凱旋
リュウヤらの帰国。
岩山の王宮に近づくにつれて足取りが重くなるのは、トモエたちだけではない。
実のところ、リュウヤも足が重くなっているのだ。
それは、セルヴィ王国とオスト王国から事実上の人質として差し出される3人の王女。
どれもリュウヤが求めたわけではないのだが、それでもサクヤへの報告となると気が重い。
しかも、セルヴィ王国の第一王女アナスタシアの場合、シニシャからはっきりと「輿入れ」と明言されているのだ。
「輿入れ」となれば、手を出さないのはセルヴィ王国との関係上、問題となりかねない。
だが、リュウヤとしては手を出したくはない。
それだけではない。
リュウヤの抵抗もあり、側室制度の進展が遅れているのだ。
後宮をどこに設置して、誰がその責任者となるのか。
また、後宮の管理運営を行う人材の確保と育成。
後宮という性質から女性を登用することになるのだが、実はこれがまた頭痛のタネでもある。
後宮という場である以上、それなり以上に教養が求められることになる。
そうなると、龍王国にはそれに耐えうる女性が少ない。なにせ新興国だ。伝統ある国であれば、そういう人材を育成するシステムが整っているのだろう。
だが、龍王国ではそれがない。
「本当に困ったものだ。」
ボヤキが止まらぬリュウヤ。
ボヤいているからといって、時は止まってくれはしない。
フィラハ砦を通過すると、間も無くサギリとトール族が待っていた。
大きく豪華な馬車が用意されており、リュウヤは促されるままに乗り込む。
この馬車に乗り込んだのは、フェミリンス、ミーティア、タカオ、スティール、マテオ、ラニャ、ナスチャ。
マテオとナスチャが被っているのを除けば、見事に種族が分かれている。
そして、リュウヤらの乗り込む馬車を取り囲むように、トール族が配置され、その手には大きな旗が握られる。
その旗は意匠を凝らした龍の刺繍が施されている。
見たことのない意匠だが、サギリに確認するとアデリーナ・グエッラの案なのだという。
リュウヤが出兵した後に製作され、今日が初御披露目である。
「ご不満でしたでしょうか?」
「いや、見事な意匠だ。
今後は、この旗を我が国の国旗としよう。」
「その言葉は、アデリーナに直接言ってやってください。
とても喜びますよ。」
「そうすることにしよう。」
リュウヤは口元を緩めて言う。
「それから、陛下。」
「どうかしたのか?」
「あ、あの、アレはいったい・・・・?」
サギリの視線の先には、侍女服を着たトモエたちがいる。
「ああ、アレは罰だ。」
「ば、罰、ですか・・・」
リュウヤはサギリに事の次第を説明する。
「それは仕方がありませんね。」
説明を受けたサギリは苦笑しながら、
「それでは、トモエたちはより目立つ場所に立ってもらいましょう。」
そう提案する。
その提案をリュウヤは了承。
そして全軍に宣言する。
「さあ凱旋だ!
皆の勇姿を国民に見せようぞ!」
その言葉に皆が答える。
これより先は、凱旋パレードへと移行した。
ニシュ村へと入ってラスタ村。
そしてラスタ村からアルナック村に入って、岩山の王宮へと向かう。
また、一部の部隊はロマリア村、ピリン村へもパレードを行う。
また、各村々にオスト王国から持ち込んだ葡萄酒を配っている。
今夜は、その振る舞い酒でちょっとしたお祭り騒ぎになることだろう。
リュウヤが岩山の王宮に辿り着いたのは、陽も暮れようとする夕刻であった。
「お帰りなさいませ、リュウヤ陛下。」
笑顔で出迎えるサクヤに、リュウヤも自然と笑顔で返す。
「いま帰った。何も変わりはないか?」
「はい、と言いたいところですが・・・」
なにかがあった、ということだろう。
そして、その"なにか"はすでに想定している。
「大地母神神殿が動き出したか。」