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龍帝記  作者: 久万聖
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不満分子

話は前日に遡る。


この日、リュウヤは練兵場にいた。


練兵場とは、文字通りの兵の訓練場なのだが、さすがにリュウヤが相手をするのは一兵卒というわけではない。

下級指揮官クラス以上になるわけだが、今日は少し違った。


ラニャ、ペテルら兎人族10名が相手である。


先のオスト王国との戦い、それ至るまでの騒乱でラニャらが活躍したことを知り、他の兎人族も訓練に参加するようになったのだ。


ただ、現状の兎人族の戦闘能力では戦闘そのものに参加させるのは難しく、主に斥候として参加する。

そのため、自身の身を守る技術を中心に訓練を施されている。


そして、小剣(ショートソード)のような武器の扱いも学んではいるが、主として格闘術を中心にしており、その脚力を活かした打撃系を磨かせている。


そのため、兎人族の装備も動きを阻害しないよう、工夫が凝らされている。


その兎人族の訓練に付き合っているリュウヤに、一部の鬼人族(オーガ)が絡んくる。


「兎人族なんて弱っちいのじゃなく、俺たちの相手をしてくれませんかねえ、陛下。」


明らかに嘲る口調である。


鬼人族に弱っちいと言われて、ラニャたちの長い耳が萎れる。


頑張っていても、鬼人たちからしたら弱々しく見えているのだと知らされて項垂れる。


たしかに目の前にいる鬼人の腕は、かつてリュウヤから"太い"と言われたラニャの太腿よりも太い。


身の丈も巨人の一種であるトール族には及ばないが、かなり高く、リュウヤより頭二つ分は高い。


「兎人族が弱く見える、か。

どこに目をつけているんだ、お前は。」


リュウヤの言葉に、鬼人が憤る。


「どこをどう見たら、こいつらが強者に見えるんだ!

ふざけたことをぬかすんじゃねえ!」


相手が、一応とはいえ仕える存在であることは忘れられているようだ。


「痛い目を見なければわからんか。

ペテル、相手をしてやれ。」


突然指名されてペテルが、


「へ、え、は、はあ?!」


素っ頓狂な声をあげる。


リュウヤはペテルの混乱にはかまわず、


「ペテルに勝てたら、相手をしてやる。」


「その言葉、嘘はねえだろうな?」


「ああ。ペテルに勝てたら、だがな。」


「その言葉、忘れるなよ!」


そう言うと、その鬼人は練兵場の中央に、そこにいた者たちを追い払って待つ。


「へ、陛下ぁ。」


ペテルは情けない声をあげている。


「大丈夫だ。お前なら勝てる。」


そうは言われても、俄かには信じられない。

しかも、あの鬼人は明らかに起こっている。


それも当然だろう。


その弱さで知られる兎人族よりも、頑強さ屈強さで知られる鬼人の自分が弱いと言われたのだ。

怒らない方がおかしい。


尻込みしているペテルにリュウヤは、


「いける、そう思ったら思いっきり飛び込んで、正拳突きを食らわせろ。

それで勝てる。」


そうアドバイスを贈る。


それだけで本当に勝てるのだろうか?

疑問に思いながらも、鬼人の待つ中央に行く。


「俺の名はアカシ。お前は?」


「ぼ、僕はペテル。」


アカシと名乗った鬼人は、長大な棍を構える。


ペテルも、訓練で教えられた構えをとる。


「双方とも、準備は良さそうたな。

では、始め!」


リュウヤの合図とともに、アカシが棍を振り回してペテルに襲いかかる。


振り回された棍をペテルは躱す。


攻めるアカシ、躱すペテル。

そんな攻防が続く。


「逃げてばかりでは、俺には勝てんぞ!」


アカシは口ではそう言いながらも、内心で焦っていた。


貧弱な兎人族なら一撃でも当てれば勝ちだ。


だが、それが当たらない。


最初の方は兎も角、いまでは確実にこちらの動きを見られている。それがペテルの動きにも現れている。


一方のペテルは、相手の動きがしっかりと見えていることに驚いている。


"リュウヤ陛下や、龍人族の方々に相手してもらっていたから?"


そう思う。

なぜなら、アカシの攻撃は重さはあるのだろうが、リュウヤらの攻撃よりもはるかに遅い。


これには少しカラクリがある。


リュウヤらはあえて軽い道具を使い、高速の攻撃を浴びせることで兎人族らに躱す技術を叩き込んでいた。

それが功を奏したのだ。


そして、アカシの隙を見つける。


「たあ!!」


3メートルほどの間合いを一足跳びに飛び込み、その勢いそのままに正拳突きを鳩尾(みぞおち)の辺りに叩き込む。


苦悶の表情で崩れ落ちるアカシ。


そのアカシを信じられないという顔で、ペテルは見ている。


「勝者、ペテル!」


リュウヤが宣告する。


「ま、待て。今のは油断しただけだ。」


そう口にするアカシに、リュウヤは冷ややかな言葉を浴びせる。


「お前は戦場でも同じことを言うのか?」


戦場なら、ほぼ間違いなく倒された後にトドメを刺されただろう。


「それとも、鬼人族というのは負けを認めることができぬほど、愚かな種族なのか?」


完全にリュウヤは鬼人族を煽っている。


アカシの行動は、リュウヤを主人(あるじ)と認められない者たちの存在を示している。

だから、そういった者たちをあぶり出すために煽るのだ。


こういう者たちが現れることはすでに予見しており、昨日の魔法実験も吸血鬼族や夢魔族たちの中にいる、不満分子に力を示すことで、主人として認めさせるという側面があったのだ。


そして、今回のアカシの行動をみて、鬼人族の中にいる不満分子をあぶり出すことにしたのだ。


「聞き捨てならんな、今の言葉。」


一際大きな体の鬼人族が数人、リュウヤの前に現れる。


「なにがだ?目の前に、敗北を認めぬ者がいるではないか。」


何人かは、返答に詰まったようだが、


「撤回してもらおうか。」


鬼人族の一人がリュウヤに日本刀式の長大な剣を向ける。大太刀(おおだち)と呼ばれる類のもののようだ。


「それを俺に向ける意味、理解しているのだろうな?」


「向けたから・・・」


なんだというのだ、その言葉が言い終わらぬうちに叩き伏せられる。


鬼人族たちは驚愕の表情を浮かべて、リュウヤを見ている。


「鬼人族というのは、見た目と違って随分と小賢しいマネをするのだな。」


鬼人族を見回し、言葉を続ける。


「俺に不満があるなら、直接こればいいものを、兎人族をダシに使ったり、な。」


この場にいる鬼人たちは、リュウヤに圧倒されたじろぐ。


リュウヤが一歩進むと、鬼人たちは3歩下がるありさまだ。


「明日、俺に不満がある者たちは闘技場に来い。

俺に勝てたなら言葉を撤回してやる。

ただし、負けた時は俺に従ってもらう。」


リュウヤは鬼人たちを見据え、さらに言葉を続ける。


「別に、ひとりだけとは言わんぞ?

なんだったら、100人でも200人でもかまわん。

もちろん、相手をするのは俺ひとりだ。」


言うだけ言うと、リュウヤは踵を返す。


こうして、鬼人族の3人。


モガミ、キヌ、シナノと戦うことになったのである。




鬼人族の名前ですが、女性は植物から取っています。


男性は、日本の地名を使用しています。

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