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龍帝記  作者: 久万聖
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対鬼人戦 後編

「卑怯とは言わないよな?」


黒炎に包まれるリュウヤに、シナノが言う。


リュウヤはなにも答えない。


貴賓席にいる者たち、ユーリャら人間族は驚いている。


「リュウヤ陛下、負けちゃったの?」


ユーリャが呟くが、


「負けてないよ。

全然、平気みたい。」


あっさりとリュウネが否定する。


リュウネの言葉を裏付けるように、巨大だった黒炎は小さくなり、リュウヤが姿を現わす。


「魔法を禁止していなかったからな。卑怯などとは言わぬよ。」


平然とした声に、3人は驚愕する。


さっきの黒炎魔法は、大抵の者ならば即死、しかも骨も残らぬはずのものだ。


それなのにこの平然とした声はいったい・・・。


「無傷、だと?」


「化け物か・・・?」


「ありえない・・・。」


キヌが手放したふたつの鞭、そしてリュウヤが手にしている日本刀式の剣の刀身も黒炎の影響か、ボロボロになっている。


「完全に無傷ってわけじゃないさ。

少しばかり、髪が焦げたからな。」


リュウヤの言葉に、唖然としながら、


「あの魔法で、その程度しか、傷つけられないだと・・・?!」


シナノは口にする。


「どうやって、防いだ・・・?」


キヌが口にしたのは、当然の疑問だろう。

それにリュウヤは、


「簡単だよ、火が燃えるメカニズムを知っているならな。」


咄嗟(とっさ)に真空の断層を作り熱伝導を遮断。

さらに黒炎を鎮火するために、真空の断層を黒炎を覆うように作り上げると、自分の周りに作り上げた真空の断層を合体させていく。

その結果、燃えるために必要な酸素の供給が途絶え、鎮火したのだ。


「お前の言っていることを理解はできん。

だが、お前を相手に魔法では勝てないことだけは、理解した。」


モガミはそう言うと、大太刀を構え直す。

それにつられるように、キヌとシナノは格闘戦の構えを取る。


たしかに、"燃焼のメカニズム"と言われても理解されることはないだろう。

この世界は、あちらの世界ほど科学が発達していないのだから。

このあたりは、魔法の存在による弊害とも言えるだろう。


「ぬぉぉお!!」


掛け声とともにモガミが一気に間合いを詰めて、突きを繰り出す。


リュウヤは刀身がボロボロになった剣で受け流すが、ここでその剣も折れる。


「ギイに無理言って作ってもらったんだがな。」


折れた剣を名残惜しそうに見ながら、残った柄の部分を捨てる。


「もう一振りは、抜かないのか?」


もう一振りの剣。


この世界に来た当初に、ギイからもらったものだ。


「抜くのは、もう少し後だな。」


モガミの問いかけに答えると、リュウヤは身を(ひるがえ)してシナノへと向かう。


「その体で、俺に格闘戦を挑もうってか!」


シナノは咆哮し、リュウヤに掴みかかろうとする。

シナノの選択は間違ってはいない。

相対的にリュウヤの方がかなり体が小さいため、その俊敏さを封じるためには捕まえたほうがいいのだ。


ただ、その狙いはリュウヤに読まれていた。


シナノの伸ばした腕を掻い潜り、懐に入るとその勢いのままに肘打ちを鳩尾に打ち込み、崩れ落ちるシナノの腕を掴むと、背負い投げのように投げ落とす。


受け身を取ることも出来ず、頭から落とされたシナノは、そのまま気を失っている。


「シナノが、一撃・・・だと?」


モガミが唖然としている中、


「うおぉぉぉおっ!!」


キヌが雄叫びをあげ、リュウヤに殴りかかる。


「キ、キヌ、焦るな!!」


キヌの動きを見て声をあげるが、既に遅い。


シナノがあっさりと倒されたことに、キヌは恐慌をきたしていた。

