対鬼人戦 前編
「3人でよかったのか?」
開始の宣言はすでに出ている。
「かまわない。」
「これでも、鬼人族の中でも最上位の戦闘力だからな。」
「これ以上は、鬼人族の名折れとなる。」
三者三様の言葉で、3人で良いと宣言する。
3人の鬼人は、三手に分かれてリュウヤに対峙する。
リュウヤの方は動くことなく、3人の様子を見ている。
正面の鬼人がモガミ。他のふたりに比べれば体は小さい。もちろんそれは、鬼人族としては、であって他の種族から見れば十分に巨体といえる。
手に持つ得物は、日本刀式の長大な大太刀。
姉川の戦いで奮戦した、真柄直隆・直澄兄弟の大太刀が五尺三寸(約175cm)だったというが、それとほぼ同等かやや長めの刀身だ。
ちなみに、現存する最大の大太刀は、新潟県にある弥彦神社が所蔵する七尺四寸二分(約225cm)の大太刀である。
右手にいるのがキヌ。モガミよりは大きな体をしているが、シナノよりは一回り小さい。
手に持つ得物は一見すると、競馬などで使われる馬上鞭に似ている。
似ているとはいっても、全身金属製であり、その先には突起物が付いており、殺傷能力が高そうだ。
それを両手にそれぞれ持っている。
「鞭、か。」
鞭とは、馬上鞭によく似た武器で、頑丈かつしなやかで壊れにくいという特性を持つ。
鬼人族の怪力に、非常に高い適応性を持っている。
日本ではほとんど見られない武器だが、中国では時折見られる武器である。
使い手として知られるのは、北宋建国の功臣のひとりで猛将として名高い「呼延賛」だろう。
水滸伝の登場人物「呼延灼」のモデルであると同時に、その先祖という設定になっている。
また、田中芳樹の小説「創竜伝12巻」にも登場している。
左手にいるのはシナノ。
3人の中で一番体が大きく、それに比例するように力もありそうだ。
力があるように見えるのは、その手に持つ武器のせいかもしれない。
槌矛、いや朝星棒に似ているが、形状が違う。
「狼牙棒だな。」
これも中国で使用されていた打撃武器で、朝星棒のような突起物が多数あり、殺傷力を高めている。
実在の人物としての使い手は特に伝わってはいないが、水滸伝の登場人物、霹靂火の異名を持つ秦明の愛用の武器として知られている。
最初に動いたのはシナノだった。
狼牙棒を振り回してリュウヤに襲いかかる。
それを躱すが、躱したところにキヌが鞭を振るってくる。
モガミは、リュウヤの動きに合わせて位置どりを変えている。
連携がうまく取れているということだ。
再びシナノが狼牙棒を振るい、強烈な一撃を放つ。
リュウヤはここでギイ作成の、日本刀式の剣を居合術のように抜き放ち、狼牙棒の柄を斬りとばす。
そしてその勢いそのままに懐に入ると、柄を鳩尾に叩き込む。
「浅いか。」
思ったほどの手応えがないところを見ると、当たる寸前に後ろに飛ぶなりしたか。
とはいえ、ダメージが全くないわけではないようで、膝まづいて、吐いている。
「シナノ、少し休んでいろ。」
モガミがシナノに声をかけると、
「そ、そうさせてもらう。
・・・・思った以上に、強いぞ。」
シナノはそう返すと、後方にさがる。
「わかっている。」
モガミは返事をしつつ、リュウヤに追撃をさせないように牽制しながら、立ち位置を変える。
それと同時にキヌは鞭を振るってリュウヤに攻撃を仕掛ける。
打ち下ろし、薙ぎ払う。
単純な動きではあるが、鬼人族の膂力で振るわれると、その一撃一撃が致命的なものとなる。
さらに、隙を見せればモガミが容赦ない斬撃を浴びせるべく、こちらの様子を伺っている。
そこでわざと隙を作ってみせると、凄まじい斬撃が襲ってくる。
「予想以上の速さだな。」
斬撃を躱すと、リュウヤは一旦距離を取る。
シナノへ視線を向けると、まだ膝をついており、戦いへの参加にはもう少し時間がかかりそうだ。
そこへキヌが襲いかかる。
「おらおらあ!
避けてばかりじゃ、俺たちには勝てねえぞ!!」
左手の鞭を大きく振りおろし、それを躱されると右手の鞭で薙ぎ払う。
右手の鞭も躱されると、左手の鞭を振り上げようとして、異変に気付く。
上がらないのだ。
なぜ?
左手の先を見て、その答えを知る。
「馬鹿な!!」
リュウヤが鞭の先を踏んでいた、それだけだ。
だが、リュウヤ程度の力ならば、鬼人である自分の力なら余裕で振り払えるはず。
だが、左手はビクともしない。
この小さな体でー鬼人族からみてだがーどこにそれだけの力があるのか?
驚愕の表情を浮かべるキヌに、リュウヤが剣を振り下ろそうとした時、急激な魔力の高まりを感じる。
「キヌ、離れろ!!」
その言葉と同時に、キヌは両手の鞭を手放して飛び下がる。
次の瞬間、リュウヤは巨大な黒炎に包まれた。