3人の処遇
カルミラ、モミジ、ライラの3人とその部下が配下に加わったことにより、その処遇に頭を悩ませることになった。
鬼姫モミジはそのまま軍に配置されることになったのだが、カルミラとライラをどうするか。
それだけではない。
モミジが軍に配置されたからといって、その部下も全て軍に特性があるわけではない。
また、連れてきた部下の人数も問題である。
一番多いモミジの部下が約1万人。
夢魔ライラの部下が約15百人。
吸血姫カルミラの部下が約5百人。
いくらなんでも、一気に増え過ぎである。
ただ、有り難いのが文官に特性のある者や、侍女として仕えていた者たちが多数いたことで、内政の人員や王宮運営の人員が強化されたことである。
そのため、リュウヤ付きの侍女もアルテアに加えて、鬼人族から3人と夢魔族からふたり。吸血鬼族からもふたりが加わり、また吸血鬼族から執事としてひとり付けられることになった。
「モミジのようにわかりやすいといいのだが、カルミラとライラをどうするか・・・」
如何にも武人といった様子のモミジはわかりやすい。
エストレイシアが総指揮を執るのは変わらないが、モミジにも軍の一翼を担ってもらう。
「どんな敵も、蹴散らしてみせましょう。」
とはモミジの言葉だ。
彼女の逸話を聞くと、それがとても控えめな言葉だということがわかる。
鬼人族軍100名で万の軍を一方的に虐殺したとか、ひとりで敵の城を落としたとか聞くと、"本宮ひろ志"の漫画に出てきた関羽かと思ってしまう(注1)。
カルミラとライラには、本人たちから希望を聞くことにする。
「私は、陛下の寝所での御奉仕・・・、うきゃっ!」
ライラが最後まで言い終わる前に、リュウヤの空手チョップが頭に入る。
「却下だ。」
頭を抑えるライラを横目に、
「ライラは、意外かもしれませんが情報収集が得意です。」
夢魔は、淫魔とも称されるだけあり、その能力を持って相手を絡めとり、情報収集を行うのだそうだ。
また、得意とする幻術魔法を使っての拷問による情報収集。
エストレイシアの持つ情報網と合わせれば、より良質な情報を得られるだろう。
それだけではない。
最近、人口が増えてきたことにともない、娼館がいくつも出現しているという。
その管理をライラに行わせる。
娼館街ができるのはある意味仕方がない。
それは、寡婦や身寄りのない女性たち、夫や親族の暴力から逃げ込み、自活するための資金を集めるための場として、認められているということもある。
ただ、問題なのはそこに裏社会の者たちの手が伸び、治安の悪化を招きかねないことだ。
それに、娼館街というのは人身売買の温床となりやすい。人身売買を違法としている龍王国において、由々しき問題を孕んでいるのだ。
それを防ぐための制度作りが必要になる。
「ライラ、やれるか?」
「はい、お任せ下さい。」
先程の態度とはうってかわった言葉だが、
「それで、うまくいきましたら陛下の御寝所に・・・」
身をくねらせ、甘えるような仕草でリュウヤに躙り寄る。
「言っておくが、娼館街の運営だけではなく、国内の治安を裏から支えるのが、本来の役割だぞ?」
「ええ、もちろん理解しております。ですから・・・」
上目遣いで甘えるような仕草、さすがは淫魔とも呼ばれる種族というべきか。
たしかに魅惑的であると同時に煽情的ともいえる。
ここでリュウヤはライラの暴走を止める策を講じる。
「カルミラ。お前には表の治安維持及び、司法を司る役職を与える。」
言わば司法長官という役所である。
現代日本でいうところの警察関連と、裁判関連を司ることになる。
ライラにしてみれば上司となり、このカルミラを認めさせるほどの功績をあげなければならなくなるわけだ。
不満そうなジト目をしているライラに対し、
「謹んでお受けします。」
カルミラは平然と受け取る。
無論、カルミラはリュウヤの狙いを理解している。
ひとつはライラの抑え。
そしてもうひとつ。
「しっかりと治安を維持し、その暁には陛下の褥に・・・」
言い終わらぬうちに、ライラの殺気がこもった視線がカルミラに向かう。
互いに牽制し合わせるのが、リュウヤの狙いである。
そのことを理解していながらも、カルミラはあえて口にする。
よほどの自信家なのだろう。
そして、このふたりはもうひとつの大きな役割を担うことにもなる。
綺麗事では片付かない、裏の役割を。
注1)、三国志をベースにした作品「天地を喰らう」で、ひとりで城を落としてます。