた。だが、リュウヤ以外にそれを受け入れる者はおらんのだ。」


剣となれば、戦いの道具である。

だが、国王が持つ剣となればそれだけではない。

王家の力の象徴でもある。

その意匠、装飾を施すとなると、通常なら女性は立ち入れないものなのだ。

いや、名のある者が使う剣であっても、その装飾に女性は立ち入ることなどできないだろう。


だが、この世界でほぼ唯一、リュウヤだけがそういう認識を持っていない。

それに、この国の理念として、リュウヤの旗の下においては皆が平等というものがある。


その理念の象徴としても、アデリーナが装飾を手がけることに意味があるのだ。


「わかった。そこはギイに任せる。

だがその間、丸腰というわけにもいかんからな。

代用の剣をもらいたいな。」


「ならば、これを持っていけ。」


そう言って、一振りの剣を渡す。


「前の剣には劣るかもしれんが、それなりの業物だ。」


受け取った剣を見て、


「そうだな。たしかに、それなりの業物だ。」


剣の鍔のあたりに銘が彫ってある。

その銘は「ギドゥン」と刻まれている。


なんだかんだと言いながら、アルナック村の息子たちのところに行っているのだろう。


「有り難く使わせてもらう。」


リュウヤはそう言うと、執務室へ戻ることにした。


残されたギイと鬼人族たちは、再び剣談義を始めていた。

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