あのシナノは、相当に打たれ強いはずだった。

それが簡単に倒されるなど、あり得ない。

その思いが焦りを呼び、冷静さを奪っていた。


右、左と、一撃でも当たれば必倒ものだが、リュウヤはそれを捌いていく。


モガミも隙あらば斬り込みたいのだが、キヌが猛然と攻撃を仕掛けているため、ともすればキヌごと斬ってしまいかねず、躊躇(ためら)っている。


その躊躇(ためら)いのうちに、懐に入り込まれたキヌは、掌底を顎に突き上げられ、倒される。


「残ったのはお前だけだ、モガミ。」


自分に向き直ったリュウヤを見て、体が震えていることに気付く。

武者震い?

いや違う。

完全に、心の底からの恐怖からだ。


"100人でも、200人でも構わない"


あの言葉は(おご)りからくるものではなく、純然たる力の差を知っていたからなのだ。


その恐怖を振り払うように、モガミは雄叫びをあげてリュウヤに斬りかかる。


それに対し、リュウヤも剣を抜いて応じる。


力強いモガミの斬撃を、リュウヤは受け止め、流し、捌く。


リュウヤの"剣の防壁"ともいうべく守りを打ち破ろうと、モガミは持てる技の全てを出し尽くしていく。


「もう、終わりか?」


そう声をかけてくるリュウヤには、呼吸の乱れは見られない。


それに引き換え・・・。


モガミは自分を返り見る。


リュウヤが防御中心でいたおかげで、傷はひとつもない。

だが、すでに呼吸は乱れ、肩で息をする状態だ。

しかも、捌く一打一打が途轍もなく重く、握力が覚束ない。


自分が打てるのはあと一撃。


モガミは大太刀を鞘に納め、居合の構えをとる。


「ほう、居合か。

ならば、それに付き合ってやろう。」


リュウヤもまた、モガミ同様に居合の構えをとる。


"俺の意図を見抜いた上で、付き合ってくれるとは・・・"


「感謝する。」


モガミはそう言葉にすると、ジリジリと間合いを詰めていく。


張り詰めた時間が過ぎていく。


闘技場にいる観戦者、その全てが固唾を飲んで見守っている。


次の瞬間、互いに動き出す。


勝負は一瞬。


その一瞬を見逃さないよう、皆、目を凝らしている。


「得物の長さを考えれば、モガミが有利か。」


とはエストレイシア。


「長いから有利とは限らん。

長ければ、それだけ取り回しが難しくなる。」


とはモミジ。


「踏み込む速さならば、リュウヤ陛下の方が上、ですわね。」


とはライラ。


「どのみち、モガミには他に手段がありません。

同じ抜刀術の戦いに持ち込んだモガミと、それに乗ったリュウヤ陛下。

どちらにしろ、勝負は一瞬。

次の一撃で終わりましょう。」


カルミラがまとめる。


そう、カルミラの言う通り、全ては次の一撃で決まる。


抜いたのは同時。


闘技場内に響く金属音。


金属音の正体は、モガミの大太刀が砕かれた音。


リュウヤは剣先をモガミの首に当てる。


「俺の、負け・・・です。」


モガミの口から出たのは、敗北を認める言葉だった。


「リュウヤ陛下に、絶対の忠誠を誓います。」


闘技場は歓声に包まれる。










「最初から、モガミの大太刀を狙っていたのか。」


エストレイシアは感心したように口にする。


「大太刀を折ることで、心も折ったか。」


カルミラの言葉に、


「これで、愚か者どもも陛下に従うだろう。」


モミジが応じる。


「自分でまとめられないから、陛下の手を煩わしたのですか?」


呆れたカルミラの言葉に、


「これくらいのことができねば、我ら鬼人族(オーガ)を束ねる器とは言えぬからな。」


しれっと答えるモミジ。


「物は言い様、ね。」


ライラの言葉に、貴賓席内は苦笑に包まれた。

鬼人族の武器は、東洋的なものになっています。

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