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龍帝記  作者: 久万聖
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夕食会

 リュウヤとウリエの交渉が始まってから、およそ2時間。

 侍女がふたりを呼びに来た。


「夕食の準備ができております。このあたりで休憩を入れられてはいかがでしょうか?」


 フィリップ王子の差し金であることは間違いない。


「せっかくのお誘いだ。受けさせていただこう。」


 立ち上がるリュウヤ。それにわずかに遅れてウリエも立ち上がる。


「アデル、案内を頼む。」


 名を呼ばれた侍女は一礼して、ふたりの前を歩く。

 案内を頼む?食事を摂る場所は普段とは違う場所ということだろうか?

 怪訝な視線をウリエに向ける。


「今日は、兄フィリップの私的な夕食会とさせていただきたく思います。」


 ラムジー四世により、公的には戦争相手となっているため、私的な夕食会とすることで名目を保つ、そんなところか。正直に言えば、馬鹿馬鹿しいことこのうえないが、必要な儀式ではあるのだろう。


 案内された部屋に入ると、すでに龍人族のふたりも来ていた。ふたりはリュウヤが入ると立ち上がろうとするが、リュウヤがそれを制する。


「そのままでいい。君たちは俺に仕えているわけではないのだから。」


 その言葉にフィリップは首を傾げる。龍人族のふたりから聞いた話では、始源の龍を復活させたのはこの男、リュウヤのはず。ならば、このふたりが仕えるのもリュウヤではないのか?


「俺は始源の龍シヴァの盟友であって、龍人族の主ではない。」


 なるほど、このリュウヤという男は龍人族の主になる気はない、そういうことらしい。そうなると、少し困ったことになるかもしれない。そんなことはおくびにも出さず、


「話はまとまりましたかな?」


 フィリップが尋ねる。


「大枠ではまとまりましたよ。」


 ウリエをちらりと見やりながら答える。フィリップもウリエを一瞥する。疲れた顔をしている、ように見える。


「ウリエ殿下も、若さに似合わずなかなかにやり手のようだ。将来が有望ですな。」


 フィリップの口元が緩む。


 どうやらこちらの意図に気づいたようだ。その上でこの発言。意を汲んでのことだろう。少なくとも、敵対関係になることは避けてもらえるということだ。


「細部は今後、しっかりと詰める必要がありますが、それはイストール側の戦後処理が終わってからの方が良いでしょう。」


「わかりました。可能な限り早く戦後処理を済ませ、そちらに伺わせていただきましょう。」


 交渉の話はこれまで。

 あとは酒と食事、雑談を楽しむ時間となった。




「リュウヤ様、ありがとうございます。」


 夕食会後、あてがわれた部屋へ案内されている途中、ふたりから謝辞を言われる。


「勝手にやったことだから、気にしなくていい。」


 同じ船に乗ったのだから、最後まで付き合う必要があるだろう、そう考えただけのこと。


「それと、もうひとつの件もありがとうございます。」


 もうひとつの件。リュウヤが着替えを要求したときに気づいた。

 シヴァの急降下の際の粗相。ガロア湖への着水時にふたりをずぶ濡れにさせることで、自然に着替えさせる状況を作り出し、ずぶ濡れになっていることで周囲にそれを気づかせないようにする。ふたりに恥をかかせないようにするための配慮だ。


「さあ、なんのことだろうな。」


 ふたりは少し見直すことにした。

 三人は同じ部屋に案内される。同じ部屋とは言っても、その中でさらに区切られており、別々にベッドは用意されている。


「急いで戻らなくても良いのでしょうか?」


 当然の疑問だろう。


「シヴァを通じて、すでに念話を送ってある。それに・・・」


「それに?」


「イストール側が帰してくれないよ。手ぶらではね。」


 色々と手土産を用意してくれていることだろう。この地域における大国の面子にかけて。


「手土産、ですか?」


「ふたりの王子はともかく、実際にはあちらから喧嘩を売ったわけだ。その賠償の一部の先渡し、ってところかな。」


 それで相手の心証が良くなれば、細部を詰めるときに役立つ。


「今日はもう寝るとしようか。」


 これ以上のことは、その時でなければわからない。

 それに、慣れぬ力を使ったことでの疲労もある。そろそろ休ませて貰いたい。

 ふたりがそれぞれの寝室に入るのを確認すると、ベッドに倒れ込み、そのまま眠りについた。






☆ ☆ ☆






「疲れたふりをしなくてもいいんだぞ。」


 リュウヤたちが出たあと、フィリップがウリエに話しかける。

 どうやら、最初からバレていたようだ。


「敵いませんね、兄上には。」


「どうだった、リュウヤという男は?」


 少し考えて答える。


「兄上に似ている、そう感じました。」


「俺に?」


「はい。つかみどころがないところなどは、とてもよく似ています。」


 苦笑するフィリップ。ウリエはさらに


「そしてなにより、責任ある立場になりたがらないところなどは、そっくりです。」


 追い討ちをかける。

 これには苦笑するしかない。庶子であることを口実に、王位を辞退し続けているのは事実なのだから。


「あちらの条件はなんだったのだ?」


 これ以上、藪蛇をつつかないように強引に話題を変える。

 ウリエもこれ以上の追及はする気がないらしく、応じる。


「現国王に対する処分はこちらに委ねる。賠償金は求めないが、代わりに食料を貰いたい。戦後処理としては、以上です。」


「たった二つ?」


 さすがに驚きを隠せない。


「はい。食料代は、現国王の私財を使えば賄えるだろうから、賠償金にする金があるならば、戦死傷者と遺族の見舞金にと。」


 それらを行うのは次期国王。その人気取りにもなるというわけか。


「気前が良いものだな。」


「ただ、その後は友好関係を結びたいと。」


 全ては次期国王であるウリエの功績として、イストール王国の歴史に刻まれることになる。フィリップとしては満額以上の回答を得たことになる。


「友好関係を結ぶためにも、早急に国内をまとめないとならんな。」


 龍人族との友好関係。それはこのときに既定路線となる。

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