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龍帝記  作者: 久万聖
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バーレの憂鬱

なぜ、私はここにいるのだろう?


バーレの疑問である。


前日は、使節として赴いている龍王国(シヴァ)の国王リュウヤと二度目の会談に臨めるかと思えば、なんの音沙汰もなく、やけに慇懃な態度をとる執事が、完璧な礼節を持って会談は翌日になったと通告してきたのだ。


そして今日。


会談に臨めるかと思えば案内されたのは、いかにもな闘技場の貴賓席だ。


いや、貴賓席にいるのはいい。


だけど肝心の国王はどこに?


貴賓席の中をぐるっと見回すが、リュウヤはいない。


それどころか、明らかに人間族ではない種族ばかりがいる。


人間の女性に見えるけど、龍の角がある者が3名。

そのうち、椅子に座っているのがリュウヤの婚約者とされる龍の巫女なのだろう。


そして別の角のある種族が3名。

この辺りでは見ない服装をしており、纏っている雰囲気が明らかに違う。

随員(おとも)のひとりに確認すると、


「おそらく、鬼人族(オーガ)ではないでしょうか。」


との答えが返ってくる。


鬼人族と聞いて背筋が寒くなる。


遥か東方を拠点とする豪腕怪力の種族であり、その戦闘能力は恐ろしいものがあるという。


100人いれば万の大軍に対峙できるとか、ひとりで城を落とすとか、恐ろしい噂ばかりが知られている。


その隣には、山羊のような黒い色の角と、蝙蝠に似た翼を持つ者たちがいる。


「あれは、まさか悪魔?」


そう呟いたとき、背後から声をかけられる。


「いえ、あれは夢魔族。

ときには、男の精を奪う者たちですわ。」


振り返るとそこには妖艶な美女が、ふたりの供を連れて立っている。


「あ、説明、ありがとうございます。」


思わず思いっきりへりくだって挨拶をしてしまう。


「カルミラ様。早くお席に着きませんと、始まってしまいます。」


美女は供の言葉に鷹揚に頷くと、自分にあてがわれている席へと向かう。


「カルミラ?!

まさか、伝説の吸血姫(ヴァンパイア・プリンセス)か?!」


伝説ではひとりで一国を滅ぼしたとか、眉唾としか思えないが逸話ばかりだが、先程の美女はまさしく傾城の美姫とは言える。


さらに向こうの席にはーもはやはっきりとわかる距離ではないーエルフやらドワーフやらがいる。

おそらくは、その中に両アールヴやドヴェルグもいるのだろう。


明らかな場違い感に、バーレたちは小さくなる。


そこに後ろから扉を開ける音とともに、


「早く!早くしないと始まっちゃう!!」


はしゃぐ声とともに、数人入ってくる。


「ユーリャ、はしゃいじゃダメ!

えらい人がたくさんいるんだから。」


「リュウネは気にし過ぎだよ。

早く行こう!」


「ユーリャ様、走らないでください。」


ふたりの後を、どこか気弱そうな青年の声が追う。


「ユーリャったら仕方ないわねえ。」


さらに呆れたような声が続いてくる。


ユーリャ?


確か聖女様の御名前がユーリャではなかったか?


確認しようとするが、大きな歓声があがったために闘技場へと視線を落とす。


戦士らしき者が入場しているが、おかしい。


主催者であるはずの国王が貴賓席に来ていないのに、なぜだ?


すると、リュウヤの婚約者であるサクヤと思しき龍人族の女性が立ち上がる。


そしてよく通る声で言葉を発する。


「リュウヤ陛下。

開始してもよろしいでしょうか?」


「いつでもかまわない。」


「では、鬼人族の3名。

モガミ、キヌ、シナノ。

お前たちはどうか?」


「かまわん!早く始めろ!!」


「わかりました。

では両者。

戦う前の約定、反故にすること無きように。」


ここで大きく息を吸い、


「始め!!」


バーレは混乱する。


なにがどうなっているのか?


闘技場の貴賓席で、観戦しながら会談を行うということは、よくあることだ。


だが、国王が戦士として戦う?


「恥ずかしながら、鬼人族の中に跳ねっ返りがおりまして。

戦って勝たねば、言うことを聞かぬなどと言い出しましたものですから、やむを得ず陛下が相手することになったのです。」


いつの間にいたのか、執事のアスランがバーレの背後にいる。


「そのため、会談を明日に持ち越すことを許してほしい、そう言付かっております。」


「そ、そうですか。

リュウヤ陛下も大変なのですな。」


「いえいえ、決着はあっさりとつくでしょう。

ですが、その後が大変なのですよ。」


アスランは小さく微笑を浮かべるが、バーレにはカエルを前にした蛇の笑いに見えていた。


ヨーロッパあたりでは、サッカーを観戦しながらの会談なども行われており、Jリーグ発足当時の川淵チェアマンは、日本もそうなってほしいと発言しております。


実際はというと、まだまだそこには至っておりませんね。

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