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龍帝記  作者: 久万聖
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バーレの憂鬱とリュウヤの狙い

「ああ、なんてことだ!!」


バーレはあてがわれている、滞在用の部屋で絶叫していた。


なんであんな化け物に喧嘩を売ったのか?


部屋の中には、随員の中でも特に側近といえる者たちがいる。


そして、もう一人。


この日引き渡されたゾシムスが、目の前に転がされている。


逃走を防ぐためということもあるが、それ以上に本人に自分のしでかしたことを自覚させるためでもある。


「げ、猊下!私は聖女様を取り戻すために・・・」


「馬鹿者が!!」


ゾシムスが最後まで言い終わる前に、バーレから怒声が浴びせられる。


ゾシムスはバーレが退位したことを知らず、いまだに「猊下」の尊称を使っている。


「お前のその独善的な行動が、神殿の存亡に関わる事態を引き起こしたのだ!!」


ここで初めて、ゾシムスは自分がしたことが、神殿にとって大きな問題になっていることを知る。


だが、たかが新興の小国になぜ、そこまでの事態になったのだろう?


そんな疑問が表情に出ていたのだろう。


「なぜ、そんな事態になっているのかわからない、そんな顔をしておるな。」


バーレが咎めるような口調で言う。


「誰ぞ、この愚か者に教えてやるがよい。」


その言葉に、バーレの側近のひとりがゾシムスを離れた所に引きずっていき、そこで話して聞かせる。


その様子を視界の端に捉えながら、バーレは椅子に座り込む。


「どうすればよいと思う?」


どうすれば、自分が生き残れるのか。


いや、その前にいかにリュウヤの剣先が自分に向かないようにするか。


「全面降伏、それしかありますまい。」


最年長の側近、コフ司教の言葉だ。


「で、ですが、それでは・・・。」


若い側近が抗弁しようとするが、言葉が続かない。


それもそうだろう。


大地母神神殿総本山を、いとも容易く崩壊させた龍人族を従え、屈強な鬼人族(オーガ)をもねじ伏せる武勇を持つ、そんな相手に、他に選択肢があるのだろうか?


「やはり、コフ司教の意見以外に、方法はないか。」


そうなると、後はいかに自分の利益を追求するか。


この場合の利益とは、何も金銭や物的なものに限らない。

大地母神神殿からの追及を避けられることも利益であるし、これより新設されるであろう大地母神神殿聖女派(・・・・・・・・・)での地位も、それにあたる。


バーレらは、額を集めて今後の方針を決めるべく話し合いを始める。















リュウヤの執務室の扉を、執事アスランが叩く。


「アスランです。」


その言葉に、扉をあけて迎えたのは夢魔族の侍女ドルシッラ。


腰まで届く栗色の髪と、同じ夢魔族の侍女メッサリーナとは違い、清楚な雰囲気を醸し出している。

清楚な雰囲気とは言っても、そこは夢魔族。

男を惑わすような色香を漂わせている。


ドルシッラに伴われてアスランはリュウヤの前に立つ。


「様子はどうだった?」


リュウヤの問いかけに、


「全面降伏を選択したようです。

条件次第では、すぐにでも纏まるでしょう。」


アスランは酷薄な笑みを浮かべて答える。


「どんな条件が良いと思う?」


アスランは少し考える素ぶりを見せると、


「大地母神聖女派のまとめ役というところでどうでしょうか?」


「その利点は?」


「ひとつは、元教皇が聖女の下につくことの影響力。

そして、対外的に交渉などの場数をこなしていること。

最後に、他の神殿や宗教への牽制にも大いに役立つかと。」


元教皇が聖女の下につくということは、聖女ユーリャに大きな権威を持たせることになる。


対外的な交渉となると、アリフレートらでは経験不足は否めない。


そして、元教皇という肩書きは、この地での布教をしようとする各宗教団体への牽制に役立つ。


すでにユーリャ、アリフレートとの間に、布教に関する取り決めは定められており、そこに元教皇という重みが加わることで、取り決めの重みも増す。


「だが、そうしてやるには、なんらかの名目を与えてやらねばなるまい。」


教皇という地位にあった者を、同じ宗教内とはいえ別派に転向させるのだ。

それをさせるために、周囲が理解できる、もしくは本人が罪悪感を感じられないようにする名目。


「それでしたら、聖女ユーリャの補佐をさせる、それだけで十分ではないでしょうか。」


教育はアリフレートに任せ、バーレを運営に回す。


「そうだな。

それでいくとしようか。

ただ、私物化されないように監視をつける必要がありそうだな。」


「監視には、当面は私の部下を当てましょう。」


「ああ、それは頼む。

だが、吸血鬼(ヴァンパイア)だけとはいかないだろう。」


神殿に入り込むには、信徒という形をとるのが望ましいのだが、大地母神の信徒に吸血鬼というのはないだろう。


そうなると、エルフやアールヴたちになりそうだが、彼らでは目立ちすぎる。


「私に心当たりがあります。

モミジ殿の協力も必要にはなりますが、呼び寄せたいと思います。」


「では、任せる。」


アスランは恭しく礼をすると、退室する。













アスランが退室すると、ドルシッラに声をかける。


「ドルシッラ、メッサリーナから報告は上がっているか?」


「はい。教皇が選出されるのは、あと10日ほどかかるとのことでございます。」


ここから大地母神神殿総本山までは、陸路で7日ほど。


バーレと話を纏めるには最大で3日ほど。


教皇選出のギリギリのところで締結することで、大地母神神殿総本山に再び激震を走らせる。

そうすれば、しばらくの間はこちらに手を出す余裕はなくなるだろう。


その間に聖女派の体制を整えさせる。


「バーレとの次の会談は、2日後とするようにサクヤとアデライードに伝えてくれ。」


ドルシッラは一礼すると、リュウヤの言葉をサクヤに届けるために退室した。

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