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龍帝記  作者: 久万聖
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教皇バーレ

大地母神(イシス)神殿総本山は、まさに蜂の巣をつついたような騒ぎになっていた。


「10日以内に来い」となると、その行程だけで5日はかかる。


それも順調にいけばの話であって、通常であれば7日はみて行くものだ。なにせ、途中に砂漠や高地帯があり、さらにトライア山脈という最大の難所が控えている。

トライア山脈北方に広がる森林地帯のエルフやアールヴ、トライア山脈を根城にするドワーフたちへの通行税の支払いも、相当なものになる。


そしてなによりも問題なのは、龍王国(シヴァ)に行く者の人選だ。


目の前で縛られている男。


総本山幹部の誰も名を知らなかった男を、一体誰が使者として送り込んだのかは知らないが、送り込んだ者も責任者のひとりとして連れて行かねばならないだろう。


そして、一度逆鱗に触れてしまった以上、使者は相当な上位者でなければならない。

だが、上位者を派遣するとなると、随員もそれ相応の人数になってしまう。随員が増えるということは、どうしても旅程が長くなってしまう。

かといって、格式を示すためにも随員を減らすことは難しい・・・。


その難題を、ひとりの意外な人物の言葉が解決した。


「私が行く。」


その言葉を発したのは、教皇バーレだった。


「猊下、それはなりません!」


バーレの言葉に驚き、周囲の者たちが止める。


今まで、教皇自らがそのようなことをした事例が無いのだ。また、本当に教皇が動くとなれば、格式としても相当なものが必要となり、時間が足りなくなる。


「自分は、今、この場を持って教皇職を辞する。」


どよめきが周囲に広がっていく。

責任逃れではないのか?

そんな声も上がりそうになるが、


「責任逃れ、そう言いたい者もあろう。

だが、どのみち私は今回の件の責任を取って辞めなければならん。」


確かにその通り。

組織のトップとして、龍王国の逆鱗に触れたこと、その結果、総本山の大聖堂の破壊を招いた。その責任は取らねばならない。


「故に、私は"元"教皇として彼の国に赴こうと思うておる。」


この言葉に、幹部の中でも典礼を主に執り行ってきた者は、過去の事例を思い浮かべていく。


「元教皇が、そのような場に赴く前例はありません。」


「そうだ。だが、前例がないと言うことは、如何様にも解釈ができる、そうではないか?」


定まった格式が無いならば、今回のことが前例として残り、それが格式となる。


「たしかに、そうですな。」


皆が同意する。


「ただ、交渉に関する全権を委ねてもらいたい。

今回の交渉をまとめ、後代に任せることこそが、私の最後の仕事であると、認めてほしい。」


そう言われると、認めざるを得ない。

そうでなければ、

「他に適任者がいるのか?」

ということになる。


それだけでは無い。

この場にいる幹部たちは、誰も龍王国などに行きたくないのだ。

自分が行っている間に、今後に関する重要な案件を勝手に決められたくはない。


そうなると、教皇バーレの提案はとてつもなく魅力的に映る。


かくして、バーレの教皇職退位が決まると同時に、龍王国への使者として全権を委ねることが決まり、その随員の選出が急ピッチで進められる。


そして、残った者は次の教皇を選出するための選出会議の準備へと移行する。


バーレに全権を委ねたことへ、一抹の不安を抱きながら。

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