リュウヤの魔法実験
元教皇バーレとの短い接触の翌日。
リュウヤは大森林北東部の、やや拓けた地にいた。
同行しているのはシヴァにサクヤとシズカ、トモエにナスチャ、
フェミリンスらリョースアールヴの一部。
リュウヤ付きとなっているアルテアをはじめとする侍女たちに、宮廷魔術師であるヴィティージェとその弟子達。
そして近衛の者たち。
夢魔族のライラに、吸血姫カルミラとその主だった部下達もいる。
執事であるイシドール・アスランは、バーレ一行に対応させるために残している。
この地に来たのは魔法の実験のためなのだが、そのリュウヤの言葉に興味を示した者たちがついて来たのだ。
この地を選んだのは、領土の奥まった場所にあることと、荒野となっており生物の生息があまり確認されていないこともある。
この世界の魔法は、術者がいかに強くイメージできるかによらのだという。呪文というのは、それを補完するためのものであるのだとか。
リュウヤが行いたかったのは、無詠唱時と詠唱時での発動時間の違いの検証と、威力の違いの検証である。
だから、まずは簡単な魔法で実験を始める。
的となる木人形を設置して、まずは火球の魔法を無詠唱で発動する。
簡単な初級魔法とはいえ、リュウヤクラスの巨大な魔力の持ち主だと、まるで上級魔法のような破壊力になる。
「次は詠唱だな。」
とはいうものの、詠唱というものを普段行わないため、ヴィティージェにレクチャーを受けることにする。
"炎よ、敵を撃て"
多少とはいえ、イメージが強化されるせいか発動も早く、威力も上がっているように見える。
「詠唱した方が早く威力も上がるようだが、問題は相手に聞かれると意図していることがバレてしまうことだな。」
「確かにその通りです。
陛下ほどのお力があるならば、詠唱などしなくても十分な結果を得られるでしょう。」
ヴィティージェがそう感想を述べる。
実際、リュウヤクラスとなれば詠唱はいらないだろう。
それだけではない。
基本的なことのみとはいえ、リュウヤは現代世界の科学知識を有していることもあり、よりはっきりとしたイメージを描けるため、その破壊力や発動時間は他の者の無詠唱時よりはるかに早い。
そして、ここからが実験の本題になる。
一般に魔法には属性があるとされる。
代表的なものとして、「風・土・火・水」の四属性が知られている。
「まずは、風から始めるか。」
リュウヤを中心にして風が吹き、砂埃が巻き上がる。
それは徐々に激しくなり、竜巻へと変わる。
竜巻の直径も数メートルから数十メートルへと大きくなる。
「竜巻を発生させるのが目的?」
カルミラが呟く。
確かに竜巻は大きな破壊力を持っている。
広範囲な攻撃魔法としては有用であるが、実験というには物足りない。
その時、竜巻の上部に光が走る。
その光が地上へと走り、轟音とともに地上に大きな穴をあける。
「竜巻は前段階、本命はこの雷だったのね。」
ライラは感心したように言う。
「でも、どうやって竜巻から雷へと繋いだのかしら?」
サクヤが疑問を呈する。
誰もそれに答えられない、リュウヤ以外は。
「理論は簡単だ。」
そう言ってリュウヤは説明する。
竜巻を発生させたのは、一緒に巻き上げられた砂や大気を高速で摩擦させ、静電気を発生させるため。
上空で発生した静電気を、一気に地上に向けて放電させたのが、今の魔法である。
「威力は見ての通り、相当なものがあるが制御が難しい。
実用化はまだ先だな。」
リュウヤはそう言うが、標的を考えなくて良い場合などは使えるのではないか?
例えば戦争や、攻城戦。
ナスチャはそう口にしてみるが、あっさり否定される。
「その状況で発動したら、前段階の竜巻で全てが終わってる。」
竜巻の破壊力を考えれば、この世界の建造物で耐えられる物は存在しないし、軍でも余程の力を込めた集団防御魔法でなければ耐えられない。
「なんだ、使い道のない魔法ってことか。」
ナスチャの言葉は正しい。
余程の敵でなければ使えない魔法なのだ。
カルミラとライラは、小さく笑みを浮かべている。
「この御方は、本気でその余程の相手と戦うおつもりだ。」
と。
これまでほとんど表に出なかったハーディ様が、表に出られた理由がわかった、そう感じたのかもしれない。
さらにリュウヤの魔法実験は続く。
今度は水を使った魔法実験である。
水を高圧で発射する事で物を切断してみせる。
ダイヤモンドの加工にも使用される、ウォーターカッターの原理を魔法で再現したものだ。
この魔法に食いついたのが、サクヤだった。
根掘り葉掘りリュウヤに質問しており、リュウヤのレクチャーで練習も始めている。
それを見て、シズカやトモエも練習に参加する。
リュウヤとしては、別々の属性を組み合わせた魔法実験も行いたかったのだが、教えることになってしまったのだった。